飛騨市 X 楽天『いかにして地域へのファンを獲得するか』

飛騨市 X 楽天『いかにして地域へのファンを獲得するか』
  
  
☆今回のキーパーソン
■都竹 淳也(つづく じゅんや) 岐阜県飛騨市長
筑波大学社会学類卒業後、岐阜県庁入庁。岐阜県知事秘書、総合政策課課長補佐、商工政策課課長補佐、障がい児者医療推進室長等を経て、2016年飛騨市長に就任。何でも前向きに考えて新しいことに柔軟にチャレンジすることがモットー。趣味は音楽鑑賞。
  
  
岐阜県飛騨市は、楽天グループとの連携の下、市のファンクラブ制度を導入しました。
ファンクラブ制度は、2017年1月の募集開始からわずか11か月ほどで、既に会員数1,700人を上回っており、人口わずか2万5千人程度の自治体では極めて異例の状況となっています。
今回は、このファンクラブ制度の成功の秘密と、広がり続けるその成果について、市長から直接お話をお伺いしました。
  
  
――今回はインタビューをお引き受けいただきありがとうございます。飛騨市ファンクラブの仕組みについて、簡単にご紹介いただけませんでしょうか。
  
飛騨市ファンクラブは、全国にいらっしゃる飛騨市を愛する皆さんに、飛騨市の魅力のPRをお願いする制度です。
このファンクラブ制度でまずユニークなことは、会員証に電子マネーの楽天Edyを搭載していることです。ご利用いただいた電子マネー額の0.1%分が企業版ふるさと納税として、楽天から飛騨市に寄附される仕組みになっています。
また、この会員証を飛騨市内の店舗で提示していただければ、様々なプレゼントや割引サービスを受けていただくことができます。
さらに、ファンクラブ会員の皆さんには飛騨市のPR名刺をお送りしています。各会員の方々が、いわば飛騨市のPR大使として、この名刺を友人やお知り合いの方に渡していただければ、その名刺をお持ちの方もプレゼントや割引サービスをお受けいただけます。お渡しいただいた名刺がたくさんご利用いただければ、名刺をお渡しいただいた方にも「PRありがとうプレゼント」をお送りしております。

  

(写真 左:飛騨市ファンクラブ会員証 右:PR名刺)
  
――お話をお伺いしていて、非常にユニークな仕組みだと思いましたが、どのような経緯でこの仕組みを発案されたのでしょうか。
  
もともと、「飛騨市の知名度を高めていくにはどうしたらよいか」という問題意識をずっと持っており、そこからファンクラブの着想を得ました。ファンクラブの制度を設けることで、市の取組に関心を持っていただいている方々の情報を市としても得ることができ、市の側からも積極的にアプローチをしていく土台とすることができます。
しかしそのためには、単に会員となっていただくだけではなく、常に会員であることを意識していただく仕掛け、さらに会員であることを誇りに思っていただけるような仕掛けが重要だと考えています。
この点、楽天Edyが搭載されていることは大きな強みとなります。Edyを日々の生活の中で使用していただければ、毎日会員証を見ていただくことになりますし、その中で飛騨市ファンクラブに所属していることを常に意識していただくようになるのではないかと思いました。
また、先ほどお話したとおり、Edyを使用いただいた額の0.1%は、飛騨市に寄附いただく仕組みになっています。こうして毎日会員証を使っていただく中で同時に飛騨市に貢献されているという気持ちを持つことができ、ひいてはこのことが会員であることを誇りに思う気持ち、顧客満足につながるのではないかと考えました。
  
――企業版ふるさと納税の仕組みを使っている点が非常に面白いと思います。
  
会員メリットとして割引をご利用いただくことももちろん重要だと思いますが、本当に重要になるのは、会員としての貢献意識、飛騨市に触れているという意識だと思います。これが買い物という日常のごく普通のことをするだけで実行できるところがポイントだと思います。
このような仕組みを作り上げるには、楽天さんの中でも様々な部署に協力・調整をいただく必要がありました。楽天さんとは私が岐阜県庁にいたときからの付き合いですが、その当時も、地域の各事業者の売上が伸びることで楽天さん自身の収益が上がる仕組みになっており、楽天さんであれば本気で域内経済の活性化に取り組んでいただけるだろうということが連携の鍵となりました。
  
――PR名刺の仕組みも面白いですね。
  
名刺は紹介状としての機能を持っています。これを配っていただくことで会員の方にさらに協力いただくこともできますし、これを通じて会員の所属意識を高めていくこともできます。
さらに、名刺を使用いただくことで、名刺を通じた会員増加の効果を探ることもできますし、実際に何人飛騨市まで足を運んでいただいたかというデータを取ることもできます。
  
(写真 右:都竹市長 左:ご担当の上田様)
  
――実際、どのような方が会員になられているのでしょうか。
  
人数的には岐阜県内のほか、愛知県といった近隣県が多くなっていますが、東京都を始めとして関東地方からも多くの方々に入会いただいていますし、北海道や沖縄県など遠方にお住まいの方々からも入会いただいています。
年齢層としては、40代、50代が最も多くなっていますが、広く分布しています。
大多数の方々がインターネットから会員申込みをしていただいており、おそらく口コミで広まっているものと思います。
しかし、当初はなかなか会員数が伸びない時期もありました。会員の募集開始は2017年の1月からですが、3月までは二桁の会員数にとどまっていました。議会でもいろいろとご議論をいただきましたが、私としては自信があり、議会の場で1,000人という目標を宣言しました。
  
