新経連周年イベントで議論「『失われた35年』逆転へのシナリオ」【江幡哲也x藤森義明x関美和x猪口邦子x玉木雄一郎xエミン・ユルマズ】

新経済連盟が日本の変革(JX=Japan Transformation)に向けたメッセージを打ち出す周年イベント「JX Live!」。その第3回目となる「JX Live!2025」を、10月21日、六本木のグランドハイアット東京にて開催しました。
今回は当日のラウンドテーブル「『失われた35年』逆転へのシナリオ」アーカイブより、議論の要旨をお送りします。本セッションでは、「失われた35年」を終わらせ、「人・知・財」が集まる「強い日本」を再構築し成長させていく具体的な逆転シナリオについて、各界のリーダーたちによる徹底した議論がなされました。

▼JX Live!2025について
https://nest.jane.or.jp/jxlive2025/
▼ラウンドテーブル③「『失われた35年』逆転へのシナリオ」
https://www.youtube.com/watch?v=5ra472wyWwU
【登壇者】(以下、敬称略)
江幡哲也(新経済連盟 幹事/オールアバウト代表取締役社長兼グループCEO)
藤森義明(新経済連盟 幹事/⽇本オラクル取締役会⻑)
猪口邦子(参議院議員)
玉木雄一郎(衆議院議員)
エミン・ユルマズ(エコノミスト・グローバルストラテジスト レディーバードキャピタル代表)
【モデレーター】
関美和(MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー)

※本記事では、読者の皆様への情報伝達をよりスムーズにするため、各発言を編集・調整し、要旨としてまとめています。

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関:最後のラウンドテーブルのテーマは「『失われた35年』逆転へのシナリオ」です。前半では、「失われた35年」の日本経済の根本的な課題について、後半では、強い日本の再構築に向けた具体的なシナリオ、すなわち日本の強みを発揮できる分野への投資・注力先について議論します。
玉木代表はオンラインでのご参加ですが、途中ご退出のため、まず、本日高市早苗議員が総理大臣に選出された点についての率直なご感想をお聞かせください。

関 美和(MPower Partners Fund L.P. ゼネラル・パートナー)

玉木:国民民主党代表の玉木雄一郎です。高市新総理の選出を心からお喜び申し上げます。日本初の女性首相であり、「変化する日本」の象徴として期待しています。日本は今、大きなチャンスを迎えています。地政学リスクの中で、アジアパシフィックにおいて、安定性や治安などの魅力から、投資先としての魅力が高まっています。
一方で、「安定した国(country of stability)」が「変化のない国(country of non-change)」と見られ、人やお金が集まらない要因になっています。政治からも民間からも、「変化のある国」「変化を生み出す国」というメッセージを発信していくことが重要です。

関:この失われた35年、根本的な課題として何がこの停滞の原因になってきたのか、お話しいただけますでしょうか。

玉木:根本課題はデフレとデフレマインドです。経済政策の基準となる名目賃金上昇率が長く低迷し、現在賃上げが見られるものの中小企業の上昇は弱い。これを打破するには、破壊的イノベーションが不可欠です。官民で民間投資を活性化し、現在の約100兆円を300兆円規模へ拡大すべきです。そのために、投資額の1.6倍まで償却を認めるハイパー償却税制のような、投資を優遇する税制措置により新陳代謝を促し、イノベーションを生み出すことを、党の公約で訴えています。

玉木 雄一郎(衆議院議員)(※リモート出演)

関:藤森さん、新経済連盟でも税制の抜本的な改革や民間主導の規制改革を訴えてこられたかと思います。失われた35年における課題は、どこにあったとお考えでしょうか。

藤森:私が35年前に勤めていたアメリカの GE(ゼネラル・エレクトリック)の経営者、ジャック・ウェルチは、「人を育てれば、道を自分たちで切り開いていく」という信念から、人材育成に徹底的に集中していました。強い個人が会社を、会社が国家を強くするという視点から、アメリカから日本を見てきましたが、日本の成長の遅さは、人に対する投資が欠けていたことが原因ではないかと考えています。

関:江幡さん、起業家、経営者、またデジタル部門の専門家として、この日本の課題どのように捉えられていらっしゃいますか。

江幡:私がリクルート入社時に、創業者の江副浩正さんから「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というプレートをいただきました。日本経済の最大の課題は、「官・民」の議論から「個人」、つまり一人ひとりの視点が抜けていることだと考えます。戦後の復興以来、政府と企業が頑張れば皆が豊かになれるという前提のもと、個人の意識が置き去りにされてきました。国や会社に留まらず、「自分が個人として何ができるのか」という視点を持つことが必要です。

