中東視察 壮大な国家ビジョン・成長を促進するエコシステムに人知金が集まる
2024年11月17日から20日、新経済連盟(以下「新経連」)はサウジアラビア王国(以下サウジアラビア)およびアラブ首長国連邦(以下UAE)のドバイ首長国、アブダビ首長国に視察団を派遣しました。
新経連が両国に視察団を派遣するのは今回が初めてで、石油産業への依存体質から脱却して産業の多角化を目指し、AIや暗号資産の活用・投資の面で注目される両国を訪問し、その先見性に直接触れることで新規事業開発等の示唆を受けること、また会員企業の両国への進出に向けたネットワーク形成、新規ビジネス連携先を開拓することを目的に、視察を行いました。
三木谷浩史代表理事、松田憲幸理事、井上高志理事、岩田進幹事、内山幸樹幹事を含む会員企業経営者等11名の視察団は、4日間の期間中に2か国4都市を巡り、政府機関や経済特区、証券取引所等17か所で約30名の関係者と面会し、日本企業が次の一手を考えるうえで非常に多くの示唆を得るなど、大きな成果を上げることができました。訪問先の詳細は以下のとおりです。
サウジアラビアやUAEのアブダビでは、収入源が石油に依存している現状からの脱却を図るべく、自国のみならず世界中からスタートアップ含む企業を呼び込む施策を打っています。一方同じUAEでもドバイには石油資源がないことから、サウジアラビアやアブダビに先んじて海外からの企業誘致や高度人材の移住を積極的に進めた結果、従来からの物流業に加えて金融・保険や観光といった新たな産業が急成長を遂げています。その成功から学び、刺激を受けたサウジアラビアやアブダビもそれぞれ新しい取り組みを開始するという、地域間の健全な競争関係が生み出す好循環を目の当たりにする視察となりました。
参加者への事後アンケートでは、5点満点の総合評価で4.5の評価をいただくなど、非常に充実した視察となりました。(感想はこちら)
面会の様子をご報告します。
サウジアラビア
◆投資省ラウンドテーブル 投資補佐大臣との意見交換
[概要]脱石油依存で起業家フレンドリーな国を目指し、今後は外国からの投資をさらに呼び込むことにも注力。起業家・投資家がサウジアラビアに進出しやすいように、オンライン完結のビジネスビザの導入や、経済特区やインキュベーション施設の整備を進める。
◆NEOM Investment Fund CEOとの意見交換
[概要]NEOMはビジョン2030の中核プロジェクトでファンド機能も強化し、実現可能なプロジェクトから準備を進める。独自の規制環境のもと、新しい技術実装の促進を通じ起業家を呼び込む体制を策定中。
◆Qiddiya視察および、Qiddiya Investment Company CTOとの意見交換
[概要]ビジョン2030の一環で展開する、エンタメとスポーツ施設の都市を建設するギガプロジェクト。アニメ好きのムハンマド皇太子の強力なリードの下、デザインと建設が進められている。
砂漠にゼロから建設中の巨大エンタメ施設をバスで巡り、視察団メンバーからサウジ側に多数の質問が寄せられた。
UAE
◆AI・デジタル経済・リモートワーク担当国務大臣 ラウンドテーブル
[概要]世界的に低水準な税率や多様なビザを含むビジネス環境が整備され、世界中から投資家・富裕層が集まる。ドバイ金融市場の時価総額は上昇しており、大型のIPOが相次いでいる。世界中から人材が集まり、多様な文化が共生している。絶対王政下での政治的安定も経済発展に寄与していると言える。
◆Mubadala Investment Company プレゼン
[概要]アブダビ政府が全額出資する政府系投資会社で、2017年に設立。アブダビ投資評議会もMubadalaの一部であり、取締役会は政府関係者とビジネスリーダーにより構成。石油やガス以外の産業に投資し持続可能な収入源を確保することを目指している。現在までのところ世界50か国以上に投資し、アジアへの投資も加速させていく計画。
◆アブダビ投資オフィス(ADIO) プレゼン
[概要]世界中の投資をアブダビに呼び込むアブダビ政府の中枢機関として、民間セクターの成長や経済の多様化に貢献。アブダビの治安の良さ・ビジネスのしやすさといった魅力を世界に発信し、企業、政府機関や投資家、スタートアップハブ、R&D機関、経済特区のハブ機能として「ファルコンエコノミー」*の成長促進を担う存在。*国鳥ファルコンになぞらえて、急速に発展するUAE経済をあらわすことば。
