Future Education Live「日本における教育の現在地と今後の展望」を開催しました

2025年7月29日、Tokyo Innvation Baseにて、新経済連盟次世代教育ワーキンググループ(以下、「本WG」)では初となる外部イベント「Future Education Live」を開催いたしました。
本WGでは、「アントレプレナーシップ教育の実現」「教育DXの加速」「教職員の対応力向上」の3軸を中心に、事例収集・情報発信や政策提言を実施。イベントでは、「日本における未来の教育」を題材とし、主にアントレプレナーシップ教育を主題に採り上げました。

  • 開会挨拶

    新経済連盟の幹事であり、本WGの座長のトランスコスモス株式会社 取締役 相談役の船津  康次氏より開会挨拶。新経済連盟では、日本におけるトランスフォーメーションの必要性を認識し、10年ほど前から教育改革に取り組んでいることに触れ、この会でも多くの関係者に交流いただきたいとお話いただきました。
  • 新経済連盟からの政策提言の解説

    続いて、本WG事務局・新経済連盟の小木曽より、教育改革に取り組んでいる背景と、新経済連盟より発表した「次世代教育の実現に向けた政策提言」Ver.2(※)について説明。

    昨年公表した提言からおよそ1年が経過し、政府側でも議論が進んでいる状況を受けて、見解を再構築。提言の3つの柱はアントレプレナーシップ教育の実現、教育DXの加速、そして教職員の対応力の向上であり、教育を現代版にアップデートするという観点から今回の提言をまとめたことについて説明がなされました。

    (※)政策提言の具体的な考え方、全体版についてはこちらをご参照ください。

  • 公的取組について
    続いては公的取り組みとして、文部科学省と経済産業省より、それぞれのアントレプレナーシップ教育推進の取り組みと課題を共有。

    文部科学省からは、科学技術・学術政策局 産業連携・地域振興課 産業連携推進室の金澤奈央氏が登壇し、アントレプレナーシップ教育に関する政策を紹介。

    政府では、2022年を「スタートアップ創出元年」と定め、スタートアップ育成5か年計画を策定したことを背景にアントレプレナーシップ教育を推進していますが、文部科学省は、アントレプレナーシップを「新たな価値を生み出す精神」と定義し、起業家育成だけでなく、あらゆる人々にとって必要な力であるとメッセージを発信しているとのこと。

    文部科学省のアントレプレナーシップ教育は小学生から大学院生までを対象としており、起業家等をアントレプレナーシップ教育推進大使に任命し、授業やイベント行う取組みやプログラムの開発等を実施。

    その一方、大学生におけるアントレプレナーシップ教育の受講率がまだ5.2%であり、世間での認知・関心が低いこと、そして指導教員の不足が課題であると認識していると述べました 。今後は本年3月に公開した日本版EntreComp v1ガイドを基盤に、体系的な授業の構築と実践できる教員の増加を目指しているそうです。このガイドは、EUのEntreCompを参考に策定され、3個のコア・コンピテンシーと10個のコア・スキルを育成する必要があると考えていると述べました。

    本年10月4日(土)には、小中高生、保護者及び教職員を対象にしたアントレプレナーシップ教育の体験イベント「MEXT 秋のアントレ祭!2025」を開催予定@TiB(Tokyo Innovation Base)。

    経済産業省からは、商務・サービスグループ サービス政策課 教育産業室の柳橋幸裕氏が登壇。経済産業省では、民間教育サービスと学校教育の融合部分に注力しており、「共助」による学びの選択肢の多様化を目指していると述べました。学校現場の予算的制約や保護者の負担増を考慮し、企業や産業界との連携を通じて「社会と連携する教育」の実現を目指しているとのこと。
     
    多様な学びを実現するためには、良い民間教育サービスが学校現場に継続的に導入される仕組みが必要であるとし、現在「未来の教室」として、補助金事業、教育スタートアップ支援プログラム、実証事業、そしてイベントを通じたPR活動の四つの柱で取り組んでいることを紹介しました。
  • アカデミアに聞く”アントレプレナーシップ教育”

    アカデミアにおいては、アントレプレナーシップ教育とは、どのように定義され、研究されているのか。このセクションでは、東京大学 産学協創推進本部 スタートアップ推進部より菅原岳人氏が登壇。
    アカデミアでは、アントレプレナーシップは単なる起業家精神に限定されず、起業家的活動やその性質、機能を包括的に捉える広い概念であるとし、ビジネスだけでなく、多様な非営利活動や新規プロジェクトを含む幅広い意味で捉えられていると説明。

