新経済連盟初の関西イベント「KANSAI SUMMIT 2016」開催レポート<後編: Session 3>
新経済連盟にとって関西で初の大型イベント「KANSAI SUMMIT 2016」を、2016年9月6日(火)に大阪・梅田にて開催しました。このイベントは、本年から当連盟が近畿・関西圏で本格的に活動を展開する、そのキックオフとなるものです。近畿・関西を中心に全国から400名の方々が参加され、カンファレンスと懇親会の二部構成の本イベントを楽しまれました。
新経連の初お披露目でもある今回は、登壇者を近畿・関西に縁を持つ当連盟幹部・会員で揃え、司会も関西弁、という「関西づくし」。会場は開会直後から満席で、第一線を走るアントレプレナーたちがぶつかるライブなパネルディスカッションは、最初から最後まで熱く盛り上がりました。その様子を3回に分けてレポートします。
<後編: Session 3 >
■ Session 3:新しい社会のインフラを創造する ~ 起業から現在までの軌跡 ~
KANSAI SUMMIT 2016、トリのセッションは、日本を代表するメガベンチャーのトップ対談。登壇したのは、新経連代表理事を務める三木谷浩史氏(楽天株式会社 代表取締役会長兼社長)と副代表理事の藤田晋氏(株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長)。この二人に対し、モデレーターの新経連理事、吉田浩一郎氏(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長CEO)が日頃から抱く疑問をぶつけます。
- 「上場ベンチャー」から頭抜けて次のステージへ行くには?
- そこからさらにメガベンチャーに育てていくには何が必要なのか?
- 成長の過程で何を見て、何を想っていたのか?そして今何を思うのか?
性格も経営スタイルも大きく異なる経営者2人のざっくばらんなトークから、強い経営者の在り方が見えてきます。以下にその一端を紹介します。
組織を作るために最も大切なもの
二人の答えは揃って、「人」。
三木谷氏は会社の構成員が作る「カルチャー」を重要視しています。楽天の初期の頃、志を同じくする若い人を集め、幹部に登用してカルチャーを作った、合わない人には辞めてもらったとのこと。現在、楽天グループで掲げられている「楽天成功のコンセプト」の5か条もその頃できたそうです。物事を成し遂げる(Get things done)ためには、徹底した営業と緻密な戦略の両方が必要、その両方の要素を含んでいるのが楽天のカルチャーであり、人材としては、物事を成し遂げられる人間なのか否かが重要な判断基準と三木谷氏は語りました。
藤田氏のアプローチはかなり異なります。サイバーエージェントではできるだけ優秀な人材を採用して、その人材にやる気を出させるような事業領域を選んでいくというやり方。入社して間もない若手を社長に抜擢して事業を任せるといったことも積極的に行っています。チャンスを得た若手は死に物狂いで事業を成功させようと頑張り、その過程で自らも経営者として成長していく、明確な「撤退ルール」があるため失敗しても会社のダメージもミニマムで済む。こうして育った事業の中に今の売上げの大きな柱になっているものもあるそうです。
会社を成長させるために
「買収はあまり得意ではない」と話す藤田氏が率いるサイバーエージェントでは、マネタイズできそうな分野で社員が子会社を立ち上げる成長戦略を取っています。藤田氏は、会社は「芸術作品」であるべきで、経営者がカリスマになって「俺の会社」と言ってしまってはダメと話します。子会社を任せる若手社員にも、そのフィロソフィを共有しているそうです。
一方で楽天はM&Aで事業を拡大しています。三木谷氏は2020年を見据えた現時点での買収の判断基準を明確に定めていて、それに沿って決断していくと言います。日本では「吸収合併」にネガティブなイメージがあり、スタートアップは独力で頑張るのが良しとされがちです。ところが、海外のシリアルアントレプレナーは吸収されることも出口戦略の一つと考えている、と日本と海外のアントレプレナーのマインドセットの違いを指摘します。
