【後編】弁護士ドットコム元榮太一郎×Visional南壮一郎「変わりゆく世界でSurviveする -日本再生の処方箋-」

Head x Head(ヘッド・バイ・ヘッド)- 新経済連盟(JANE)会員企業の経営者=「ヘッド」同士が語り合う対談企画。3回目のゲストは、弁護士ドットコムの元榮太一郎会長(参議院議員)と、Visionalの南壮一郎社長です。共に成長企業を率いる経営者として大きな注目を集めるお二人に、共通のバックグラウンドである幼少期・思春期の海外経験の影響から、今後の日本社会のあり方まで語っていただきました。以前からお付き合いのあるお二人ならではの、直球勝負あり、笑いあり、そして共感に溢れた濃密な60分。前編・後編の2回にわたり余すところ無く再現しました。

前編はこちら
取材日:2020年6月25日

目次
1.海外で過ごした少年時代
2.グローバル化と日本
3.日本の生産性向上のカギは何か?
4.「新卒全員1年契約制の導入を」(南) 「『新経連議員』を国会に送ろう」(元榮)

海外で過ごした少年時代

-前編の最後で、南さんが海外経験について言及されました。実は、今日の対談をお二方にお願いした理由の一つが、お二人とも幼少期・思春期に海外での生活を経験され、日本に戻り起業されたという共通点です。お二人の海外経験とそれが現在にどう影響しているか教えてください。

元榮 私は米国で生まれたんです。父は東芝の半導体の技術者で、海外転勤中に私が生まれた。帰国して藤沢で育ちましたが、中2の時に今度はドイツ支社に転勤になり、家族で付いて行きました。

 お父様の海外転勤に付いていかないという選択肢はあったんですか。

元榮 当時は思春期ということもあり、本当はドイツには行きたくなくて猛烈に抵抗しました。当時通っていたピアノの先生に下宿をお願いしたんですが、親が裏から手を回して断られました(笑)。中学卒業後に5人家族のうち私だけ帰国して、日本の高校に通いました。

南 不可抗力による環境の変化というのは大事な経験ですよね。私も父親の海外転勤で、幼稚園から中学1年の途中まで7年間カナダで暮らしました。我々が、家族としてカナダに移住したのは1983年で、アジアからの移民がまだ少ない時期でした。父の意向も重なって、現地校では、同学年で唯一のアジア人でした。また帰国後、静岡の公立中学校に転校したのですが、地方では帰国子女がまだ珍しく、外見は日本人ですが中身は完全に外国人ですので、カルチャーショックが凄かったです。学校で体操服を着る、またその体操服の胸に名前や学年、出席番号が書いてあることに驚き、母親に「まるでプリズナー(囚人)みたい」と言ったらしいです(笑)。

学生時代を振り返ると、私は子供の頃から、育った環境において自分がマイノリティであることが多かったです。国を跨いで転校をし、不可抗力で、コミュニケーションをとるための言語すら取り上げられてきました。でも、そういった中で、常にサバイバルしてきました。周囲を見渡し、どのような価値観で、どのような人が認められているのか、どのようなルールがあるのか。人と人とのパワーバランスを見抜けなくてはいけません。そんなこと教えてくれる人なんて、どこにもいない。自分で考え、自分で行動し、何よりも生きるために、環境に合わせて自分を変えていかなくてはならない。それが、自分の学生時代でした。

マイノリティになる経験をしてみると、マジョリティ側にいる時と見える景色も違うし、普段の生活のありがたみも知るきっかけになります。普段気付かない便利さや不便さ。また全く違う環境を比較することで、新しい発想が生まれます。多様な環境や価値観に触れることで、人からイノベーションが生まれる可能性は広がるのではないでしょうか。

親の都合で、環境が変わる度に嫌な想いもしましたが、現代の不確実で先行きが不透明な時代においては最高の教育でした。社会人になってから、金融業界からプロスポーツ界へ、そしてこの10年はインターネット業界で仕事させてもらっていますが、そのたびに、ゼロからその業界のことを学び、環境に順応しながら成果をあげてきました。自分ではそこまで意識したことはなかったのですが、最近は、自身がマイノリティとして育ってきたからこそ、こんなに自由自在にキャリアを歩めてきたのだと感じています。

元榮さんも、弁護士からIT起業家、そして最近では政治の世界に飛び込まれていますが、大きな変化と順応を繰り返しているのだと思います。政治のお仕事を始められて、弁護士ドットコムを起業した時代との違いは何かありますか?似ているパターンや要素もやはり多いものですか?

