8月24日、新経済連盟が大阪イノベーションハブとコラボして開催するセミナーの第四弾 「OIH X 新経連オープンセミナー」を大阪にて開催しました
8月24日、「東証1部上場企業のトップ対談!~ 大先輩2人に急成長中のHR TechベンチャーCEOが聞く ~」と題し、大阪イノベーションハブとの共催で第四回目となるオープンセミナーを開催しました。
新経連関西支部長・幹事の岡本泰彦氏(ライク株式会社 代表取締役社長 兼 グループCEO )、監査役の高谷康久氏(イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長)という新経連幹部かつ東証一部上場企業の社長のお二方を講師に迎え、大阪を拠点に全国に事業を拡大する気鋭のHRベンチャー経営者である中野智哉氏(株式会社i-plug 代表取締役社長)が、「後輩」の立場からお二方のリアルな体験談と教訓を引き出す、という非常に濃密なセミナーとなりました。
以下、セミナーの抄録となります(文中敬称略)。
――起業した動機・きっかけを。
岡本)
大学生のときだった。
在学中の85年頃、ベンチャーという言葉がまだ一般的でない時代だったが、自分はサラリーマンには向かない、事業を立ち上げてやると心に決めた。その準備として、いろんな企業を見られると考えて、就職先は銀行にした。ただし当初から三年で辞めようと考えており、実際三年半で退職した。
次を考えたとき、大きな組織より小さな組織の経営に近いところで自分を高めようと考えていたところ、知り合いに小さな旅行会社の社長がおりそこに就職した。
そこで何年か働くなかで自分が社長にという声もその間あったのだが、独立して新しく会社を立ち上げた。93年のことだった。旅行会社の裏方として、サイパンや(和歌山の)串本でのダイビングのパッケージツアーなどを企画・販売する会社だった。
ある日、その仕事で関係していた知人に「インターネット」のことを聞いた。新大阪でデモをしているから一緒に行こうと。テレビにアメリカのホームページが映っていた。当時の接続はダイヤルアップ、3分くらいジーコジーコ鳴ってからようやくつながった。担当から、回線さえよくなれば、テレビのチャンネルのようにページが切り替わるようになると聞いた。衝撃を受けた。こんなものが普及したら、旅行のツアー企画などBtoCで直販されてしまうな、と直感した。そこで、より将来性のある新ビジネスを模索し始めた。
そんなとき、同じ知人とゴルフをしているとき、ある大手通信会社の幹部と知り合う機会を得、PHSというものを出すから、付き合いのある旅行代理店に卸して販売してくれないかという話をもらった。規制があったり、良い場所は大手に取られて田舎にしか出せなかったりと、しんどい思いをしながら事業を進めるなかで、販売力が高い人間を養成して売り場に送りこむ、という人材派遣事業を思いついた。携帯電話の業界は急成長しているが人の育成が追い付いておらず、また、通信会社や商社など販売店を営む事業者にはBtoCの販売ノウハウがなかったので、事業は急成長した。
新大阪での「インターネット」との出会いがきっかけだった。この出会いがなければ串本で溺れていただろう(笑)。
高谷)
私は自分で起業したわけでなく、前オーナーから経営を引き継ぐ形だった。
05年にジョインして、06年に社長に就任、09年にマザーズに上場し昨16年に東証一部に市場変更した。なにしろ自己資金で株を買ったので、相当のリスクを取った。会社を成長させるうえでの目標は、上場しかイメージできなかった。上場を目指している当時はITが斜陽の時期だった。実際、当社が上場した09年もリーマンのあおりで不況で、上場を果たした企業は少なかった。
前職は京セラの営業で10年ほど勤めた。京セラ風のアメーバ経営を当社でも実施したら、最初8人ほどだった従業員のほとんどが辞めた。稲盛和夫さんのおっしゃっていることは間違っていないが、地道な教育あってのものであり、下手に真似してはだめ。大変痛い目にあった反省から、その後、アメーバ経営のエッセンスだけ残して、社内教育に努め、定着率が改善されていった。
皆さん、起業したければ、京セラに行くといいと思う。
ネット監視事業が伸びたきっかけは、SNSとブログ、ソーシャルゲームの爆発的普及だ。ネットとセキュリティは伸びると確信していたものの、これはまったく予想していなかった。社長になった頃は、2chなどオタクが書くものでネットにある情報など参考になどならないという風潮だったが、そこから5、6年、今やメディアもネットに書いてあることを無視できなくなった。時代が追い付いてきた感じがしたものだ。
――(岡本氏に)上場まで時間がかかったが、意識は?
