会員セミナー「LGBT等性的マイノリティへの理解促進」第2回を開催しました
2020年3月10日、会員セミナー「LGBT等性的マイノリティへの理解促進」第2回を開催しました。
今回は、LGBT総合研究所の森永 貴彦 様を講師に招き、国内におけるLGBT等性的マイノリティ(以下「LGBT等」)の生活全般に関する意識行動の実態調査の結果や、その結果から浮かんでくる企業としての課題、職業生活において「どういう取組が性的マイノリティへの理解促進につながるのか」についてお話を伺いました。
なお、新型コロナウイルス感染症対策のため、当日はビデオ会議による開催でした。
講師からは、各々の経験や具体例の紹介のほか、どうやって理解を広げていくかの総論的なヒントを提示していただきました。
講演後の質疑応答の時間では、参加者それぞれの立場から、切実で真剣な質疑・意見が数多く寄せられ、LGBT等への理解促進を中心としたダイバーシティ推進への問題意識の強さがうかがえました。
【講演の概要】
1.LGBT・性的少数者とは ~性的指向と性同一性~
(LGBTをめぐる社会動向)
・2015年以降、各自治体で同性パートナーシップ証明制度の導入が進んでおり、LGBT等に関する理解促進を経営課題として取り組む企業が増加傾向にある。
・一方、誤解や偏見による表現が原因で物議を醸す事案が発生している。
・改正セクハラ指針やパワハラ防止法(労働施策総合推進法)でも、侮蔑的言動やプライバシーに対する配慮が求められている。
・国会においては、野党各党によりLGBT差別解消法案が提出され、与党においてもLGBT理解増進法案の検討が行われている。
(LGBT意識行動調査2019の結果より)
・LGBTとは、性的少数者の総称のひとつ。言葉に対する名称認知は91%と高いが、内容理解は57.1%に留まっている。
・LGBTに関連する重要な性の構成要素は「性同一性(性自認)」と「性的指向」がある。
・性のあり方は、目に見えるものではない。外見や言葉遣い等で勝手に判断してはならない。(※)
※例)ゲイは女性的、レズビアンは男性的、異性の恰好や言葉遣いは同性愛者である等は誤り
・性的少数者の割合は、全国20代~60代の約10.0%。性的指向別では異性愛以外が7.0%、性同一性(性自認)別ではシスジェンダー以外が6.1%という結果。
・調査対象者のうち83.9%が「周囲にLGBT等がいない」と回答。
→多くの人が少数者の存在を認知していないことが判明。
・LGBTのうち78.8%が誰にもカミングアウトしておらず、特に職場では3.0%と特に低いことが判明。
・LGBTのうち、カミングアウトを望む人は25.1%、必要ないと思う人は40.1%という結果。
→カミングアウトできる環境整備だけでなく、望まない人が暴かれない制度設計も大事。
・性的指向・性同一性は秘匿すべき個人情報として扱う。
→不用意な詮索、公表の強要、承諾なき暴露は、訴訟リスクや人命にかかわるため、許されない。
・LGBTのうち、半数以上が「誤解や偏見が多い」と感じており(52.1%)、理解促進を望んでいる(53.4%)。一方で、そっとしてほしいと考える者もいる(43.9%)。
【まとめ】LGBTは「特別扱い」よりも「誤解・偏見の解消」を望む。まずは正しく理解することが重要。
2.企業とLGBTの関係性
・世界のLGBTの人口推計は約4.9億人、消費規模は3.6兆USドルと推計されている。
・LGBTは高い消費力や情報感度・イノベーター気質があり、マーケティング面でも重要な生活者とされる。
・業種に関係なく多くの企業が、LGBTとコミュニケーションを図っており、D&I推進のみならず、マーケティング戦略として取り組む企業もある。
・LGBTに対する理解に取り組む企業の行う商品・サービスは多くの人から選ばれる傾向にあり、LGBTフレンドリー企業は、企業間競争力を持ち、LGBTフレンドリーな企業で働くことに対する就業意欲は高くなり、優秀な人材獲得に大きく影響すると考えられる。
3.ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進におけるLGBTの捉え方
・ダイバーシティとは、個人や集団の間に存在している様々な属性の違い。