失敗を恐れない
十戦十勝はありえない、強くても必ず二、三敗はする、失敗しなければ前へは進めない、と藤田氏。得意な麻雀を例にとりながら、経営者は刻々と変わる状況の中で大事な経営判断を瞬時に「息をするように」行っていくもので、失敗について振り向いて悩んでいる時間はない。新しい事業を興し成功させるには、「ハートの熱さ」ではなく「ハートの強さ」が必要と言います。
藤田氏が「ハートが強い」と太鼓判を押す三木谷氏は、「Entrepreneurs never look back. (起業家は後ろを振り向かない)」であり、くよくよしないことが大切と強調します。これまで失敗したことはたくさんあるが、成功したこともたくさんある、重要なのは大義名分があるかどうかであり、大義があれば失敗しても周りがサポートしてくれる、大義がなければ会社の中も外もサポートしてくれない。テスラCEOイーロン・マスクとのランチ時の会話に触れ、彼は周りに何を言われようと自分の進んでいる方向が正しいという確信を持ち、常に前を向いて進んでいると評しました。
一つだけ三木谷氏が後悔するのは、楽天の国際化が遅れたこと。社内公用語を英語化するなど国際化を進めているものの10年間の遅れを取り戻すのは困難で、最初の段階から導入すべきだった。これから新しい事業を始める人は最初からグローバルな視点を持ってほしい、とオーディエンスに呼びかけました。
このセッションの中で、藤田氏が三木谷氏のことを「常に一歩二歩先を歩いて背中を見せてくれる人」と評し、三木谷氏をはじめとするそういう志の高い人たちと一緒にいることで、自分は成長できたと語っていたのがとても印象的でした。
関西において新経連が目指すこと
近畿・福井出身の藤田氏、京都も神戸も大阪も好きで、こっちでビジネスをやれたらといつも思っているが、実際は東京でほぼ事が足りてしまう状況にあり、関西に行かなければならない理由がないと言います。もっと特色や集積効果がほしい、この産業は関西に集まっているから私は関西に行く、となるような新しい産業を皆で作っていければと想いを語りました。
米国ではシリコンバレーに始まり、ニューヨーク、ボストン、オースティン、そして最近はコロラドにもIT企業が集積し、ハブがあちこちにできています。三木谷氏は、日本も東京一極集中型ではなく、関西をはじめ他地域に新産業のハブができてほしいとビジョンを語ります。今は大阪、京都、神戸それぞれに地元の大企業があるものの、それらの大企業とスタートアップの間が抜けてしまっている印象がある、と三木谷氏。関西をハブ化するためには成長していく企業をどんどん作り出して「間」を埋めていかねばならない、そのためには自治体がさまざまな形でベンチャー支援を行い、プラットフォームを整える必要があると言います。新経連の活動を通して、関西の会員の声を吸い上げてプラットフォーム作りに貢献していきたい、と抱負を語りました。
■ おわりに
「KANSAI SUMMIT 2016」 怒涛の3時間のカンファレンスが幕を閉じました。このカンファレンスで語られた内容を振り返ると、「つながること」がキーワードとして浮かび上がってきます。
- リアルとデータ
- ユーザーとプロダクト/サービス
- コンペティターとコンペティター
- 先輩と後輩
- 東京と関西
- 関西圏のプレイヤーとプレイヤー
- 日本とグローバル
- 企業と行政
- 大企業とスタートアップ
一つ一つの「つながり」をどう実現し、全体のつながりを生み出し、散在・山積する課題をどう解決し、どういう未来を作っていくのか。プレイヤーは私たち一人ひとり。「つながること」へ向けての一人ひとりの歩みを、新経連が経済団体として、志の高い人たちを集め力強い「行進」にしていけるのでは、、、懇親会に参加された方々の活発な交流の様子を目にして、そんな可能性を感じました。
最後になりましたが、ご参加いただいた皆様、ネット等でご視聴いただいた皆様、取材いただいたメディアの皆様に厚く御礼を申し上げます。
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