金融所得課税の強化の検討に対する緊急コメント

2025年11月12日
一般社団法人新経済連盟
代表理事 三木谷 浩史


 一般社団法人 新経済連盟(所在地:東京都港区、代表理事:三木谷浩史、以下「新経連」)は、下記の通りコメントを発表します。

 今般の報道等によれば、ガソリン税の旧暫定税率廃止に関する11月5日の与野党合意において、減税分の代替財源として高所得者層への課税見直しすなわち金融所得課税の強化が盛り込まれ、今年末までに結論を得ることとされている。2023年度税制改正において「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化」として高所得者に対する増税が検討された際も反対声明を公表しているが、富裕層課税強化と称した金融所得課税強化については、改めて以下のとおり明確に反対する。
 
 
 新経連は、アントレプレナーを中心とする経済団体であり、「民でできることは民に」を基本コンセプトとして、「官」が過剰な市場介入をせず、税負担を抜本的に引き下げて日本経済の活性化を促し、経済成長によって税収を増やすことを目指すよう求めている。税負担の抜本的な引き下げは、国内投資の拡大や経済の活性化に向けた取組の基盤となるものであり、税負担の引き下げなくして国内投資の拡大はない。以下の理由から、富裕層課税と称した金融所得課税の強化には強く反対するとともに、2023年度税制改正により今年の所得分から適用されるミニマムタックスを撤廃するよう求める。
 
1.スタートアップエコシステムに悪影響(「成功すれば増税」という起業家へのネガティブメッセージ)
 金融所得課税の強化は、IPOによる株式の売り出しやM&Aによる自社株式の譲渡などの際、企業オーナーがその譲渡益に追加で課税される可能性があり、これから起業しようとしている人や、日本でスタートアップをさらに成長させようと頑張る人への、「成功すればさらなる増税が待っている」という予告にほかならず、極めてネガティブなメッセージとなる。高市政権が成長戦略の検討課題として掲げている「世界に伍するスタートアップエコシステムを作り上げる」に逆行し、政府が現在実行中の「スタートアップ育成5か年計画」にもブレーキをかけてしまう。日本でメガベンチャーを作り、ジャパニーズドリームを創る環境整備が必要不可欠であるところ、逆行する施策は行うべきでない。
 
2.人材のさらなる国外流出を招き、優秀な人材の確保や国内投資の拡大も困難に
 海外では、キャピタルゲインに課税をしない国も増えてきている。成功者に不合理な税を課すことになれば、日本の成功者の海外流出をさらに招いてしまうし、国内外から優秀な人材を確保することが難しくなってしまう。起業家、資本家や投資家にとってリスクを負う魅力のない国になれば、国内投資の拡大も難しくなる。高市政権は、日本の供給構造を強化し、世界の投資家が信頼を寄せる経済を実現することで、世界の資本が流れ込む好循環を生み出すとしているほか、「税率を上げずとも税収を増加させる」という「経済あっての財政」「責任ある積極財政」としているが、金融所得課税の強化は、それらの考え方とは方向性が大きく異なるものである。
 
3.前提事実とされている事項への疑問や懸念
 金融所得課税の強化の検討にあたり前提事実とされている事項には、以下のような疑問や懸念があり、課題の抽出やその解決案が適切かどうか、丁寧なデータの収集・分析と慎重な議論が必要である。丁寧な分析や慎重な議論がないままにターゲットとなる税率や所得額の閾値を上げ下げすることで安易に増税ができる仕組みを作るべきでない。

  • 配当やキャピタルゲインなどの金融所得に対する課税は、法人税支払い後に改めて賦課されるものであり、そもそも二重課税で資本効率を下げている
  • 「1億円の壁」を示すものとして財務省が提示しているグラフは、申告納税者についてのみのデータをもとにしており、源泉徴収による納税者を含めた全体の負担状況が示されていない
  • 世界的に見ても高い所得税の最高税率の据え置きを前提としているが、仮にその最高税率によって何らかの「壁」が存在しているのであれば、最高税率を下げることも検討されるべきである

以上
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