元榮 太一郎さん(弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長)※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

元榮 パターンはありますね。この対談を始める前の雑談の時に、南さんはお子さんが生まれたことを「起業のようだ」と仰いましたが、政治家になるのもベンチャービジネスを起業するみたいなものです。つまり、旗を立てて、仲間を集めて、政治という新しいドメインに乗り込む、というのは起業に良く似ています。ですから、政治家は、法律事務所立ち上げ、弁護士ドットコム創業に次ぐ、私にとっての「第3の起業」だと思っています。弁護士の世界は「伝統・誇り・格式」のあるところで、しかも縦社会です。その中で弁護士ドットコムという新しいことに取り組んできたんですが、永田町はより大きな伝統と誇りと格式のある縦社会ですから、弁護士ドットコムでやってきたことの経験が活きているという感覚はあります。

南 弁護士ドットコムにも素晴らしいコーポレートミッションがありますが、政治家・元榮太一郎にとってのミッション、政治家として解決したい課題は何ですか?

元榮 政治家としての仕事のミッションは「すべては国民のために」です。先程、起業家を目指す小中学生を増やしたいという話をしましたが、自分一人でできることには限りがあるので、政治家になりたい小中学生を増やして、なりたい職業ランキングのベスト10に政治家が入る国にしたいです。そういう若者がどんどん政治の世界に乗り込んでくれば、本当の意味で日本はもっと良い国に進化できると思うので、私もそのロールモデルの一人として、先輩に怒られない範囲で(笑)、政治家のイメージを変えるために様々なことにトライし続けています。

-南さんは政治家という選択肢はお持ちではないんですか?

南 私は、ビジネスの世界が大好きで、これからも長くビジネスの世界で働くつもりですので、政治の選択肢は考えたことありません。ただ、自分もそうですが、海外で一度住んだことのある者の共通点として、生活の中で、自身が日本人であることを意識させられる機会があるため、どこかに、日本「国」ために頑張りたいという想いはあります。前職の上司であった三木谷さんに当時よく言われましたが、「事業づくりを通じて社会に仕え、世の中を変えることが起業家の役割」だと思います。私自身は政治家とは違うかたちで、経営者として社会にインパクトを与え続けたいと思います。

南 壮一郎さん(ビジョナル株式会社 代表取締役社長 )※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

元榮 よく分かります。私自身も国会議員になって思ったのは、一人の議員はワンピースに過ぎないということです。他方、会社における経営者、特に創業経営者の権限は強力ですよね。勿論、上場企業であれば当然ガバナンスも重要です。それでも創業社長の権限は相当強いので、それを正しく使って、事業でよい影響を及ぼせば社会変革もできるし、社会をよくするための大きな役割を発揮できます。その点でも素晴らしい仕事だと思います。

 ただ、一方で私は、何年も前から、政治家、官僚、教師の給与は、現行の3倍にすべきだと、ことあるごとに口にしてきました。そのくらい、その三つのお仕事が国を発展させていく上で重要だと思っているからです。この先、政治家や官僚、教師の仕事が、国民にとっての憧れの仕事にならないと、この国の未来は暗いものになります。成果や出力というのは、実行や改善と同じくらい、仕組や構造の設計が重要です。よって国のアーキテクト的な役割や仕事に、優秀な人材が集まってきてもらいたいですし、そうなるような仕組みをぜひ国には創ってもらいたいです。