江幡 哲也(新経済連盟 幹事/オールアバウト 代表取締役社長 兼 グループCEO)

関:猪口先生、国際政治学者、外交安保の専門家でもございますけれども、この失われた35年の課題、何が原因だったのかお話しいただけますでしょうか。

猪口:私からは三点お伝えします。まず私は選択的週休三日制を推進しており、これは今の会社の外で才能を活かす「才能シェア」を促すものです。次に、英語教育の徹底強化が必要です。幼少期からネイティブスピーカーと触れ合うことで、コミュニケーション能力を身につけさせ、将来的な所得向上につなげられると考えます。最後は、対日直接投資の促進です。地方創生のためにも、世界の資本を日本に呼び込む必要があります。

関:玉木代表、日本の再構築に向けて何かメッセージをいただければと思います。

玉木:国民民主党は「人づくりこそ国づくり」を大きな方針として掲げています。資源のない日本にとって、成長の源泉は人、イノベーション、そして知的財産やアイデアに他なりません。そのため、大学や大学院向け研究開発投資の規模を倍増する必要があります。投資促進のためのハイパー償却税制と並行して、人への投資も強力に促進していく考えです。

関:エミン・ユルマズさん、エコノミストとして、課題についてシェアいただければと思います。

ユルマズ:「失われた35年」という言葉は、実体を伴わないバブル最高潮時と比較しているため、違和感があります。現在の株価水準から見れば、世間が思うほど日本は負けてはいません。この期間の問題はむしろ、金融の失敗です。2000年以降、日米のマネーサプライの伸びを比較すると、米国が急増する一方、日本は非常に緩やかです。これはバブル崩壊のトラウマからくる「借金は悪」という思想が原因で、トータルマネーが増えずデフレが発生しました。最も痛手だったのは、テクノロジカル・ディスラプションの最中にバブルが崩壊したことです。大規模投資が必要な局面でお金が動かなかったため、1986年に多数を占めた世界半導体売上高ランキングに、現在日本企業は一つも入っていません。これは結果的に金融の責任です。

エミン ユルマズ(エコノミスト・グローバルストラテジスト レディーバードキャピタル代表)

関:藤森さん、ここから日本の競争力を取り戻すために、どの分野に注力すべきと思われますでしょうか。

藤森:個別の政策ではなく、強い日本人を作るという国家論が必要です。例として、シンガポールは1966年のバイリンガル国家宣言からわずか20年で国家を形成しました。その後の30年間で一人当たりGDPは20倍増した一方、日本は名目GDPで2倍の増加に留まっています。日本がバイリンガル国家として国民に英語能力を習得させれば、世界を席巻できる可能性を秘めていると考えます。

関:江幡さんはいかがでしょうか。

江幡:今後も金融主導の資本主義が拡大するならば、日本が対抗するのは難しいと思います。私が信じたいのは、「人間らしさ」を満足させる実体的なクオリティが日本の勝ち筋となることです。例えば、一次産業(農林水産業)の六次産業化を推進しています。日本の食は海外から圧倒的に支持されており、こうした実体的なクオリティの分野に徹底的に注力すべきです。その上で個人単位でも、金融リテラシー教育を強化し、海外諸国に負けない水準で充実させることが重要だと考えます。

関:猪口先生、どの分野に注力し、投資をしていくべきでしょうか。

猪口:日本が世界一を張れるのは、町工場の技術に支えられる製造業の力だと思います。この力をまず維持した上で、第三次産業へも注力することが重要です。また、スタートアップ支援の観点から、政府調達のあり方を変えるべきです。海外ではスタートアップからの調達が多いにもかかわらず、日本政府は実績のある大企業からしか調達しません。その結果、スタートアップはキャピタルとマーケットが不足しているため、この現状を変えるべきです。

猪口 邦子(参議院議員)

関:エミン・ユルマズさん、今後日本が注力すべき分野は何でしょうか。

ユルマズ:現在、アメリカと中国が新たな冷戦体制を作っていて、日本にAI、オートメーション、ロボティックスのサプライチェーンが回帰しようとしているのは大きなチャンスです。日本の少子高齢化の解決手段となり得るAI、ロボティクス分野の求心力を確保できるよう、国策によって動くべきです。