岡本)
上場する二年前の03年、売上40億、収益2、3億くらいだった当時のことだ。そろそろ会社をどうするかということで上場が専門の公認会計士に相談したら、①分社化して個人会社として利益追求、②高値で売却、③上場、という三つの選択肢を示された。社員の幸福も考えて上場を選択した。やるなら早くということで、準備含め2年でマザーズに、そこから1年ちょっとで東証一部に上場した。当時史上二番目の早さだった。業績があったので形式要件さえ合えばよかったのだが、数字に対して結果を出さなければならないので、営業はさぞ大変な思いをしたと思う。
――上場してよかったこと、悪かったこと。
岡本)
よかったことは枚挙にいとまがない。当社は東証一部上場企業の中では小所帯だ。しかし、それでも最上のカテゴリーであり、海外に行けばトヨタと同じ扱いをしてもらえるので、会いたい人に会いやすい。それに、すべてディスクローズしているから信用力が高い。保育園事業を例にとると、非上場でやっているところもあるが、自治体としては永続的な施設を望むので信用力を重視するため、当社は認可保育園の設置許可がでやすい。
悪かったことと言えるのかわからないが、社員にストックはあまり出しすぎない方がいいと思う。急に金持ちになると、公私に悪い影響を及ぼしがちだ。当社は最近ストックを出した際は、行使を抑制させるような制度にした。
高谷)
まさに岡本さんがこうして付き合ってくれていることがよかったことだが、上場している社長だからこそ会える方がいる。出会いは自分の経営者人生で最も大事なこと。それが上場によって大きく広がった。
悪かったこと、これは業績を下方修正した際にネット掲示板を見た時だ。監視しきれないほどの罵詈雑言を浴びた。息子が見ていて「こんなん書かれているけどお父さん、大丈夫?」と言われたときはやりきれない思いだった。
[左] 新経連関西支部長・幹事の岡本泰彦氏(ライク株式会社 代表取締役社長 兼 グループCEO )
[右] 監査役の高谷康久氏(イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長)
[左] 新経連関西支部長・幹事の岡本泰彦氏(ライク株式会社 代表取締役社長 兼 グループCEO )
[右] 監査役の高谷康久氏(イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長)
――多くのベンチャー経営者に共通する悩みとして、「右腕」となる経営メンバーの不在がある。どうやって集めたのか、また気をつけるべきポイントは?
岡本)
小さな会社にすごい人は来ない。だから起業家はなんでもできるスーパーマンでないときつい。もっとも、ある段階まで来て可能性が見える企業になってくれば、小さくても面白いから勝負賭けてみようかという面白い人がジョインしてくれるようになる。そうなるまで自分が必死になって働いてそういう人の目に留まるようになることだ。
当社が10数年連続で増収増益をあげ、ステージ毎にそれなりの人が来るようになってきて、ある時期に新卒採用に切り替えた。なりは小さいけれど面白いから来ようという学生を採った。今は違うが、新卒採用を始めた当初は、見込んだ人物にピンポイントでマンツーマンの指導を行っていた。かばん持ちをさせどこにでもついてこさせて自分のしゃべり方、交渉の仕方、何から何まで教え、夜も一緒に食事して、ある意味自分の分身を作ることに努めた。その人物が今、会社のNo.2で派遣の事業会社の社長をしている。その人物が引っ張ってきた同窓の友人というのが、介護の事業会社の社長だ。まあ、父親と子どもみたいなもので、遠慮会釈もなかった。
高谷)
10年のマザーズと昨年の一部、二度の上場セレモニーそれぞれで撮った集合写真を見比べたら、8割がたメンバーが入れ替わっていた。それでも伸びてるならええか、と思っている。個人の価値観が多様化している時代、会社が長く社員を縛ることがいいわけではない。
ただ、替わっていないコアな人物もいる。そういう人物は、えてして自分が迷い悩んでいる時期に出会い、一緒にやろうと言ってくれる人だ。
