新経済連盟(JANE)幹事/伊地知 天(Creww株式会社 代表取締役)
新経済連盟(JANE)幹事/岡本 祥治(株式会社みらいワークス 代表取締役社長)
2021年1月21日(木)に開催した「【特別オンラインセミナー】 DXが加速する新時代のオープンイノベーション -新規事業創出に、いま何が必要か-」。この記事では、当日の様子をレポートします。
新経済連盟(以下「JANE」)は、2021年1月21日(木)に「【特別オンラインセミナー】 DXが加速する新時代のオープンイノベーション -新規事業創出に、いま何が必要か-」を開催し、多くの方にご参加いただきました。
スピーカーとして、JANEの会員企業の経営者でありデジタルトランスフォーメーション(DX)やオープンイノベーションに豊富な知見をお持ちの以下の4名にご登壇いただきました。
・伊地知 天 幹事(Creww株式会社 代表取締役)
・岡本 祥治 幹事(株式会社みらいワークス 代表取締役社長)
・林 達 様(ストックマーク株式会社 代表取締役CEO)
・中川 祥太 様 (株式会社キャスター 代表取締役)
昨年から続くコロナ禍の影響でDXが加速するなか、多くの企業がビジネスモデルの変革を迫られています。また、JANEにもさまざまな課題を抱えているとの声が会員企業の皆様から寄せられています。
そんな状況を踏まえ、今回のオンラインセミナーでは、新規事業創出に向けて取り組むべき課題と、2021年に打つべき一手について、お話を伺いました。
本セミナーは、前半にJANEのオープンイノベーションプロジェクトチームでリーダーを務めるCreww株式会社の伊地知 天代表と、株式会社みらいワークスの岡本 祥治代表が登壇。新規事業創出に必要な新時代のオープンイノベーションについて、二人の幹事が対談しました。
後半には、文章解析AIで企業のDXを推進するストックマーク株式会社の林 達CEOと、700名以上の社員がフルリモートワークを実施する株式会社キャスターの中川 祥太代表が登壇。DXによる新規事業創出のキーポイントについて、いま注目を集める二人のスタートアップ経営者がプレゼンテーションを行いました。本レポートでは前半のみご紹介します。
【対談】伊地知 天 × 岡本 祥治「新時代のオープンイノベーションについて」
岡本 祥治 幹事(以下、岡本):DXによってオープンイノベーションが加速したと言われていますが、そこにはどのような関連があるのでしょうか。
伊地知 天 幹事(以下、伊地知):一般的にDXは、既存事業をデジタル化して効率化していこうという動きと、ビジネスモデルそのものをデジタル化して変革していこうという2軸が、DXの中にはあると認識しています。
これらを進めるにあたって、自社だけでは難しいので、スタートアップや他の会社と組みながら自社のデジタル化を進めたり、新規事業を創ったりする動きは間違いなく加速していっているという印象です。
DX時代のオープンイノベーションには、中長期のマイルストーンの設定が重要
岡本:なるほど。オープンイノベーションは2010年くらいから徐々に広まってきているとは思うのですが、今までのオープンイノベーションとDX時代のオープンイノベーションは、成功要因や失敗要因は変わってきているのではないかと思っています。DX時代のオープンイノベーションのよくある失敗や落とし穴などはありますか。
伊地知:本質的にはさほど変わらないと思いますが、アナログな会社ではビジネスモデルをデジタルに変革させていく以前に、社内にある様々なデータなどアナログな部分をデジタル化していくところから始めるという段階があると思います。
一般的には「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」と呼ばれていますが、「デジタイゼーション(Digitization)」から始まって「デジタライゼーション(Digitalization)」の方にいき、ビジネスモデルを変革していくという流れがあるので、まずどちらを期待されているのかということを明確にした方が良いと思っています。
ですので、既存事業の効率化をしたいのか、ビジネスモデルの変革や新規事業を創出したいのか、どちらを選択するかというところから始めることになります。うまくいくポイントや失敗例というものは、正直、今も5年前も変わっていないように感じています。
オープンイノベーションの促進もDX推進と非常に近い話で、終わりがないと思うんです。先日、日経新聞で売上高が1千億円以上のDX推進企業でDXの推進に成功と認識している割合は約7% という記事が出ていましたが、結局どこまでやったら満足か、どのような状況が成功かを感じることが難しいと思います。
