【政策提言解説】雇用・労働市場提言 ~いま、働き方改革から「働きがい」改革へのチェンジを~

新経済連盟では、「イノベーション」「アントレプレナーシップ」「グローバリゼーション」を活動の根幹とし、デジタル経済の活性化を促す政策実現に向け、日々政府への政策提言活動を行っています。

この度、我々の提言内容を詳しく紹介する「新経済連盟 政策提言解説」シリーズをスタートします。初回として、今年7月に公表した「雇用・労働市場提言」を深掘りし、「働き方改革」の次の時代に必要な『働きがい』改革について解説します。

▶7月に公表した雇用・労働市場提言の全体版はこちら

高市早苗首相は、企業の競争力強化と賃金を増やす選択肢の拡大を狙い、心身の健康維持と従業者の選択を前提にした労働時間規制の緩和の検討を打ち出し、労働市場改革の推進を成長戦略の柱に据えています。

新経済連盟もこれまで、労働時間規制の緩和等を積極的に提言してきました。現在の労働基準法は、使用者に対して労働者は弱い立場にあるという考えのもと、労働条件の最低限の基準を定めることを趣旨としています。しかし、多様な働き方のニーズやキャリアの志向が存在するなかで、労働時間の上限等の規制が労働者一律に適用されることが時代にそぐわない面も出てきていると新経済連盟は考えます。

また、働き方改革で進んだ「働きやすさ」だけでなく、一人ひとりが「働きがい」を感じながら仕事に取り組み、その結果獲得したスキルや経験に基づき自律的にキャリア形成をしていける社会を目指すことも重要なのではないでしょうか。

以下、提案にいたった背景も含めて説明します。

日本が抱える課題と現状分析について

まず初めに、今日本が抱えている課題とその現状分析について、説明します。

熱意ある社員の割合は世界最低水準

左の図の通り、日本は「熱意ある社員」の割合が世界最下位の5%(2023年時点)という極めて低い水準にあり、「仕事への低熱化」が深刻な問題となっています。さらに、右のグラフの通り、実労働時間も減少していることがわかります。「日本人は勤勉だ」というイメージは今や昔の話、データからは「働かない国民」となっており、「働きすぎだ」という自己認識を変える必要があります。

―深刻化する労働力不足

正社員、パートタイムともに過去5年間、人手不足の状況は悪化し続けています。産業別では、正社員で「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」の労働力不足が特に深刻です。パートタイムでは「宿泊業・飲食サービス業」「その他サービス業」「卸売業・小売業」の人手不足が顕著になっています。

―「働きやすさ」改善の一方で「働きがい」は低下

左のグラフの通り、時間外労働の上限規制の導入等、2019年からの働き方改革によって「働きやすさ」は着実に改善してきました。しかし、肝心の「働きがい」は低下傾向にあり、依然として低水準に留まっています。
右の図は、働きがいと働きやすさ、組織文化の関係を示したものです。「働きやすさ」を追求するだけでは組織に「停滞」や「安定」をもたらすのみで、「活力」や「好循環」は生まれないことがわかります。働きやすさを前提としつつ、「働きがい」を取り戻し、個人の主体性や創造性を高める施策こそが、いま求められていると考えます。

―法制度とのミスマッチ:抑制される「働きたい」という個人の強いニーズ

左の図のアンケート調査結果では、「給与が増えるなら、労働時間が増えてもよい」「残業代が出るのであれば、残業したい」と考える人が半数以上の割合で存在していることがわかります。また、右の厚労省の調査結果でも、残業時間を増やしたいと考える人が約10%存在しています。
「働きたい」意欲にこたえる柔軟な労働時間制度の必要性が示唆されるのではないでしょうか。

こうした現状や課題を踏まえ、新経済連盟は以下の内容を提言をします。

いま、働き方改革から「働きがい」改革へのチェンジを

◆提言Ⅰ—労働時間法制の選択的柔軟化

労働時間の上限規制のような一律的な法制度は、多様な働き方を求める個人の希望を阻害している可能性があります。そこで、時間にとらわれない自律的な働き方とキャリア形成を促すため、高度プロフェッショナル制度(高プロ)の拡大と、新たな制度の創設を提案します。

①高度プロフェッショナル制度(高プロ)の拡充

現行の高プロ制度は、年収要件(1075万円以上)に加え、業種要件や日本の雇用慣行も相まって、適用労働者がわずか0.005%(約1000人)にとどまり、事実上使われていない制度となっています。このため、まずは高プロの業種要件を撤廃し、年収要件のみとすることで、ハイスキル労働者が自律的に働ける道を増やします。

②次世代リーダー育成のための新制度創設(仮称:成長支援型労働制度)

さらに、主にハイスキルからミドルスキル層を想定した【新設】の制度として、「成長支援型労働制度(仮称)」の創設を提案します。

この制度は、主にハイスキルからミドルスキルの方を対象としています。この制度は、成長意欲があり一定の基礎能力を持つ労働者に対して、健康・福祉確保措置を前提に、労働時間に関する規定を一部適用除外とするものです。

労働時間の上限は適用除外となりますが、高プロ制度のような年収の限定がないことから、報酬面での一定の手当が必要であると考え、割増賃金ありを想定しています。健康・福祉確保措置は、現行の高プロ制度等に準じた必要十分な措置を要請します。

この制度の重要な特徴は、既存制度で本人任せになりがちだった「成長支援」を企業に強く求める点です。研修・学習機会の提供やメンター制度といった労働環境の整備を企業に要請します。これにより、次世代リーダーの育成、技能継承、労働者の成長意欲の促進、若手社員の早期成長と貢献、そして専門性や経験を問わない自律的な働き方の促進といった目的の達成を目指します。

また、ブラック企業等による制度の悪用防止のための方策として、一定の人的資本投資を行っている企業や、コンプライアンス意識の高い企業で働く労働者であることを条件とします。労働者本人の書面同意は必須で、さらに本人同意の任意性を確保するための措置として、社会保険労務士等の第三者の立ち合いを求めることも一案と考えます。

この図は、我々の提案が現行制度の中でどのような位置づけになるかを、潜在的な対象労働者の範囲(横軸)と労働時間の長短(縦軸)で示したものです。「成長支援型労働制度」の創設によって、高プロとは異なる層、つまり現在裁量労働の対象ではない成長意欲の高い若手社員等も含めて、一定の条件のもと、自律的かつ柔軟な働き方を選択できる新たな道を創出することを狙いとしています。

最後に、以上の内容を含む提言全体像を掲載します。
新経済連盟は、「働きがい」改革を通じて日本経済の活力を取り戻すことを目指し、貢献してまいります。

お読みいただき、ありがとうございました!
政策提言の背景や詳細を解説する「政策提言解説」シリーズ、ぜひ次回のテーマもご注目ください。

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