【前編】弁護士ドットコム元榮太一郎×Visional南壮一郎「変わりゆく世界でSurviveする -日本再生の処方箋-」

Head x Head(ヘッド・バイ・ヘッド)- 新経済連盟(JANE)会員企業の経営者=「ヘッド」同士が語り合う対談企画。3回目のゲストは、弁護士ドットコムの元榮太一郎会長(参議院議員)と、Visionalの南壮一郎社長です。共に成長企業を率いる経営者として大きな注目を集めるお二人に、共通のバックグラウンドである幼少期・思春期の海外経験の影響から、今後の日本社会のあり方まで語っていただきました。以前からお付き合いのあるお二人ならではの、直球勝負あり、笑いあり、そして共感に溢れた濃密な60分。前編・後編の2回にわたり余すところ無く再現しました。

前編と後編でお届けします(後編はこちら

取材日:2020年6月25日

目次
1.ビズリーチからVisionalへ
2.冷戦終結直後のベルリンで抱いた政治への想い
3.イノベーションと国の役割

ビズリーチからVisionalへ

-Head x Head恒例の最初の質問として、お二方にそれぞれ「これは聞いてみたい」という質問を投げかけていただきたいのですが、どちらから口火を切っていただけますか?

元榮 では、私から、単刀直入に聞きますね。南さんはいつ上場するんですか?(笑)

南 これ、よく聞かれます(笑)。その質問から逃げるつもりは全くないのですが、私たちは創業以来、上場についての「解」を模索し続けてきました。ただ創業の原点に立ち戻ると、上場のことを考えて会社を創ってきたわけではないですし、時代がもたらす様々な社会の課題を、ビジネスというフレームワークで解決していくことが自分たちのやりたいことなんです。事業を創り、それを通じて社会にインパクトを与え続けたいという想いが、Visionalにおいては何よりも優先順位が高いのだと考えています。

社外の友人たちからは、上場すると社会から信頼され財務や採用面で選択肢が増え、公の会社としての仕組みも整うと聞いています。ただ、トレードオフとして手放さなくてはならないこともある、と忠告も受けました。当社が当社らしく、事業を創り続けながら、持続的に成長し続けるためには、上場をどう捉えるべきか?会社として、どのような状態になれば、株式市場の期待に応えながら、会社経営ができるのか?そのようなことを自問自答しながら、創業10年強で、1,400名の仲間たちと10以上の事業を創り、ここまで会社をみんなで成長させてきました。

これまで息を吸うように事業を創り、また息を吸うように会社をみんなで成長させてきましたので、上場についてもそうありたいと思います。確実に、自分たち自身が描いてきた上場企業の姿には近づいてきていると思いますし、経営における一つの大きな選択肢として今後考えていきます。

また上場することによって、自分たちが大切にしてきた「事業づくり」の選択肢を増やしていきたいです。今年、物流DXプラットフォーム「トラボックス」をM&Aし、トラック物流領域へ新規参入を果たしましたが、上場企業になることによって、M&Aのような、様々な経営的な選択肢が増えることは楽しみにしています。

最後に、上場すること自体がどうこうではなく、上場しても、志や事業のもとに仲間が集まり、社会が求める新しい仕組みやムーブメントを生み出すことができる会社でいたいです。それが最も難しいことなのではないかと、いつも悩んでいます。

南 壮一郎さん(ビジョナル株式会社 代表取締役社長 )※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

元榮 よく分かりました。確かに、Visionalのように評価の高い企業であれば上場前でも資金調達は可能だと思いますし、そもそも人材事業の会社なので採用力も既に持っていますよね。であれば、M&Aで資金を使えるステージに行くまでは、むしろ未上場ならではの経営の自由度の高さを大いに活かすということですよね。戦略の意味が具体的で良いですね。

 上場することには素晴らしい意味があると思います。ただ、究極的には創業者や経営チームの志と価値観だと思います。我々は大切にしてきたミッションやバリューを「Visional Way」というものにまとめてきたのですが、我々はとにかく事業づくりが好きなんです。イメージでいうと、会社そのものが、シリアル・アントレプレナーのような存在を目指しており、事業づくりを通じて、社会にとって価値があり、正しいと思う解決策をずっと提供していきたいと考えています。

またそんな存在であり続けるためには、自らも変わり続けなくてはならないとも思っています。今年2月に、グループ経営体制に移行し、グループ名を「Visional」に変えたのも、いま一緒に働いている1,400名ほどの仲間たちと共に、新しい会社をゼロから創っていこう、と思ったことが背中を押しました。慣れ親しみ、広く認知も上がった「ビズリーチ」をグループ名として使わなかったことに、とても驚かれましたが、社内のみんなからは「うちらしい」という声が多かったことが嬉しかったです。最高の仲間たちと、ゼロからVisionalという会社の歴史を創りたいと思っています。