元榮 そうですね。ただ、民主主義というのは過半数の人に理解して支持してもらわないと前に進めません。それが本当にもどかしいです。オンライン教育がいよいよ本格化しているのだから、例えば一人のスーパー教師の授業を全国の子供達が聞くなど、授業をする教師の数はもっと絞っても良いと思っています。英語もネイティブの先生に教えてもらえれば日本人の英語力は格段にアップするはずです。しかし、民主主義はなかなか難しいなと思います(笑)。

 そう言わず、元榮さんは、早く総理大臣になって、この国が必要としている改革を実現してください(笑)。

元榮 (笑)

グローバル化と日本

-今回のコロナ禍の影響として、日本のビジネスパーソンに人気のあるユーラシア・グループのイアン・ブレマーは「脱グローバル化」が進展すると予測しています。これについて、お二人はどう思いますか?そもそも「グローバル化」という言葉をお二人はどう捉えていますか?

元榮 反グローバル化の動きは確かにありますが、私は基本的にはグローバル化は引き続き進展していくだろうと思います。ただ今回のコロナ対応のなかでマスクや人工呼吸器が各国で奪い合いになったことなどを踏まえて、安全保障の観点から国産化すべきものがあるということは再認識されたと思います。そのように部分的にグローバル化に逆行する現象は起こると思いますが、グローバル化の流れ自体は今後も進行していくでしょう。日本がそれに対応するためには、日本国内もグローバル化していかないといけないし、外国人雇用比率の目標値を政府が示すべきかどうかは別として、日本国内の企業が社内にもっと外国人を入れていくことが必要です。2019年4月に改正出入国管理法が施行されましたが、人口減少によってGDPが前年比減ということが当たり前の時代が来るかもしれない状況で、各企業が生き残るためには真のグローバル化が必須だと感じています。

南 現代は、世界のスーパーパワーによる経済戦争が、時代の流れを決めてきました。そもそも、これまでのような経済発展を追うことが、国として、国民として幸せなことなのかどうか。これからは、日本でも、その点を紐といていく必要があります。

会社経営にも近しいものがあります。「南さんにとって経営とは何ですか?」と、最近聞かれましたが、私にとって「経営とは願い」です。つまり「どうなりたいのか?」という視座が先にあって、行動が起こり始めるものです。本当に日本がグローバル化することが重要であるならば、実現のためには、その先にどんな世界が待っているのかを皆が信じなくてはなりません。その景色を社会全体に示していくことは、政治や経済リーダーたちの重要な仕事だと思いますし、我々の世代が次の世代の皆さんのためにも提示していかなくてはならないものであります。

私は仕事柄、日本の働き方や生産性向上についてよく聞かれますが、グローバル化について問われた時と同じような回答をしています。過去や周囲を否定するつもりは全くないですが、これまでの延長線の未来ではなく、ぜひ日本らしい、日本人らしいグローバル化の絵を描いていきたいものですね。

日本の生産性向上のカギは何か?

元榮 生産性を上げるために何が一番大事だと思いますか?

南 世界のこれまでの歴史を見ると、人材を流動化させることで健全な競争を生み出すことが重要なポイントだと思います。生産的な人材が、生産的な企業に流れる。反面、非生産的な企業からは人材が流出し、淘汰される。ひとつの会社でずっと働くことを否定しているわけではなく、時代の流れによって働くべき企業が刻一刻と変化し、適所適材に人材が動くことによって、社会の生産性が有機的に、そして柔軟に動いていく。それが社会全体の生産性向上につながると考えます。

人生100年時代の到来よって、個人としての労働寿命が飛躍的に延びていきます。これまでのような60歳や65歳まで働く時代から、80歳、85歳まで働かなくてはならない時代に、我々の世代は突入しているわけですから、自らの判断で自らの環境を変化させていかなければなりません。同時に、環境以外にも、スキル、経験、知識の向上のため、自らが自らに投資していかなくてなりません。個人が十分に流動化する下地はできているので、あとは、企業が現行の日本の働き方を維持させていくのか。時間の問題です。