今の当社のCFOとは、彼の入社以前に5年くらいの付き合いがあった。彼は他社のCFO、私はCEO、違う立場同士悩みを語り合っているうち、お前の悩みはわかる、といってジョインしてくれた。当時上場に向けて壁に当たっていたが、彼のCFO就任以降とんとん拍子に事が進んだので驚いたものだ。
――将来に向け、注目している分野は?もう一回起業するなら、という視点で。
岡本)
新経連でも大きな課題として取り上げているが、人口減少を危惧している。これだけ急激に人口が減っていくということは、すべての国内市場がシュリンクしていくということ。なのに、国は「働き方改革」だと言い、人が減っているのに、今まで以上に働かせないようにしている。長時間働けばいいというわけではないが、人が足らないのに働かないでどうするのだろうと思う。
ではどうするのか、一つは外国人に来て働いてもらうこと、もう一つはAIやロボットが進化して人の代わりをしてもらうことだ。
当社は保育・介護事業をしているが、待遇の良しあし以前に、要介護者が予備軍含めたくさんいるのに、担い手がいない。ちょっとした地方に行くと、そこに老老介護の実態がある。社会に必要とされる企業としては、今の事業とは毛色が違うけれど、介護ロボットの進化には貢献していきたい、そういう市場はものすごく可能性があるのでは、と考えている。
高谷)
すでに着手しているが、セキュリティホールを突く犯罪が蔓延し、これを防止する市場が急成長している。天才的なハッキング能力を持つ人というのがたくさんいるが、これを日本だけでなく海外からもうまく集めてビジネス化していく、能力を正しいことに活かしてもらう流れを作ることを目指している。
北朝鮮はミサイルだけでなく、サイバー攻撃力においても群を抜いており、それこそ世界中を攻撃しまくっている。しかし日本では何万人も人材が足りない状況だ。国家としてこういう事案に対抗していくことが必要なのではないかと思う。昔の家電や車のように、セキュリティを国の一大産業と考えて、支援することが必要だと思う。
――関西のスタートアップと話していると、エンジェル投資家がいないという話に行きつく。経営の秘訣に紐づくと思うが、どういう人物あるいは事業にエンジェル投資をしたいのか。
岡本)
20社ほど、金額は様々だが投資をしている。上場を勝ち負けとするなら、最近も一社上場したが、ほとんどは負け。10戦1勝くらいだ。
投資判断においては、当然、人柄・事業の両方を見ている。
ただ、ピッチに出まくっている人には基本的に投資しない。関西では同じ人ばかりピッチに出ているようだが、そんな暇があるなら社業に専念したらどうか、社員はどう思っているだろうかと思う。
自ら広告塔になるとか明確な目的があるならまだしも、あるいは趣味なのかもしれないが、目の前のちやほや感に溺れて事業上の目標や会社の将来などをおざなりにしているように見える人には出資しない。
高谷)
会社として何度かマイナー投資をしてきたが、事業としてはすべてといっていいほど成功していない。経営者がどんなにいいことを言っても、実現しないのがほとんどだ。しかし人脈を買うというつもりで投資をすれば、ゼロになっても価値はあると思っている。
――会場の方にエールを
岡本)
今日はいろんな属性の方が見えているが、一度しかない人生、どういう場に身を置いていてもどんどんチャレンジをすることが大切。
上場する前は、東証一部の社長とかどんなすごいやつかな、と思っていたが、自分がそこに立ってみると、こんなものかと思う。
可能性は無限だ。
高谷)
上場する前は、自分も座って聞く立場だった。しゃべっている人と座っている人の距離感がすごいな、と10年前には思っていた。
しかし今思うのは、人間全然変わらないということ。中身は変わらず肩書ばかり上がっている(笑)。心を開いて友達になりネットワークを作る、そこにある種の執念をずっと持ってやってきた。これがチャンスを生んできた。
今日のセミナーに来た目的は様々だろうが、ここで得たあのつながりが未来につながった、きっかけはあのセミナーやった、そういう場にするのも自分の力。せっかくだからなにか掴み取って帰ってほしい。
<質疑応答>
――【経営者の方より】新しいビジネスの方向性を発見するための情報の取り方、読み取り方、根底にある考え方など、秘訣は?
