新経済連盟では、事業・経営面で最先端を走るスタートアップを経営し、アントレプレナーとしての行動・挑戦が、新経済連盟の目指す JX(Japan Transformation)*と合致する経営者を表彰する、「JX Awards」を実施しています。
今年の選考委員会にて選出された「JX Awards2026」受賞者のうち、大賞を受賞された株式会社AIメディカルサービスの多田 智裕 代表取締役に、インタビューを行いました。
▼JX Awards2026について
https://jane.or.jp/proposal/pressrelease/28269.html


ーこの度はJX Awards2026 大賞の受賞、まことにおめでとうございます。多田さんは東大病院での勤務を経て、埼玉県で内視鏡専門クリニックを開業されましたが、そこからさらに「内視鏡 AI」に着目し、スタートアップを立ち上げるに至った経緯を教えてください。東京大学の松尾豊教授のお話がきっかけになったと伺っておりますが、当時のエピソードも交えてお聞かせください。
このたびは映えある賞をいただき、大変光栄です。私は2006年、さいたま市で内視鏡専門クリニックを開業しました。転機は2016年、東京大学・松尾豊教授の講演です。「AIの画像認識能力が人間を超えた」という話に衝撃を受けました。内視鏡検査は画像認識そのものです。応用できると直感しました。当時、胃の内視鏡画像へのAI活用に取り組む人はみあたらず、ならば自分でやってみようと考え、研究を始めました。エンジニアの協力を得て、ピロリ菌識別 AIを開発、続けて胃がん検出 AIを開発し論文化に成功、世界初の成果となりました。この技術を研究開発のみで終わらせず実際の臨床現場に届けるべく、2017年9月、AIメディカルサービスを設立しました。
ー御社が開発されている内視鏡 AI 画像診断支援ソフトウェアは、専門医でも見逃してしまう可能性のある早期がんの発見をサポートするとのことですが、AIを活用することで、具体的に医療現場の負担や診断の精度・スピードはどのように変化するのでしょうか。
早期胃がんは専門医でも発見が難しく、2割以上が見逃されているとの報告もあります。胃がんは進行するほど生存率が下がるため、早期発見することは患者の命を救うことに直結します。医師も人間である以上、見逃しをゼロにはできません。当社の内視鏡AIは、これまでに収集した累計20万本以上の内視鏡動画からニーズに合ったデータを選定し開発しています。この内視鏡 AIを活用することで、検査における内視鏡医の負担を軽減するだけでなく、診断精度と安全管理水準の向上、そして内視鏡検査時間も若干短縮されることが期待されています。
ー現在、シンガポールへ展開し、医療機関から数多くのデータを収集されています。専門医が不足する海外での医療格差是正という社会的意義も大きいと思いますが、世界の消化器内視鏡市場において、御社はどのようなポジショニングを確立していこうとお考えでしょうか。
日本の消化器内視鏡は、機器シェアで世界の9割以上を占め、専門医の技量も世界最高水準と言われています。一方で、海外では内視鏡医の数・質ともに不足しており、発見される胃がんの多くが進行がんという現状があります。そのため、内視鏡AIを通じて日本の内視鏡医の目を輸出することの意義は大きいと考えています。当社はこれまでに国内外140以上の医療機関との共同研究を実施し、昨年10月にシンガポールでの販売を開始いたしました。今後も「日本発の内視鏡 AI」を軸に、「世界の患者を救う」というミッションに向けて邁進したいと考えています。