――実際には会員数は既に1,700人に達しました(注1)。何が会員の増加に寄与したとお考えでしょうか。
  
やはり一番はネット上でのPRではないかと思います。SNSの活用で口コミが広がり、さらに人が集まってくるという好循環に乗せることができました。
SNSには、市長が不在中の市長室で担当がファンクラブ制度をアピールする動画ですとか、祝会員○○人突破といった動画を配信しましたが、それから加速度的に、面白いようにビュー数が伸びていきました。
9月には会員数が、議会で宣言した目標1,000人を超えました。その一方で会員証の発行が間に合わず、市長初の謝罪会見を行いました。危機管理の専門家からは、頭を下げている時間が短すぎるなどの指摘を受けてしまいましたが(笑)
(注1)取材当日(2017年12月19日)、会員数1,700人を達成
  
  
 
(写真 上:Facebook飛騨市Fan’s Page 市長謝罪会見 下:同 会員数1,700人突破時の模様)
  
また、SNSの活用以外にも、ふるさと納税をしていただく際にファンクラブへの入会可否をチェックボックスで回答いただく欄を設けたりですとか、映画「君の名は。」の聖地巡礼(注2)で訪れていただいた方にアプローチをかけたりですとか、様々な試みを行いました。
そのほか、楽天Edyを搭載したからこそ会員になっていただいたという事例もあります。とある特養老人ホームでは、職員の出退管理に楽天Edyを活用されており、どうせならということで、Edyを搭載したファンクラブ会員証を活用いただきました。これだけで100名ほどの方に会員になっていただいています。
ちなみに、飛騨市民の方はもともとファンクラブの対象として考えていませんでしたが、こうして盛り上がりを見せていく中で、飛騨市民からも「自分も会員になりたい」との声をいただくようになりました。こうした声を受け、新たに「ふるさと会員」の制度を別途作ることにしました(注3)。こちらの方も、既に6百数十名の方に会員になっていただいています。
  
(注2)飛騨市の風景は映画「君の名は。」の中で登場し、いわゆる「聖地巡礼」で数多くの方が訪れている。
(注3)ファンクラブのレギュラー会員は飛騨市民以外を対象とする制度。このほか、飛騨市民を対象とする「ふるさと会員」の制度が設けられているが、こちらの制度では市内で会員証を提示してもプレゼント等の特典が受けられない点でレギュラー会員と異なる。
  
――会員の方々はどの程度飛騨市に訪れているのでしょうか。
  
飛騨市内の店舗で会員証を提示されている方は、だいたい月間で40人ほどになっています。飛騨市は秋に比較的観光客が多い特徴がありますが、そのときも協力店舗から様々な反響の声をいただき、それなりの手ごたえを感じています。
観光地によく置いてある割引クーポンでは、たまたま観光に来られた方がクーポンを手に取られて利用されるというパターンですが、会員証を提示いただいている方は、意識的に飛騨市を目的地として選び、実際に足を運んでいただいている方だという違いがあります。この違いは大きいと思います。
  
――今後のファンクラブ制度の課題や、さらなる活用方策についてはいかがでしょうか。
  
今後の課題としては、いかに会員との交流を密にしていくかが挙げられます。そのためファンクラブの集いを企画中であり、まずは1月にも東京で実施する方向です(注4)。
ひとたび会員になっていただければ、そうした方々をベースに市の様々な取組を知っていただいたり、さらにプロモーションを行っていくこともできます。今後は、ファンクラブの集いのような会員参加イベントのほか、会員が企画するイベント等により、会員の皆さんとより近い距離での展開をしていくことで、よりファンであり、会員であることを意識してもらえるようにしていきたいと考えています。
全国的にはあまり知られていませんが、飛騨市は全国でも有数の良質な米の産地ですし(注5)、古き良き飛騨地方の雰囲気を色濃く残している魅力的な街です。
ぜひ今後の飛騨市の取組にご期待いただければと思います!
  
(注4)2018年1月20日(土)、東京で開催。その後も2018年度以降に名古屋で開催予定
(注5)2017年11月に開催された「第19回米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」において、出品された5,551品の中から総合部門最終選考にノミネートされた43品のうち、飛騨地域産は10品、飛騨市産は4品
  
  

インタビューにお伺いした際、本件とは別に飛騨市の新規施策に関する打合せにも同席させていただきました。
その際に感じた市長のアイデアマンぶりとリーダーシップ、さらには関係者の誰もが得るところがある「三方一両得」の仕組みを作り出そうとする姿勢が非常に印象的でした。
こうした姿勢は、今回ご紹介したファンクラブの仕組みや、その会員増加の取組にも大いに表れていると思います。
ご協力をいただきました都竹市長、そしてご担当の皆様方、どうもありがとうございました!
  
  
<本インタビュー及び『地方創生2.0 -先進事例のキーパーソンが語る-』に関するお問い合わせ>
新経済連盟事務局 地方創生PT担当 Email: info@jane.or.jp
  
  
   
   
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