関:藤森さん、バイリンガルな人材を育てるために何が必要だと思われますか。

藤森:政治家はもっと国家ビジョンを語るべきだと思います。変革を起こすためには、自分のコンフォートゾーンから出ていかなくてはいけない。日本人のコンフォートゾーンは日本語なんです。政治家が国家論を語り、そういう国家づくりに向けて動くことで、日本人は自分のコンフォートゾーンから抜け出していけるのだと思います。

藤森 義明(新経済連盟 幹事/⽇本オラクル 取締役会⻑)

関:江幡さん、一次産業、日本の食の強みを生かすために、どのような施策が必要だと思われますでしょうか。

江幡:例えば水産業を見てみましょう。日本は海洋面積が6位、EEZ(排他的経済水域)の体積が4位と恵まれているにもかかわらず、漁獲高で上位10ヶ国の中で唯一衰退しています。これは個人の力を活かしきれていないのが原因です。一例として、「魚を締める」という処理技術だけで、海外では価格が約10倍になる機会があります。農業や水産業には、こうした機会がたくさん眠っています。このような個人の技術と法律面の整備を組み合わせることで、サプライチェーン全体を六次産業化しなければなりません。

関:猪口先生はどのように思われますでしょうか。

猪口:本日、初の女性総理大臣が誕生しました。この歴史的な瞬間の直後にこのセッションを行っているのですから、この場に集まった全員が改革者であってほしいと思います。私が政治家になった小泉政権の時のキーワードは「改革、改造」、つまりトランスフォーメーションでした。今こそ、あの時の改革の息吹を日本国内で再び展開するチャンスだと捉えています。

関:エミン・ユルマズさんはどう思われますか。

ユルマズ:日米のベンチャーキャピタル(VC)市場の比較から、日本の規模の小ささは明らかです。2023年度の投資金額は、日本が1,934億円に対し、米国はその約100倍の1,706億ドル(約25兆円)です。VCの数も米国は日本の約10倍です。まず、日本の投資額を米国の最低1/10まで、VCの数も今の倍程度まで増やす必要があります。しかし、アイデアがあってもお金が正しい場所に流れることが不可欠であり、最終的には金融の問題です。日本の最大の問題点は、資本家なしの資本主義をやろうとしている点にあります。資本家が育つ環境を整備し、さらに海外VCなどからの直接投資を呼び込むことが、大きなマネーメイキングにつながると考えます。

関:最後に藤森さん、強い日本の再構築に向けたメッセージと、締めくくりのコメントをお願いできますでしょうか。

藤森:プライベートエクイティ投資の順調な流入は、日本に対する期待感の現れであり、我々もグローバルな観点を持ち続けることが重要です。新経済連盟を構成するアントレプレナーたちは、国内に留まらず常に海外を見据えています。強い国家の基盤を考え、規制や制度の改革を通じてトランスフォーメーションを進めましょう。本日、初の女性総理が誕生したように、自分たちの力を信じて頑張れば、ガラスの天井やコンフォートゾーンを打破することができるのです。

藤森:(結びのメッセージとして)失われた35年を取り戻すにはどうしたらいいか、全員で考えることが大事だと思います。加えて個人として、5年後や10年後にどの程度高いところまで行けるかという目標も考えるべきです。大きな夢や目標を持って、それに向けて進んでいけばいいと私は思います。

ここで行われた議論を参考にして、「異次元のスタートアップ政策」「既存産業と働き方のアップデート」「『失われた35年』逆転へのシナリオ」を柱とした「JX宣言」という形でメッセージをまとめました。
JX宣言2025における本テーマの要点は以下の通りです。

③「失われた35年」逆転に向け、上記を踏まえたその他の政策
・「変化を生み出せる国」とのメッセージを発信し、世界から「人・知・財」を呼び込むことで、日本人が持つ高い独創性をマネタイズ、ビジネスにつなげる
・民間投資の大幅な拡大(現状約100兆円→300兆円程度) そのためのハイパー償却税制等導入
・国際競争力・発信力向上のための英語と、文化維持のための日本語の「バイリンガル国家」宣言

▼「JX(Japan Transformation)宣言2025 ~失われた35年逆転への政策~」の詳細はこちら

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