・属性の違いには、表層的ダイバーシティ(年齢、性別(身体性)、人種など)、深層的ダイバーシティ(国籍、性的指向、性同一性(性自認)、宗教観、習慣など)が存在。人は多様な属性から成り立ち、表層的な身体の特徴のみ捉えていても無意味。違いに気づきにくい属性に対し、どう理解・活用していくかが組織マネジメントには重要。
・性的指向・性同一性(性自認)は、深層的ダイバーシティであり、推進状況は統計で把握しづらい。企業で行う取組が、無理な見える化やアウティングにつながらないよう留意が必要。
・D&I推進のゴールは、イノベーション創発。D&I推進は、そのためのプロセスに過ぎない。ゴールに向けた必要なアクションは、理解促進フェーズ・価値創造フェーズがあり、各フェーズで順を追って課題を解決していくことが必要。
・理解促進フェーズでは社内資産を整備し(人材の多様化、啓発活動等社内整備)、価値創造フェーズでは社外資産を見直す(多様なニーズへの対応、(商品等における)提供価値の再検証と発見)こと。
4.その他意識行動調査の結果
・非LGBT層の約3割は、LGBTにどう接すればいいのか(29.4%)、どのような配慮が必要か(36.6%)、何が差別になるのか(33.5%)が分からないといった状況。
・否定的言動に関する経験について調べてみると、同性愛者をそれぞれ「レズ」、「ホモ・オカマ・オネェ」と呼んだことのある者が多かった一方、何が差別的と考えるかを検証したところ、カミングアウトを強要することや、暴露することが差別と感じる者がそれぞれ7割を超える結果となった。
・カミングアウトやアウティング、噂話はプライバシーの問題。男らしさ・女らしさを求めたり、結婚の有無を問うことは価値観の問題。トイレ利用や書類の性別記入等については生活上の選択肢拡充の問題。少なくとも、プライバシーには配慮し、価値観の強要を見直し、男女だけでない生活上の選択肢を拡充することが重要。
・職場・学校におけるLGBT向けの施策を調べたところ、研修・啓発活動、相談窓口の設置が多くみられたが、取組がないという回答が約8割に上る。今後あったらいいと思う施策については、相談窓口の設置、同性パートナーに対する平等化、トランスジェンダーのサポートの順に多い。何から取組を始めるべきかを検討する際は、こういったデータを参考にしてもらえれば幸い。
【質疑応答】
Q:LGBTフレンドリー企業は競争力があるというが、過去に勤めていた企業ではLGBT対応に先進的だったところ、競争力のある企業がLGBTフレンドリーであるということではないか。
A:コストのかかる施策はあると思うが、どちらが先ということではなく、多様な者に向き合えるかどうかという点では競争力のある会社は意識が高い傾向にあるのは事実。ただ、設備については制約があるケースがあるところ、ソフト面での対応で努力を行う企業が増えているように思う。理解促進に尽力する企業もあり、必ずしも競争力のある企業がLGBTフレンドリーということでもなく、できることから取り組むことが重要。
Q:日本の教育は同一性を重視、海外の教育は多様性を重視されている傾向。海外で教育を受けた者は多様性に寛容であり、日本は教育制度の見直しが必要ではないかと思うが、見解を聞きたい。
A:日本も少しずつ変わりつつあるのが現状。高等・中等教育ではその兆候があり、小中学校でも、文科省では教師向けに理解を求める通達も出ており、教科書においても様々な性のあり方があることに触れつつある。また、世代間でLGBTへの意識は異なってきており、若い世代は比較的寛容。各世代で持つ価値観を否定せず、各個人の価値観の尊重が何より重要。
Q:同性パートナーの配偶者扱いの規定を考える際、従来の男女による事実婚と比較して、LGBTは福利厚生を利用できるのに、事実婚では利用できないのではないかという不公平感への対処の事例はあるか。
A:同性パートナーに限って制度設計をする必要はなく、事実婚も同性婚も等しく福利厚生を享受できる設計にするのが1つの手段。LGBTを特別扱いする必要はない。不平等が起きないように制度設計すればよい。パートナーシップ証明書を導入している自治体・そうでない自治体があり、ここは対応に悩むところだが、基本的には性善説に立つ必要があり、マイノリティであることを会社に申請してまで不正を働こうとする者は多くないと思料。会社としての判断基準を持ち、対応している企業もある。
新経済連盟は、今後も会員の皆様に有益なセミナーを開催してまいります。