岡本)
秘訣は、「出会い」だと思う。今の世の中、情報はあふれかえっているけれど、嘘も多い。個別の話、紹介、こういったことの方がビジネスのネタになる。昔からいう「犬も歩けば棒に当たる」というのは変わっていない。オフィスで考え込んでいるよりも、いろんなところにトップが出向いて行くことが重要だ。
高谷)
ある事業買収がうまくいって株価がどーんと上がったことがある。この買収も日頃から公私でご縁のあった人とひょんなきっかけで意気投合した結果だった。平素、情報にあまりアンテナを立てている意識もないのだが、岡本さんも言うように、社長が行動範囲を広げないと出会いも広がらない。
特に、上の人と付き合うことを勧めたい。下の人と付き合っているのは楽で、上の人といるのはしんどいですけれど、やはり得るものが違う。
――【大学生の方より】企業、経営者が採用する人に求める能力などの変化、今困っていること。
高谷)
企業として求めるものは変わっていない。新卒なら、やはり素直で謙虚で頑張れる人がほしい。
岡本)
変わらず、ベンチャー精神持っている人に来てほしいと考えている。しかし、一部上場して以来、一部だから来たような人が増えている。そういう人は、研修していて最初はものすごく優秀だと思っても、三年も経つと普通の人になってしまう場合がある。
他方、当社は「チャレンジ枠」というのを設けていて、通常採用しないようなレベルでも何か面白味があれば枠内で採用することにしている。ここで採るような人材は、社長面接でも「チャレンジ枠でお願いします!」などと言うような社会性に欠けた人もいる(笑)のだが、こういう人材にかぎって三年、五年も経つと中枢で活躍してくれるのだ。
結果を出せる人は、万事こつこつ誠実に努力し続けられる人だ、という思いは今も昔も変わらない。
――【経営者の方より】事業が伸びる中「壁」に当たるときがある。それを突き破った経験談とそこからの学びを。
岡本)
幸い、大きな壁はこれまでなくスムーズに伸びてきた。その理由は、自分が幹部以下社員にずっと「ビジョン」を語ってきたことにあるのだと思う。
日常は仕事しないで、自分は「Everyday Saturday」なのだと言っている。そんななかでも、三年、五年のビジョンを語り続け、そのたびに何ランクか成長する必要性を説いてきた。そうすると、ビジョンに自分を重ねられなくて辞めていく社員もいるが、意識改革をして成長する社員もいる。自然とフィルタがかかっていくということだ。
高谷)
自分の役割は逆だ。京セラの稲盛さんの影響だが、長期的な目標は立てない。とにかく単月の数字達成にすべてをかけてそれしか考えていない。ハードルや壁を感じる間もなく終わりなき戦いに毎月走り回る―そういう経営システムを社内でひたすら回し続けた。結果、知らない間にアメーバ的なものが社内にしみついてきていると思う。
岡本さんはビジョンを語ると言うが、たぶん社内で私のような役割の方がいるのではないだろうか。
以上
インタビュアーの中野氏ご自身が成長著しいベンチャーのトップ、ご自身の近い将来も見据えてか、きわめて実際的で的を射た質問がぶつけられました。岡本氏、高谷氏も、それに真っ向から応え、ここには載せきれない本音トークを終始展開されました。起業と経営のリアルにあふれた充実したセミナーだったかと思います。特に、お二方ともに、「出会い」を大事にされていることが大変印象に残りました。
また、新経済連盟の幹部でもあるお二方、経済社会情勢を俯瞰しての今後の日本のあるべき論なども、それぞれの立場から提言されました。
笑いあり学びありの、時間を忘れる貴重なひとときとなりました。生でこうした話を聞け、さらに懇親会でF2Fで会話できるような状況は、新経連のセミナー以外ではなかなかないのではないかと思います。
グランフロント大阪7Fを拠点とする「大阪イノベーションハブ」は、2013年に大阪市により開設された「大阪から世界へ」をテーマに起業家や技術者が集まるビジネス創出支援拠点です。
新経済連盟は、関西支部の活動の一環として、本コラボイベントを今後も継続的に開催させていただきたいと考えております。
最後に、大阪市・大阪イノベーションハブの皆さま、ご参加くださった皆さま、そして登壇いただいたお三方に心からお礼申し上げます。
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