国際女性デー特別企画「グローバル競争に勝つ成長戦略 – 企業が取り組むべき組織変革 -」セミナー開催レポート

 新経済連盟(以下「新経連」)は2026年3月18日、国際女性デー特別企画として、「グローバル競争に勝つ成長戦略 – 企業が取り組むべき組織変革 -」を開催し、会場のフリー株式会社(以下「freee」)本社とオンラインあわせて200名以上の方々にご参加いただきました。(国際女性デー特別企画についてはこちら
 経産省の2040年の就業構造推計によると、日本はAI人材を含む理系・専門職人材が約460万人不足し、文系・事務職が500万人以上余剰になると推測されています。(出所:経済産業省 経済産業政策局「2040年の就業構造推計(改訂版)について」)また昨今、様々な観点から、現状の日本における女性の人的リソース活用は欧米と比較して限定的という指摘がなされています。このことから、技術専門職人材の活躍推進と女性活躍推進という2つのテーマは、経済成長の成否を分かつ喫緊の課題であり、STEM領域に進む学生をエンパワーメントすることは、持続的なイノベーションの源泉を生み出す重要な活動であるといえます。こうした課題認識のもと、今回のセミナーは新経連DE&Iコミュニティの参加企業の協力で実現しました。
 セミナーでは3名のゲストが、日本のSTEM人材におけるジェンダーギャップの現状ならびに、ジェンダーギャップを生じさせる社会構造と社会規範についての現状認識を共有し、先進的な取り組みを推進するfreeeの事例を交えたパネルディスカッションで、ビジネス界が真に取り組むべきアクションについて力強いメッセージを発信しました。

<登壇者>
 深井 龍之介 氏(株式会社COTEN 代表取締役CEO)
 石倉 秀明 氏(公益財団法人山田進太郎D&I財団 常務理事COO)
 前村 菜緒 氏(フリー株式会社 常務執行役員 CIO / Culture & IT Produce グループ長)

【セッション① 】「日本の理系人材のジェンダーギャップについて」山田進太郎D&I財団 石倉COO

石倉 秀明 氏(公益財団法人山田進太郎D&I財団 常務理事COO)

石倉COOは、日本のSTEM分野に女性が少ない理由について、ジェンダーによる学力などの「能力差」を明確に否定するエビデンスを示した上で、以下の結論を指摘しました。

  • 日本の15歳女子の数学・科学の学力は世界トップレベル(OECD内トップ)であるにもかかわらず、その能力が活かせるSTEM分野へ進学する割合は加盟国中で最下位クラスである。
  • 山田進太郎D&I財団では、2035年までに大学入学者におけるSTEM分野の女性比率を28%(2021年の財団設立時のOECD平均値。当時の日本は17.9%)に引き上げる目標を掲げる。社会や環境の転換促すための女性の構成割合水準である「黄金の3割」を超えるために必要な数は、年間最大で約2,800人増にすぎず、これは大学進学する女性のうち、わずか「0.91%」が文系から理系へ志望を変えるだけで達成可能な数字である。
  • 同財団が展開する女子中高生向けの職場体験プログラム「Girls Meet STEM」事業に参加し、理系の仕事に就く女性社員の話を聞いたりオフィスを見学したりすると、STEM分野を選択する確率が統計学的に有意に「2.59ポイント」上昇することが判明。10,000人の中高生がプログラムに参加すると、STEM領域への進学者が 259人増加する試算である。
  • 女性がSTEM分野を避ける主な要因とされる「ロールモデルの不在」「自信のなさ」「競争的環境への忌避感」は、集団内の女性の「絶対数」が増えることで解消されることが証明されている。したがって民間企業で働く理系女性社員のロールモデルと女子中高生が出会う機会を作り、進路の選択肢を広げることが現状打破の鍵となる。

【セッション②】「歴史から紐解くジェンダーギャップの正体と、経済界がとるべき変革の視点」COTEN 深井CEO

深井CEOは、「ジェンダーギャップは極めて深刻な『経営問題』であり、『経済合理性の判断の問題』である」という観点から、2年以上かけてジェンダーギャップの歴史的構造を調査した結果を踏まえ、次のように社会変革のメカニズムを解説しました。

  • 産業の生産体制に合わせて「社会規範」や「家族形態」が決まる。例えば産業革命の際、巨大で重い機械を動かすために「通勤して工場で働く」という概念が生まれ、当時の重工業には筋力が必要だったため男性が外へ働きに出るようになり、結果として「性別役割分業規範」が生じた。
  • 資本主義社会において、人間の生産活動のメインが農業や重工業から頭脳労働に移行し、筋力が必要とされなくなって既に約100年が経過。生成AIが登場し、社会制度や国家のあり方そのものが変わろうとする中、旧来の男性中心の意思決定、労働形態といった生産体制はアップデートする必要がある。
  • 日本は女性の就業率自体は高いものの、管理職といった意思決定層への登用や専門領域での従事においては欧米の3分の1程度にとどまっており、女性の人的リソースのポテンシャルを十分に活かしきれていない。
  • 過去、技術革新による生産体制の変化に適応できなかった国や組織は、例外なく滅びるか支配されてきたことも歴史が証明している。
  • 日本にはポテンシャルがあり、世界に貢献できる価値があるが、人的リソースを十分に活かしきれていない状態では、その価値を発揮することは困難。生成AIという技術革新による生産体制の変化の最中に、「アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)をするとハレーション(摩擦)が起きるからやらない」という判断は、「使う資金や資源をあえて限定的にして世界と戦う」と言っているのと同じである。