このため、比較対象は何か、昔の自社の姿に対して今年はどうなのか、来年はどうなのかということを話し合う必要があります。ゴールが「自ら継続的なイノベーションを生み出す組織を作る」ということだとしたら、そこに至るまでの階段がちゃんとあって、その階段のどこに今自分たちがいて、2年後にどこにいる状態を目指すのかという中長期のマイルストーンを設定することができる会社は、すごくうまくいっている感じがします。
弊社では、オープンイノベーションを成功に導くためにゴール設定を7つのステージに可視化して定義しています。(参考:「企業におけるオープンイノベーションの段階を7つのステージで考える」 )
岡本:今の話はどちらかというと大企業がオープンイノベーションをするときにどうするかということがベースにあったと思うのですが、オープンイノベーションを一緒に進めるスタートアップやベンチャー企業側からではどうでしょうか。
伊地知:スタートアップにとっても、やりたいことのスコープが既存事業なのか新規事業なのかを明確にすることが、重要だと思っています。そして、大企業側でマイルストーンの設定がされていない場合、スタートアップ企業が苦労することが多いのではないかと思います。
大企業とスタートアップの溝には歩み寄る姿勢が必須
岡本:なるほど。正直、スタートアップ側から見たら大企業の進め方ってやりづらいと思う場面が結構あると思うんですよ。逆も然りですが(笑)。オープンイノベーションのプロジェクトで、どのようにしてスタートアップと大企業の間にある溝を埋めていくかは、我々も直面している課題でもあります。その辺りはどうお考えですか。
伊地知:そうですね。稟議ひとつとっても両社間で意思決定のスピードが違うということが問題になるとよく聞きますが、実際にはそれは大きな問題ではないことがほとんどです。
大企業には稟議のステップを踏まなくてはいけない組織構造があるので、まずそこをスタートアップ側は理解しなくてはいけないですし、その上で大企業側もスタートアップのスピードに合わせる努力をするという、お互いの前提を意識した上で歩み寄る姿勢がないと、何事もうまくいかないなと感じます。
岡本:そうですよね。スタートアップ側の立場に立つと、ミーティングひとつとっても大きなコストですよね。それが重なると……。
伊地知:そうですよね。ただ最近はオンラインでミーティングができるようになってきているので、コストは削減され始めているのではないかと思いますね。
中堅企業、中小企業とのコラボレーションがホット!
岡本:なるほど。伊地知さんの目からみて、最近DXに関連するようなオープンイノベーションでうまくいった事例や会社、ホットトピックスなどはありますか。
伊地知:前回の緊急事態宣言後くらいから、弊社に問い合わせいただく会社が都内の大手企業ではなくて、地方の中堅・中小企業からのものが劇的に増えました。
これは変革をしなくてはいけないという危機感などからの変化だと思うんですが、スタートアップと一緒にデジタル化や新規事業をやっていきたいと、多くの問い合わせをいただいている状況です。例えば地方にあるネジの製造会社など、今までオープンイノベーションとは距離があったような会社が今ではどんどん新しいことにチャレンジしています。中堅・中小企業とスタートアップ企業とのコラボレーションの取り組みが盛り上がってきていると感じています。
岡本:世の中では、コロナ禍によってオープンイノベーションが止まるという意見もありますが、伊地知さんは逆に加速すると見てらっしゃるのですね。
伊地知:そうですね、蓋を開けてみたら結局加速しているなという感じです。昨年4月、5月はたしかに稼働中のプロジェクトが一旦停止しました。しかし、2020年6月頃からは、 これまでオープンイノベーションに距離があった業種・業態の企業で新しいことにチャレンジしていこうという機運が高まり、新しい需要が生まれてきています。
大企業はマイルストーン設定とログデータの蓄積、スタートアップは地方企業を視野に入れてフェイズごとに組むべき相手を見極める
岡本:なるほど。今回このセミナーにご参加いただいている方は、大企業の視点から見ている方と、スタートアップ側の視点から見ている方、両方いらっしゃると思います。2021年以降のオープンイノベーションをうまくやっていくならば、こういうことに気をつけてくださいとか、先取りでやっておくと良いことなどはありますか。
伊地知:そうですね。大・中堅・中小企業側は先ほど言った中長期のマイルストーン設定。そして、PDCAをしっかり回せるだけのログデータの蓄積ですね。これまでのプロジェクトにも人事異動などがあると、すべてリセットされて一から始めるというケースがよくありましたから、これら2つは意識しないともったいないなと感じます。
