集団的消費者被害回復に係る訴訟制度に関する法案について要望書を提出しました。

2013年3月14日

自由民主党消費者問題調査会会長
船田 元 殿

集団的消費者被害回復に係る訴訟制度に関する法案についての要望書

一般社団法人新経済連盟
代表理事 三木谷 浩史

現在、貴党において審議が進められている標記法案について、重大な懸念事項を有していますので、以下の事項を要望します。

1. 意見

現行提案されている制度については、事業者による柔軟な個別対応や紛争の早期解決をかえって困難にし、健全な事業者に対する濫訴により日本経済に大きな打撃を及ぼす危険性も払拭できないこと等から、拙速に導入するべきではなく、他の方策の検討(現行制度の改善など)を含めて、再度慎重に見直しを行うべきです。

2. 理由

(1) 提案されている「制度設計」自体が下記のような問題点を内包したままであり、上記の点をいかに克服できるのかの具体的な解決策が必要です。事業者にとっては不合理で想定しえないリスクをこうむるおそれがあり事業運営に大きな影響を及ぼします。

  1. 事業者による真摯で柔軟な個別対応や紛争の早期解決が困難になり、消費者にとって有益とはいえない点

    裁判外で自主的な個別対応(ケースバイケースで返金等)を行うと、「非を認めた証拠」として1段階目の手続きで利用される恐れがあり、事業者による判決確定前の個別対応をし難くします。また、消費者からの授権がなく被害者の範囲が不明確のため事業者にとっては規模把握が困難である中で、一段階目の敗訴は事業者に多大な影響を及ぼし得るので徹底的に争うしかなく、紛争が長期化するおそれがあります。

  2. 健全な事業者に対する濫訴の危険性がある点

    対象事案の範囲が広くあらゆる事業者がターゲットになり得ます。「勧誘を助長する者」という極めて外延があいまいな者が対象事業者に含まれています。適格消費者団体は低額の訴訟提起費用を払うだけで訴訟可能です。適格消費者団体は勝訴すれば費用回収に加え報酬を得ることができる一方、敗訴しても不利益はほとんどありません。

  3. 集団的被害者救済の本来の出発点と矛盾している点

    そもそも、本制度の出発点は「救済すべき消費者被害が発生していること」にあり、被害にあった個々の消費者の請求権をまとめ被害救済を図るという性格のものであったはずです。個別の委任を受けずに個々の消費者被害や請求権の具体的な内容が明確にならないままで訴訟が進行するのは、その出発点に対してかけ離れており、係争利益の把握が十分できません。

  4. 制度自体の不公平性

    事業者側が勝訴の場合は判決効は個々の対象消費者には及ばないことになっており、応訴の負担があるだけで、個別に訴えられる可能性は残り続けます。

(2) 濫訴防止のための制度が不十分です。

  1. 「特定適格消費者団体が支払いを受ける報酬または費用」について

    報酬目的の提訴は本制度の趣旨に沿わないものであることから、特定適格消費者団体自身が「報酬」を受け取るべきではありません。したがって、あくまで費用のみを受け取ることとすべきです。また、消費者が受けるはずの利益を特定適格消費者団体や弁護士が「費用」として不当に享受することがあってはなりません。したがって、当該費用は、損害賠償請求権等により得られる対象消費者の金員から回収されるものとし、費用については合理的な費用の算定方法と具体的な額の基準(上限を含む)を定めることを明らかにすべきです。また、それらに違反した場合には、認定を取り消す等の措置を講ずることを明確にすべきです。

  2. 特定適格消費者団体の責務について

    理念的な責務規定だけでは、実効性をもった措置になりません。したがって、提訴件数やその敗訴の割合、第1段階で主張した多数性の数と第2段階の手続きに実際に参加した消費者の数との比較など、濫訴を判断するための具体的な基準を明らかにし、それらの基準に合致した場合は、認定を取り消す等の訴訟提起に係る厳しいペナルティを課す措置を講ずることを明確にすべきです。

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