【パネルディスカッション】「歴史とデータ、そして現場から解き明かす――日本の産業構造を再定義する『STEM×多様性』の力」石倉COO×深井CEO×freee前村CIO

石倉COO、深井CEOに加え、ジェンダーギャップの解消に取り組んでいるfreeeの前村CIOを交えたパネルディスカッションが行われました。

ディスカッションの冒頭、石倉COOは以下を指摘しました。

  • 「OECDのPIAAC(国際成人力調査)」によると、日本の成人女性は数的思考力や読解力で世界トップクラス。しかし同時に、『その高い能力を必要としない仕事にアサインされている女性の割合』も日本が世界で最も多い。これが男女の賃金格差の25%を説明づけるとも言われている。
  • 世界で最も優秀なリソースを持ちながら、最もそれを活かせていないのが現在の日本企業という状況が浮き彫りになっている。
石倉 秀明 氏(公益財団法人山田進太郎D&I財団 常務理事COO)

これを踏まえて、実際に企業内で女性の活躍を阻む壁をどう壊していくべきか、前村CIOから以下の点に言及しました。

  • freeeとしてD&I目標を掲げ、取り組んだ結果、わずか3年で女性管理職比率が約2倍になり、全体の女性比率も約35%、新卒採用では男女比がほぼ同じになった。この組織の状況を踏まえ、マネジメント側のスキルと意識の重要性を指摘したい。
  • 特に、現場でダイバーシティを進めようとすると、「女性だから優遇するのか」といった反発が生じがちである。これに対しては、「『AI活用』と『女性活躍』をセットにする」、つまり、経営陣への説明・巻き込み手法として、「事業課題とセットにする」ことが有効といえる。
  • 例えば、「生成AIを活用して部門の成績を上げたい」と悩むリーダー陣に対して、AI活用に適性のある女性メンバーを意図的にアサインし、成果を出してもらう。
  • 加えて、社内登用において「能力は高いが自らは手を挙げない女性」がいた場合、「あなたなら活躍できる」と、意図的に個別に声をかけて後押しするプロセスを意図的に組むことが有用である。
  • さらに、生成AIを最も活用できる人材像を特定の年代の男性だけで決めるのではなく、多様な視点から議論できることが、組織の成長に繋がる。このように、事業の発展ストーリーと紐付けることで、組織は前向きに変わりやすくなる。
前村 菜緒 氏(フリー株式会社 常務執行役員 CIO / Culture & IT Produce グループ長)

また深井CEOからは、イノベーションとダイバーシティの関係について歴史を踏まえた解説がありました。

  • フロンティアを開拓するような「量」で戦う時代は、単一の評価軸と戦術で勝てていた。
  • しかし、リソースが不足し「質」で戦う時代においては包摂性、つまりどれだけ多様な才能を巻き込みモチベートできる評価軸を作るかが勝敗を決する一因となりうる。
  • 現代はまさにこの「質の時代」であり、GAFAMのようなビックテックが台頭した頃からフェーズが変わっている。
  • 長時間労働や阿吽の呼吸といった、単一的な男性社会の評価軸だけで戦っている組織は、多様な才能を取り込めず、古代中国の秦に負けた国々のように弱体化しかねない。
  • また、アファーマティブアクションについても、現状の日本においては必須。自然な変化を待っていたら100年以上かかるが、国として企業として生き残りたいなら「劇薬」として使う必要がある。先進国でジェンダーギャップが解消に向かった国は、例外なくクォータ制などのアファーマティブアクションを行ってきた。
深井 龍之介 氏(株式会社COTEN 代表取締役CEO)

最後に、各登壇者から以下の共有と呼びかけがありました。

前村CIOは、「最近の採用面接では、DE&Iの取り組みについて女性のみならず新卒の若い男性からもポジティブな関心を寄せられることが増えた。労働市場の価値観が変化している。」と紹介。深井CEOは、「どれほど難しくても、変革できなかった組織は淘汰されてきたのが歴史の事実。」とし、「一社単独での解決が難しいからこそ、企業が連合体となって社会の規範を変えていく必要がある。」と呼びかけました。石倉COOは、「この社会構造を作り、維持しているのは多くの場合『男性』。だからこそ男性当事者が立ち上がり、変革の声を一緒に上げるべき。」と指摘しました。

性別を問わず全ての人のポテンシャルが解放され、多様性をイノベーションの原動力とする社会の実現は、新経連が目指す変革(Japan Transformation: JX)の柱の一つです。
新経連は、今後もDE&Iコミュニティの活動を通じて、多様性推進と持続的な経済発展に貢献してまいります。

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