伊佐山 元 幹事 /株式会社WiL CEO「ベンチャーを興そうという社会の勢いを止めないために」【後編】

ベンチャーを興そうという社会の勢いを止めないために【後編】

新経済連盟(JANE)幹事/伊佐山 元(株式会社 WiL CEO)

日本とシリコンバレーを拠点にベンチャー支援を行うWiLは、「“起業をブームから文化”にしたい」というミッションのもと、日本から世界的なベンチャーや産業を興すために、日米のベンチャーと大企業をつなぎ、次世代を担う起業家の育成と大企業の変革を通じて、社会に貢献するチェンジエージェントです。
日米で活躍する共同創業者・CEOである伊佐山 元 幹事に、シリコンバレーのカルチャー、10年先の展望やアフターコロナの日本に必要なこと、その中での新経済連盟(JANE)の役割などをお伺いしました。
前編と後編でお届けします。
前編はこちら

※取材日;2020年5月27日

目次
1.「選択と集中」が不況時の投資トレンド
2.「must have」事業に投資する
3.ヘルスケアシステムのイノベーションが必須
4.経営リソースを分散しリスク管理体制を強化
5.DXで社会の進化を促せるのはJANE
6.ベンチャーを興そうという社会の勢いを止めないために

「選択と集中」が不況時の投資トレンド

-コロナ禍において、日本では一部のベンチャーキャピタル(VC)が投資を引き上げたり、先送りしたりしています。

スタートアップの本質が「社会にある課題の解決にある」と解釈すると、好況であろうが不況であろうが、課題は常に世界中に存在していますし、課題の数だけスタートアップが手掛ける事業も存在します。
好況期は世の中にお金が余っている状態で、VC以外にもCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や投資信託、ヘッジファンドといった、今までベンチャーに投資したことがない金融業までもが市場に参入し、供給過多になります。すると、好況期は「nice to have(あったらいいな)」のサービスを提供するスタートアップにも資金が集まります。

一方で不況下では、「nice to have」は贅沢品と解釈され、「must have(なければならないもの)」、本当に社会に必要とされているものを提供するスタートアップに資金が集まるようになります。コロナ禍であれば、例えば、リモートワーク環境で人を管理するツールというのが「must have」になり、そのような企業には投資が集まる現象が起きます。「選択と集中」が不況時のトレンドとなるわけです。

※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

「must have」事業に投資する

-WiLは日本ではメルカリやラクスル、Smart HR、米国でもAutomation Anywhere、 Asana、Data Robotなど多くの注目企業に投資していますが、目利きのポイントを教えてください。

VCはIQが高い人たちの集団だとか、未来を予測できるとか偶像化されることもありますが、実はわれわれの投資手法は非常にシンプルで、今後10年間で社会がどう変わるか、もしくはどのように変わるべきか、という視点から議論します。当社は2014年にメルカリやラクスルに投資しましたが、その時の私たちのテーマはシェアリングでした。当時のアメリカでは省エネ、無駄をなくそうという風潮が社会背景としてあり、Uberが注目を集め、シェアリングエコノミーが今後拡大するだろうと考えたわけです。日本でも、稼働していない資産を安く提供したり、今ある資産を貸したりすることで、より安価に製品やサービスを提供することができるのではないかと考えたわけです。我々の投資テーマは一言でいうと「無駄をなくす」ことです。

WiLはVCと思われていますが、大企業の無駄を省き、イノベーションを支援することがミッションであり、研究所という位置付けで設立しました。大企業のイノベーションを推進する時に、大企業に最も足りないと思ったのはデジタルツールの導入です。印鑑があったり、稟議書があったり、わざわざ会議室に集まって対面で意見交換をしたり、といった具合で、クラウドやオンライン会議システムを活用すればもっと効率化が図れるのに…という思いがあるわけです。あまりにも非生産的な実態を目の当たりにしたので、業務の効率化を図るべくクラウドサービスを提供するスタートアップに投資しました。その代表例が日本のSmart HR、BizteX 、RevComm、米国のAutomation Anywhere、Asanaなど です。

テーマはすごくシンプルですが、投資先の選択基準はその事業が「must have」なのかどうかを吟味しています。景気が良くても悪くても社会に不可欠で、かつ10年後には社会全体が欲しがるサービスやテクノロジーを持っている会社にだけ投資をしています。

ヘルスケアシステムのイノベーションが必須

-これからの10年、世の中はどのように変化するでしょうか?