スタートアップ企業側の視点からは、地方の中堅・中小企業がスタートアップ企業と積極的にコラボレーションしたいという流れ自体はすごくいいトレンドだと思っています。スタートアップ企業も自社の状況によって組むべき相手も若干違うはずです。例えばプロダクトが既にあり拡販をする段階だと、相手側が大きな顧客基盤を持っている方が良いから大手企業が良いとなりますが、テストマーケティング的な実証をする段階だと大きな顧客基盤とかいらないわけですよね。
それよりも、スピーディーに実証実験ができればいい。そう考えると、小さく実証実験をしてデータを貯めていくという段階だったら、むしろ地方の中堅企業と組む方が良かったりする。そういう意味で、スタートアップ企業のコミュニティがどんどん拡がっているということがとても良いことだと思っています。
岡本:確かに地方で頑張っている中堅企業からしてみると、東京で頑張っているスタートアップ企業と接点を持つ手段が正直なかなかないですよね。そういうところを、(Crewwは)繋いでいるということですよね。
伊地知:そうですね、これからは私たちも一層力を入れていきたいと思っています。
パートナーシップ戦略は誰に聞くか
岡本:この会社はオープンイノベーションをうまく仕掛けて、ステップアップしていったなというスタートアップ企業やベンチャー企業はありますか。
伊地知:上場した後も引き続き僕らのプラットフォームを使ってくださっているスタートアップ企業もいます。例えば、ギフティさん(株式会社ギフティ 様)は創業間もない頃からずっとCrewwのプラットフォームを使ってくださっているので、成長段階によって組むべき相手を戦略的に考えて経営資源をコラボ相手の企業から獲得するような、戦略的なパートナーシップの考え方をしていたのだと思いますね。
岡本:ちなみに、パートナーシップ戦略を誰かに相談しようと思ったら、スタートアップ経営者はどういう人に聞けば良いのですかね。
伊地知:結局、ベンチャーキャピタルの資金の出し手は大手企業が多いので、スタートアップ企業のこともわかるし大手企業のこともわかるという点でいうと、リードインベスターであるベンチャーキャピタルに一度相談してみるのが一番いいとは思います。そうじゃなかったら、僕らのところ(Creww)でも岡本さんのところ(みらいワークス)でも良いのでは(笑)。
「前例がない」には「体験」で実例を作る
岡本:プロジェクトを進めるうえでは、いわゆるお堅い企業とスタートアップ企業という全く異なる文化を融合させていかなくてはいけないと思うのですが、お堅い企業でオープンイノベーションを担当している方々は、決裁権者の方々にどのように説明していけば良いのでしょうか。
伊地知:難しいですよね。でも、やっぱりそういう社風による部分って、いろんなところでひずみがありますね。決裁権者の方へ担当者が論理的に説明するのはもちろん必要ですけど、一番強いのは「体験」の機会を創ることだと思うんですよ。
「前例がないのでできません」ということはよくあります。でも、必要なことは「今回はイレギュラーだ」という前提で説明し、納得していただいたうえで、とにかく「前例」を作ってもらうこと。実は、この「前例を作る」ということをきっかけに次へ繋がることってすごく多いのです。例えば契約するときに、スタートアップ企業が組む相手企業側の決裁の方法やプロジェクトで扱う内容に、同様の前例がない場合でも、相手企業から「こんなことは異例です」、「今回は特別ですよ」と言われながらもまず1件を通してもらうと、それがその企業の前例となり、その次の年にはスタートアップ企業とも契約しやすくなる。だから、相手企業にとっての「体験」機会を創り、相手企業側の「実例」をどんどん作っていくことが必要だと思います。
オープンイノベーションには「新しいこと VS ガバナンス」のバランスがキモ
岡本:大企業の中でよく聞く「前例がない」という言葉は、不思議な言葉だなと思うことがあります。大企業もかつてはスタートアップの時代があったと思うんですよね。その頃は前例のないことばかりやっていたはずなのに、気づけばそういうことを言う組織になっていってしまう。
私たちのようなスタートアップから徐々に大きくなるフェイズにいる企業では、「前例がない」ということが新しいことにチャレンジすることを阻む理由にならないよう、オープンイノベーションをしっかりできる状態を維持し続けなければいけないと思うんです。そのためには、何に気をつけていくべきなのだろうと個人的に考えています。その辺りはどうですか。