私は、戦後から続く高度経済成長期を支えたメンバーシップ型の働き方を否定しているわけでは全くありません。単純に、それが世の中の現況にマッチしていないと言いたいだけです。まずは、これまでよりも成果というものに評価が付随した働き方を企業が推奨、そして許容できるようなルール設計変更が可能になる国のルール設計変更が必要となります。現実に即した企業の在り方、そして働き方を促すことにより、雇用が流動化し、結果として国の生産性向上にも繋がっていきます。

元榮 確かに人材の流動化がないと企業間で新陳代謝が促進されないので、必要なところに人が流れていくような取り組みが必要ですね。いまは多くの産業で人が足りない状況ですから好機ではあります。なかなかハードル高く、難しいことではありますが、本来はやらないといけないものだと思っています。

「新卒全員1年契約制の導入を」(南) 「『新経連議員』を国会に送ろう」(元榮)

-このHeadxHeadでは、いつも最後にJANEへの要望や提言をお聞きするのですが、ここまでのお話のなかで既にいろいろご要望をいただいているように思います。

南 せっかくですので、自分の専門分野である「働き方」について一つ提言させてください。私は前職でプロ野球チーム経営に携わっていたのですが、プロ野球選手のお仕事というのは完全な成果主義で、ごく限られた選手以外は「1年契約」です。ですので、日々試合での成果を最大化すべく、練習も準備も体調管理も真剣勝負で進めています。そして、自己責任という言葉が彼らの働き方にぴったりとはまります。

これに倣って、これから社会にでる大学生は、卒業後の社会人1年目から全員1年契約にするということを検討してみたらどうでしょうか?日本の産業界、特にJANEが提言し、本当に実現できたら、時代は面白くなると思いますよ(笑)。

勿論、既存のルールで勤務する正社員を解雇することには反対です。彼らは国が約束した働き方に沿って生きてきたのですから、国はその約束を守るべきです。しかし、国や企業がまだ何も約束してない、これから社会人になる若い人たちには新しいルールや制度を導入することは可能ではないでしょうか。いきなり構造全てではなく部分的に変えるということです。そして、かつては終身雇用が前提だった働き方を、段階的に20〜30年という時間をかけながら変えていくような提唱をしてもらいたいです。私はそういう未来の働き方を仕組として次の世代に遺していくことで、社会に貢献したいです。

元榮 私ももう一つ、是非提言したいことがあります。JANEの組織内候補を国会に送り込んでください(笑)。ベンチャー起業家出身の山田太郎さんが2019年の参院選比例で54万票を獲得したように、ネットを駆使して上手く選挙を戦えば当選できると思います。これまでもJANEには素晴らしい提言を出していただいていますが、組織から一人当選させることで、その影響力は格段に増していくと思います。是非真剣に検討してください(笑)。

南 壮一郎(ビジョナル株式会社 代表取締役社長)

1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレーに入社。2004年、楽天イーグルスの創立メンバーとしてプロ野球の新球団設立に携わった後、2009年、ビズリーチを創業。その後、HR TechのプラットフォームやSaaS事業をはじめ、事業承継M&A、トラック物流、SaaSマーケティング、サイバーセキュリティ領域等において、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する事業を次々と立ち上げる。2020年2月にVisionalとしてグループ経営体制に移行後、現職に就任。2014年、世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。
https://www.visional.inc/

元榮 太一郎(弁護士ドットコム株式会社 代表取締役会長)

1975年米国イリノイ州生まれ。1998年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1999年司法試験合格。2001年弁護士登録(第二東京弁護士会)。アンダーソン・毛利法律事務所(現:アンダーソン・毛利・友常法律事務所)入所、M&Aや金融ほか最先端の企業法務に従事。2005年に独立開業し法律事務所オーセンス創業。同年、オーセンスグループ株式会社(現:弁護士ドットコム株式会社)を創業し、国内初の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営を開始。2016年7月に参議院議員通常選挙に立候補し、当選。2017年6月より代表取締役会長に就任。
https://corporate.bengo4.com/

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