コロナ危機でDXが加速し、クラウドシステムやオンライン会議システムを活用しサイバー空間で仕事をするようになりましたが、従来の会社に集まって仕事をする状態を完全に再現できているかというとそうではありません。再現できてないものをどうやってデジタルで再現していくか、これが向こう10年の大きなテーマだと考えています。

もう一つ、日米問わず一番顕在化したテーマはヘルスケアです。従来の病院の制度やヘルスケアシステムがウィズコロナの社会にマッチしてないことが露呈しました。病院での受診ひとつとっても、予約から薬の処方を受けて帰宅するまでに効率化できることがたくさんあるし、コロナ禍においては病院に行くこと自体が集団感染のリスクとなります。家で尿検査を実施し、そのデータをインターネット経由でお医者さんに送り、診断してもらう。薬の処方箋もデータ化して近所の薬局に転送し、直接自宅にデリバリーしてもらう。ウィズコロナの社会では、このような仕組みをどの国も整備しなければならない。ヘルスケアシステムのイノベーションは今後10年間で急加速するでしょうし、進化していかなければならないと思っています。

当日の様子

経営リソースを分散しリスク管理体制を強化

-ウィズコロナ、アフターコロナの社会を見据えて、留意すべき点はなんでしょうか。

様々なリソースを分散する、リスク管理体制の再構築が必要です。これまで製造業は世界的に、生産機能を中国に依存していました。ところが今回、中国が最初にロックダウンしたため、例えば、自動車メーカーに部品が供給できなくなり、生産ラインが止まる弊害につながりました。経済学の原理からするとグローバルに分業するというのは大事ですが、低コストという経済的合理性のみを追求してしまうと今回のような事態を招くわけです。全ての生産機能を一国に依存するのではなく、中国以外のアジアの諸外国にも工場を建設し分散化を図り、よりグローバル化を進めることで、経営機能を停止させるリスクを回避する必要があるでしょう。

もう一つは社員の分散化です。社屋での業務は集団感染のリスクがあり、クラスター感染が発生すれば業務機能が完全に停止します。在宅と出社する従業員を交代制にするとか、従業員の安全確保と経営機能の維持をどのように両立するかが、今後のリスク管理の観点で重要になります。
さらに、リモートワークを中心とした働き方が中心になるだろうと考えると、人財 の採用と育成は非常に重要なテーマとなるだろうと思います。

DXで社会の進化を促せるのはJANE

-最後にコロナ禍におけるJANEの役割をお聞かせください。

私が最も懸念しているのは脱DXへの揺り戻しです。ある程度コロナ騒動が落ち着くと、Zoomはセキュリティ上の危険があるからやめよう、クラウドもやめよう、という揺り戻しが起きるのではと思っています。それでは世界に追いつけなくなるでしょう。これまでも、日本は超高齢化社会だから現金が必要だ、不動産取引には印鑑が重要だ、という言い訳がたくさんありましたが、今が変革のチャンスだと思っています。今こそJANEがDXを徹底的に推進するべきです。
DXを社会に浸透させるために必要なのは規制緩和です。行政側から「これは紙で提出してください」と言われたらそれに従うしかないですし、行政側が電子取引を認めなければ、本質的には何も進みません。法改正を含め行政手続きをデジタル化にフィットするように修正し、官民の両輪で取り組んでいかなければなりません。

ベンチャーを興そうという社会の勢いを止めないために

-緊急事態宣言が解除されましたが、日本経済の回復のために必要なことは何でしょうか?

現在はまず公共機関が潰れてしまわないように、大企業をどう救済するのかということが政府の議論の中心になっていますが、意識しなければならないのは財政の限界があること。健全ではない赤字国債の大量発行をいつまでも続けることはできないので、小さな投資でいかに効果を出すのかということを意識しないといけないと思います。つまり、ベンチャー振興策が日本の経済回復には重要だと思っています。日本国内のVC投資額は、米国の年間約1,300億ドル超(約14兆円超)と比べると規模はまだ小さいですが、リーマンショック後2009年の約875億円から10年で約2,162億円まで伸びてきました。

ところが、このコロナ禍で、事業会社がベンチャーへ投資して、社会的にもベンチャーを支援しながらオープンイノベーションを行っていくという風潮が一気に収縮し始めています。これが最も懸念していることで危機感を強く持っている理由です。もともと欧米と比べてVC市場規模が小さいにもかかわらず、さらに小さくなってしまうリスクがあるので、ベンチャーを興そうという社会の勢いを止めない仕組みが必要だと思います。

-ありがとうございました。

<前編はこちら>

伊佐山 元(株式会社WiL CEO)
2013年8月にWiLを創業し、 運用するファンド総額は約1,000億円。 2020年5月末時点での投資先ベンチャーは、日本国内44社、米国22社、他2社の計68社に及びます。また、パートナー企業(出資企業)に眠る社内IP(知的財産)を活用した新規事業創出 や企業内起業家の育成 にも力を入れています。

株式会社WiL https://wilab.com/

文・編集 / リエゾン株式会社 広報コンサルタント 武元智絵(たけもと・ともえ)
時事通信社、フライシュマン・ヒラードなどを経て渡豪。豪Entrepreneur Education/Diploma of Business修了。帰国後、広報コンサルティングを手掛けるリエゾン株式会社に参画し、PRプラン立案やライティングなどを担当。

リエゾン株式会社  https://www.liaison-corp.com/

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