伊地知:岡本さんの会社(みらいワークス)を含め、上場されている会社には当然期待されているガバナンスもある中で、どこまでフローを壊して例外の対応をするか。
これはバランスの話だと思うので、クリティカルな部分は絶対に曲げるべきではないと思います。でも、クリティカルじゃないことの方が多いと思うので、そこは新しいチャレンジをするために新しいルールを作るのが、誰にとっても良いのではないでしょうか。既存事業がある中で新しいことを始めることって、やっぱり簡単なことではないですよね。
岡本:うちの会社(みらいワークス)だと新規事業に関しては、私が部長となっているんですよ。新規事業は意思決定の連続なので、今の我々の規模だとそうした方が早いんです。
弊社はオーナー企業なので、オーナーシップを持ちながら、社内管理体制の構築というバランスがすごく難しいです。大企業の中で稟議があるということは、ガバナンス体制がきちんと構築されているということですよね。
「新しいこと VS ガバナンス」。このバランスをうまく取っていくことがオープンイノベーションを進める上ではキモになっていきそうですね。
伊地知:事業会社の場合は特にそうだと思います。
岡本:そういった意味では我々も自分たちでオープンイノベーションを進めていかなければならないですし、Crewwさんも我々もさまざまなプレイヤーと組んで仕掛けていかなくてはいけない立場だと思います。これからもオープンイノベーションがどうしたらうまくいくのか多くの方にお伝えしながら、2021年はオープンイノベーションがもっと広まるような年にしていきたいと思います。
伊地知:精一杯頑張ります!
----最後に、岡本幹事から本セミナーの締めの言葉をいただきました。
岡本:オープンイノベーションは全然新しくない概念だと思いますが、これだけうまくいっていない状況があることを踏まえると、だからこそチャンスは眠っていると思います。そして、スタートアップ企業と大企業がお互いをうまく活かしていくことが大切です。スタートアップ企業と大企業それぞれの良い部分の融合が進んでいくのを我々も願っていますし、支援を手がけていければと思っていますので、いつでもご連絡いただければと思います。本日はありがとうございました。
----和やかな雰囲気のなか、4名の経営者の方々を迎えてDXやオープンイノベーションについて熱く語っていただきました。参加した多くの方が、今後のDXやオープンイノベーションに関して、ますますスタートアップ企業と大企業の両者の連携が進んでいくことを実感したイベントとなりました。
※本記事では、前半部分のみご紹介しています。
伊地知 天(Creww株式会社 代表取締役 )
15歳で単身渡米。2005年、21歳の時にカリフォルニア州立大学在学中に起業。アメリカで立ち上げた会社は2010年に米大手事業会社へ売却。2009年にフィリピンで創業した会社は創業3年で売却。大震災を機に日本に戻り、2012年にオープンイノベーションのプラットフォーム Crewwを創業。新経済連盟の幹事などITベンチャーのエコシステム構築やオープンイノベーションに関わる多くの組織やプロジェクトに参画している。
【加盟組織・プロジェクト】
・ (社)新経済連盟 幹事
・ (社)情報社会デザイン協会 理事
・ J-Startup 推薦委員(経産省 x JETRO x NEDO)
Creww株式会社
岡本 祥治(株式会社みらいワークス 代表取締役社長)
2000年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュア、ベンチャー企業を経て、47都道府県を旅する中で「日本を元気にしたい」という想いが強くなり起業。12年にみらいワークスを設立後、働き方改革やフリーランス需要の拡大とともに急成長し、17年12月に東証マザーズへ上場。プロフェッショナル人材がライフステージに応じて、「独立・起業・副業・転職」といった働き方、働く場所や時間を自由に選択できる社会創りを目指し、サービスを展開。趣味は、読書、ゴルフ、焼肉、旅行(日本47都道府県・海外は93ヵ国渡航)。一般社団法人新経済連盟幹事、一般社団法人日本スタートアップ支援協会顧問、公益社団法人経済同友会会員、Entrepreneurs‘ Organization(起業家機構)会員。
株式会社みらいワークス
文・編集/佐々木希(ささき・のぞみ)
名前によって損したり得したりしているアラサーフリーライター。Webメディアの編集などを経て2017年よりフリーランスで活動しています。エンタメからビジネス、翻訳案件まで、幅広く執筆しています。趣味は旅、読書、海外ドラマ一気見、猫、新しいことを始めること。