    アントレプレナーシップ教育の歴史については、米国で1940年代にビジネススクールを中心に発展し、起業のための教育として進化し、欧州では1990年代より開始。当初は、経済的価値創造を伴う起業活動を指す「狭義のアントレプレナーシップ」として認識されていたが、やがて、機会やアイデアを価値に変える行動全般である「広義のアントレプレナーシップ」に焦点があたっていき、現在、教育現場でも両者が混在することがあると解説。日本では米国モデルが中心であったが、近年はEUの動向を受けて広義のアントレプレナーシップ教育が重視され、2025年には教育者向け公式ガイドラインとして日本版EntreComp v1が発行されたとのこと。

    アントレプレナーシップ教育が起業意思や意欲を高めるかについては、異なる実証研究結果が報告されている段階であると指摘。ロールモデルがもたらす効果についても、己にもできるのだと勇気をもらえる人もいれば、他者と比べて自信を喪失する人もいるそう。教育現場でのアントレプレナーシップ教育の推進においては、ガイドラインや評価、フレームワークを用いることの重要性、科学的な再現性の難しさについて言及。
    今後も、アントレプレナーシップ教育研究の行方が気になります。

  • アントレプレナーシップ教育実例
    続いて、現場で実際にアントレプレナーシップ教育推進に取り組んでいる方々からのプレゼンテーションへ。自治体とスタートアップからお一人ずつお招きしました。

    《自治体の事例》

    まずは、渋谷区教育委員会事務局教育指導課より、柳田俊氏が登壇。探究「渋谷ミライ科」という取り組みを紹介。

    このプログラムでは、文部科学省の授業時数特例校制度を活用して、総合学習の時間をおよそ2倍に増やし、失敗を恐れずチャレンジするアントレプレナーシップに通じる学びを推奨しています。具体的な事例として、自分の好きなことを追求し、駅のジオラマを2年かけて制作している生徒の一例や、企業との共同プロジェクトでゴミ袋のデザイン・販売を行った事例、落書き消しから街の景観改善・学校内の環境改善へと自ら行動を広げていった事例等を紹介。

    渋谷区の教育大綱で示される教育方針、ならびに7つの教育目標には、アントレプレナーシップ要素が含まれ、OECD、文部科学省、経済産業省が目指す方向性と一致しているとのこと。教師がアントレプレナーシップ教育を教えていくことはなかなか難しい一方、個性を発揮して挑戦している教師もいることに触れつつ、渋谷区では、教師の負担軽減のための探究体験ワークショップ、有識者を招いたゼミの開催、教員研修時間の確保など、多岐に渡る支援があることを紹介いただきました。

    《スタートアップの事例》

    続いて、株式会社LX DESIGNより佐藤志穂氏が登壇。同社では、校現場における教員不足と質の課題を解決するため、2700名以上の多様な外部人材を学校教育に招くサービス「複業先生」を提供。オンラインでのマッチングと授業実施までの伴走支援を実施。

    キャリア教育とアントレプレナーシップ教育の境界が曖昧である現状を認識した上で、まずは社会や職業を知ることから始めるアプローチをしているそうで、自己理解や他者理解を深めるためのワークショップ、起業家による失敗談の共有、起業家になったつもりでアイディアを考えるなど実践的な学びをこれまでの一例として提示。これらの取り組みを通じて、教員の働く体験の向上、学校組織文化の変革、地域社会との連携強化を目指しているとのことです。

  • 閉会挨拶

    閉会挨拶は、同WGメンバーの株式会社ウィザスより阿野孝氏。同社は、通信制高校やオンライン大学の運営を通じて、生徒学生が主体性を持って様々な活動にチャレンジできる環境を提供していることを紹介。特にAIの普及などにより大きく変わりつつ教育現場においてアントレプレナーシップ教育は今後ますます重要になっていくことを示した上で、新経済連盟としても、アントレプレナーシップ教育を政策提言の軸の一つとして政府との意見交換を行うなど、引き続き協力して推進していく考えを示し、結びの挨拶となりました。
  • ブース出展
    会場では、多様な関係会社によるブース出展も。交流会の時間では多くの方がブースを訪れ、活発な情報交換が行われました。
    《ブース出展起業》
    ・株式会社LX DESIGN
    ・株式会社ガッコム
    ・トランス・コスモス株式会社
    ・株式会社教育と探求社
    ・日本私立学校振興・共済事業団
    ・一般社団法人 デジタル人材共創連盟

アントレプレナーシップを最前線で研究、実践している方々をお招きし、講演と交流会をおこなった今回。未来の教育を身近に感じていただけましたでしょうか。新経済連盟では今後も次世代教育についての情報発信や政策提言を続けてまいります。

 

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