いま当社は10以上の多様な事業領域を網羅するサービスを運営しています。元榮さんの弁護士ドットコムにも大変お世話になっている「ビズリーチ」や「HRMOS(ハーモス)」事業を中心としたHR Tech領域の印象が強いと思いますが、最近では、事業承継M&AやSaaSマーケティングのプラットフォームが大きく成長していたり、トラック物流領域やサイバーセキュリティ領域にも積極的に投資しています。また先日、弊社で展開してきた求人検索エンジン「スタンバイ」を、Zホールティングスと合弁化しました。今後大きく成長させていきますので、ぜひご注目ください。

ありがたいことに、創業10年で社名を変えるくらい変化することできましたので、次の10年も、いまこの瞬間、自分も周囲も、全く想像できないような姿になっているぐらい、様々な事業づくりに励み、大きく変わり続けたいと思います。そういう意味では、100年続く会社というよりも、100回変わる会社を目指したいですね。

元榮 ひとつの企業の中に事業部門があるのと、ホールディングスとでは、経営スタイルやトップの役割は変わってきますよね?

 そうですね。経営者にはそれぞれ得意な「型」があると思います。私は新しい事業を立ち上げることが得意で、Visionalグループの大半の新規事業の立ち上げに関わってきました。ですから、自分は、得意分野である事業の立ち上げのみにフォーカスして、立ち上がった各事業のグロースやマネジメントは、社外から集まってきてくれた信頼おける経営者たちにどんどん権限を移譲していこう、と決断しました。また、グループ経営体制の決断も同様の理由です。会社として大切にしてきた価値観をこれからも残していくならば、また、自分も自分らしく多様な事業領域において自分の役割を担い続けていくのならば、そちらの選択の方が正しいと感じたからです。組織における役割分担が明確になり、権限委譲が進む方が、大きな組織においては優秀な人材が集まりやすくなると思います。政治の世界でも参考になれば幸いです(笑)。

冷戦終結直後のベルリンで抱いた政治への想い

元榮 太一郎さん(弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長)※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

南 私からも質問させてください。元榮さんはいつ総理大臣になるんですか?(笑)

元榮 (笑)

 さすがに回答し辛いですよね(笑)。元榮さんに前から聞きたいと思っていたのは、上場企業の創業者であり、現役経営者であるにも関わらず、なぜ政治家を志したのでしょうか?正直、初めてその話を聞いた時は、無謀だと私は思いました。特に、素晴らしく成長されている弁護士ドットコムは、会社として大丈夫なのかと。周りからも色々と言われたと思いますが、その判断に至った理由は何ですか?

元榮 起業家の多くがそうであるように、私も社会を変えたいという思いで起業しました。弁護士などの専門家をもっと身近な存在にしたい、弁護士界にありがちな「一見さんお断り」というイメージを変えたいと思って弁護士ドットコムを創業したわけです。しかし、そもそも起業家として、弁護士として仕事をしていて、社会そのものの制度設計にもいろいろ思うところがありました。そこで、社会を変えるという点で、自分の起業家魂を立法府の世界でも活かせたら面白いんじゃないかなと思ったのが直接の理由です。

実は、私が最初に憧れた職業が政治家なんです。中学生の時に父の仕事でドイツに住むことになり、デュッセルドルフの日本人学校に転校したんですが、転校して3か月後にベルリンの壁が崩壊して、翌年、東西ドイツの統一が実現しました。中学3年の春に修学旅行でベルリンに行った時に東西ベルリンの経済格差を見て、政治の力でここまで違いが生まれるのかと思ったことを覚えています。

そして、そのころ抱いた政治への憧れを思い出したのが、ちょうど弁護士ドットコムの上場が近づいた頃でした。一介の会社員の息子で、「地盤・看板・鞄」まるで無しの自分でも、今なら挑戦権ぐらいは得られるんじゃないかと思って、徒手空拳で動き始めました。知人から同世代の国会議員を紹介してもらい、何度か食事を共にして仲が深まってきたところで「チャンスないですかね?」などと話していたら、千葉県で次の参議院議員選挙の候補を一人探していることがわかりました。それで、やらない後悔よりも、例え負けてもやった後悔の方が良いと思って手を挙げたということです。

南 なるほど。「やろう!」と思ったのは上場前後だったんですね。

元榮 そうですね。思いとしてはずっと頭の片隅にはあったんですが、本当にやろうと思ったのは上場前後です。立候補の記者会見は上場の半年後でしたから、私も久しぶりに自分で「無茶しているな」と思いました(笑)。実は司法試験も大学卒業後に受けているんです。特に当時は就職氷河期でしたから、退路を断って落ちたら無職という状況で敢えて挑戦しました。その時に比べたらよほど良い状況で挑戦できると思いました。