◆アブダビ国際金融センター(ADGM) プレゼン
[概要]UAEが「国際金融センター」として位置付ける経済特区。ADGM内に拠点を置く企業は2000社を超え、うちファンド運用会社は100社以上。英国法が適用され、特に金融関係の起業家にフレンドリーな環境を整備。
◆Hub71プレゼン・施設視察
[概要]2019年に政府ファンドMubadalaの積極的な支援でアブダビ経済成長の一軸としてADGM内に設立したスタートアップアクセラレーション施設。スタートアップや起業家、投資家が集まるハブとして機能。スタートアップ同士や投資家とのネットワーク拡大、海外進出などを支援。
◆MGX リーダーシップとの意見交換
[概要] 政府系投資会社のMubadala Investment CompanyとAI企業のG42がパートナーとなって設立した新会社。UAEをAIのグローバルチャンピオンに育てることを目指し、AIのエコシステム全体への投資を行う。
◆ドバイ・マルチ・コモディティ・センター(DMCC) CEO意見交換・施設視察
[概要] 2002年に設置された、文字どおり多彩な商品取引を可能とする世界有数の経済特区。主に宝石、貴金属、コーヒー、エネルギー関連商品に強みを持つ企業など約25,000社が集積し、190以上の国から約10万人が就労・居住している。この成功を土台としてDMCCクリプトセンターを開設し、仮想通貨・ブロックチェーンを軸としたエコシステム構築中。既に600社以上の企業が集まっている。
◆VARA MD・CEOプレゼン・意見交換
[概要]2022年設立。仮想資産業専門の規制機関としては世界初の存在。ドバイの特別開発区域および経済特区を含むすべてのゾーン(ドバイ国際金融センターDIFCを除く)での仮想通貨関連活動の主要な規制当局として、リーダーシップを発揮し業界の議論をリード。他の業界関係者と連携しながら教育や支援を行う。
◆DFM ドバイ金融センター CEOプレゼン・意見交換
[概要]ドバイ金融市場は中東およびアフリカ地域において重要な証券市場の一つであり、投資家の半分を海外投資家が占める。株価指数(DFMGI)は2024年末には対前年比60%上昇すると予測されるほど活況を呈しており、IPOを目指す経営者に対して数年前から手厚いサポートを行っている。
4日間の視察で面会した閣僚やCEO級の皆様による熱量の高いプレゼンテーションを通じて、サウジアラビア・UAEにおける脱石油戦略の全体像や、世界中から人や企業を集める壮大なビジョンと、そのもとで展開される様々なプロジェクトに触れ、視察団一同大変な刺激を受けました。
今回の視察を機に、両国の関係者との連携を開始するなど、視察団メンバーの9割以上が現地への進出を検討するなど(進出済含む)、非常に大きな成果を伴う視察となりました。最終日にはドバイ郊外の砂漠に赴き、参加者一同で夕食会を行い、視察を振り返りながら親交をさらに深めることができました。
新経連としては、今回の視察を通じた学びを政策提言を含めた今後の活動に大いに活用していきます。
参考① 参加者のご感想
- グローバルで人を惹きつける環境をとことん突き詰めて作り、それが成果として現れている所を見られたのも大変参考になりました。我々のような海外からの訪問者を歓迎してくれる雰囲気、自国の魅力を語る時の熱量の高さ。また、それが必ずしも長年その国にいる現地の方々だけでなく、海外から集まってきている方々だったりする点も、非常に参考になりました。
- サウジアラビア、UAEともに、専制君主制もしくは、専制君主制に近い形態での国の運営による勢いでした。これが、創業社長が率いる会社の特徴と重なり、ビジョンを掲げて、そこに向かって国や会社が一つの方向に向かっていける原動力になっていると言う事を肌感覚で感じられたのは、今後の自社の会社運営にも活かせる経験となりました。
- 入念なプランニングと最高のホスピタリティ、事前資料の充実度など最高の視察ツアーでした。
- 新経済連盟に加入していなければ体験できないことだと思います。
- 私は他の参加者の方々と違い、ファウンダーではないと言うところに、参加する際のハードルの高さを感じましたが、逆に参加させていただき、寝食を共にできたことで、皆さんの思考の仕方や行動の仕方など、とても勉強になる貴重な機会でした。