ー現在は診断支援が中心かと存じますが、今後は手術支援や治療方針の提案など、内視鏡医療の全工程をサポートするプラットフォームの構築を目指されています。AIメディカルサービスの技術が普及した社会では、医療現場や私たちの生活はどのように変化していくとお考えですか。
内視鏡 AIが当たり前に全世界の医療現場に使われるようになるころには、検査中に医師がAIと一緒にリアルタイムでダブルチェックを行うだけではなく、問診や検査の前処置、検査後の所見レポートの作成など、あらゆる分野で医師の業務を支援し医療安全を向上させるAIが使われていると想定しています。その先には、AIとロボティクスが組み合わさって、手術支援などにまで応用範囲は広がり、より良い品質の医療を広く世界の方が享受できる未来が来ると確信しています。
ーご著書の中で「6つの行動哲学(目標力、孤高力、傾聴力、徹底力、連帯力、確信力)」について触れられています。エリート街道と呼ばれるキャリアから外れてでも起業という挑戦に踏み切れた背景には、どのような理念や信念があったのでしょうか。
東大医学部を出て開業医からスタートアップ経営者へという道は、あまり前例がないかとは思います。しかし私にとってはやっていることは一貫して、医療の発展に貢献することです。大学では、医師として患者さんに貢献できるよう技術を磨くとともに、大腸がん遺伝子の研究に取り組みました。開業してからは、内視鏡に特化して、苦痛の少ない内視鏡挿入法や合併症を限りなくゼロにするポリープ切除手技の開発など、内視鏡検査技術の発展に取り組みました。AIが画像診断能力で人間を超えたことを知ってからは、苦痛少なく安全に行うことができるようになった内視鏡のさらなる検査精度の向上のために内視鏡 AIの研究開発に取り組みました。臨床医としての経験があったからこそ開発すべきプロダクトの方向性に迷いはなかったですし、周囲と比較せずに自分の確信に従って地道な努力を積み重ねることができました。目の前に起こる課題に一つ一つ取り組むことにより、これまで進んできましたし、これからも挑戦を続けて参ります。
ー御社は日本発の技術で世界市場に挑まれていますが、内視鏡機器のシェアや専門医の技量など、日本の内視鏡分野は世界一だと言われています。日本を拠点として研究開発・事業展開を進めることの最大のメリットや意義について、多田さんのお考えをお聞かせください。
日本の消化器内視鏡分野は、機器シェア・専門医の技量ともに世界最高水準にあり、蓄積されている画像データの質と量も世界一だと考えています。日本を拠点とする最大の意義は、この世界最高水準の「教師データ」と、検査を身近なものにした日本の医療制度にあります。世界の内視鏡医療をリードする日本のデータで開発した精度の高いAIが全世界の内視鏡現場での医療の発展に貢献できるのは間違いなく、全世界において早期胃がんの段階で発見され、内視鏡治療で完治できる方を増やし、世界の患者を救うことができると確信しています。

ー創業から現在に至るまで、研究開発や薬事承認、資金調達など多くのハードルがあったかと思いますが、チームマネジメントや経営面で特に苦労された時期や、それをどう乗り越えたのか教えてください。
内視鏡 AIの製造販売承認を取得するまでの過程には多くのハードルがありました。当時、早期胃がんを検出支援する内視鏡 AIの薬事承認の前例は世界中どこにもなく、どのような検証を行い精度を担保するのか?その検証方法を確立するところからスタートしました。承認取得には私どももスタートアップで知識・経験不足なところが多々あったことも間違い無いのですが、想像以上の時間がかかり、創業から最初の製品の上市まで7年近くを要しました。AI医療機器という前例の少ない領域は、ルールそのものが未整備で、未開拓の領域に新たな道を自分たちで作るような感覚です。ここまで来ることができた要因を挙げるとすれば、専門家の方々とともに目の前の課題を一つずつ因数分解し、できる道筋を見つける「確信力」と、多くの社内外のサポート・協力してくださった方々の「連帯力」の賜物だったと思います。
ー最後に、「世界の患者を救う~内視鏡 AIでがん見逃しゼロへ~」というミッションを掲げられていますが、御社の事業を通じて、世間にどのような影響を与え、究極的にはどのような社会を実現していきたいとお考えですか。
私たちが実現したいのは、専門医の有無や地域差にかかわらず、どの医療現場でも一定の精度でがんを早期に発見できる社会です。日本で培った内視鏡 AIの技術を世界に届けることで、見逃しによって進行がんが見つかるという悲劇を一つでも減らし、より多くの人が早期に治療を始められるようにしたい。そして医師にとっても、AIとの共創によって過重な負担から解放され、本来の診療に専念できる環境をつくりたい。そうした積み重ねの先に、「がんの見逃しゼロ」という社会を実現していきたいと考えています。