それに過去を振り返れば、上場企業の経営者を兼務していた国会議員って実は結構いらっしゃるんですよ。例えばマツモトキヨシ創業者の息子で、2代目社長の松本和那さんは社長業と並行して衆議院議員を2期務めました。さらに遡ると鹿島建設の鹿島守之助さんは大臣(*岸内閣の北海道開発庁長官)と鹿島建設の社長を兼務したり、西武グループ創業者の堤康次郎さんも衆議院議長まで務めました。さらに富士急行社長の堀内光雄さんも衆議院議員で通産大臣などを歴任しましたし、一時は派閥の領袖にもなりました。こうした例があるので、自分の挑戦も荒唐無稽ではないだろうと思います。上場の過程で適切な権限委譲を図る中で、ある程度リモートでも会社経営は行けそうだということもわかりました。

南 時間の配分はどうしているんですか?

元榮 国会の会期中は8対2で議員が主です。国民の負託を受けていますので、日中は会社経営にはタッチできません。閉会中も自民党の各種プロジェクトチームや地元の案件もあるので6対4でやはり議員が主ですね。会社の方はオンライン会議やSlack等を使ったりして大事なところはケアしますし、あとは自分の休みを無くすことによって対処している感じです(笑)。

イノベーションと国の役割

-起業家を育てたりイノベーションを生み出したりするうえでの国の役割をどうお考えですか?

元榮 その点で国がすべきことは環境づくりだと思います。特定の産業を国が選んで手取り足取り進めるのではなく、イノベーションを生み出す環境づくりこそが国の役割です。その大前提として、起業したい人をもう少し増やすための施策はあって然るべきだと思います。そのために、永田町や霞が関で起業家を本当に応援したいと思う人を増やしていく必要がありますが、いわゆるベンチャー企業や起業家を支援しようという動きは、全体としてはまだまだだと思いますし、それは私自身も反省しています。

先日も予算委員会の質問で「日本にユニコーン企業をどんどん増やさないといけない。小中学生のなりたい職業ランキングの上位に『起業家』が食い込んでくる時代にならないと、日本から新しい産業は生まれてこないんです!いかがでしょうか?」と発言しましたが、期待したほどの反応はなかったです。イノベーションと起業家育成をプライオリティに置いた政治が必要ですね。

南 それは構造的な問題も絡んでいますね。現代におけるイノベーションとダイバーシティは、重要な相関性があると私は思っていて、人口の大半が日本人というこの国が抱える構造を柔軟に変化させていくことが重要だと思います。元榮さんもおっしゃったように、多様な経験・価値観を味わえるような機会や環境を提供していくことに国は取り組んでもらいたいです。この国の歴史をたどると、海外の何らかの技術や仕組み、また価値観に一部の日本人が触れ、それを日本に持ち帰ったり、活かしたりしたことで社会や経済のイノベーションが起きています。明治維新もそう、第2次世界大戦後もそう、もっと古くは戦国時代もそうでした。

例えば、全ての学校で交換留学生を受け入れるとか、教員免許を取るためには全員1年間の海外留学をしなくてはならないとか、税金の投入方法の工夫もできるでしょう。また教師も、新卒で終身雇用組だけではなく、民間企業での勤務経験のある中途採用比率を増やすなど、子供を育てる、教える側の多様性を広げることで、社会全体が柔軟になり、次の世代のイノベーションに繋がるのではないしょうか。

【後編につづく(後編はこちら)】

南 壮一郎(ビジョナル株式会社 代表取締役社長)

1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレーに入社。2004年、楽天イーグルスの創立メンバーとしてプロ野球の新球団設立に携わった後、2009年、ビズリーチを創業。その後、HR TechのプラットフォームやSaaS事業をはじめ、事業承継M&A、トラック物流、SaaSマーケティング、サイバーセキュリティ領域等において、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する事業を次々と立ち上げる。2020年2月にVisionalとしてグループ経営体制に移行後、現職に就任。2014年、世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。
https://www.visional.inc/

元榮 太一郎(弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長)

1975年米国イリノイ州生まれ。1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1999年司法試験合格。2001年弁護士登録(第二東京弁護士会)。アンダーソン・毛利法律事務所(現:アンダーソン・毛利・友常法律事務所)入所、M&Aや金融ほか最先端の企業法務に従事。2005年に独立開業し法律事務所オーセンス創業。同年、オーセンスグループ株式会社(現:弁護士ドットコム株式会社)を創業し、国内初の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。2016年7月に参議院議員通常選挙に立候補し、当選。2017年6月より代表取締役会長に就任。

https://corporate.bengo4.com/

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