ブロックチェーンの社会実装が拡大し、 日本がトップランナーとなるために。

新経済連盟(JANE)事務局/藤井 要・坂本 瑛子

新経済連盟(JANE※/ジェーン)では、2020年3月6日「ブロックチェーン国家戦略に向けた提言(事例分析編)」を政府に提出し、ブロックチェーンの社会実装と、デジタル社会のさらなる推進に向けて取り組みを進めています。今回の提言について、新経済連盟(JANE)事務局の藤井 要と坂本 瑛子がポイントをご紹介します。

※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称

—新経済連盟(JANE)としては、2019年2月と7月に続いて、3番目のブロックチェーンに関する提言ということになりますが、今回の提言を提出するまでのブロックチェーンへの取り組みの経緯をご説明ください。

藤井 もともとブロックチェーンの技術というのは、仮想通貨「ビットコイン」の仕組みを支える技術として誕生し、当初は金融分野での活用が進められてきました。

仮想通貨(暗号資産)をめぐっては、日本では2017年の改正資金決済法施行、昨年は金融商品取引法を含む暗号資産改正法が成立し、金融庁を中心にルール整備が行われてきました。

この金融庁の動きに合わせて、私たち新経済連盟(JANE)でも、関連する会員企業を集めてWG(ワーキング・グループ)を結成し、STO※などの新しい資金調達手段やデジタル化の促進、投資家保護を踏まえた適切な業界育成の観点から、議論を重ねてきました。

※ STO(Security Token Offering)・・・株式などの証券(セキュリティ)を、法令に則った形でブロックチェーン上でトークンとして発行することによる資金調達方法

そういう意味で、私たちもブロックチェーンの活動は金融の分野から始めたのですが、議論を深めていくなかで、ブロックチェーンは金融だけでなく、あらゆる分野において大きなインパクトをもたらす可能性があり、インターネットの次の時代を動かす非常に重要な技術だと考えるようになりました。

こうした意識のもと、昨年7月の2番目の提言は、暗号資産改正法を踏まえたルール案の詳細とともに、非金融分野を含むブロックチェーンの社会実装に向けた要望を取りまとめ、金融庁はじめ関係各省に提出しました。

【参考】 「ブロックチェーンの社会実装に向けた提言~暗号資産の新法改正を受けて~」
https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2019/07/0e1a37dc0d697076eea6a8e7189c8655.pdf

新経済連盟(JANE)事務局・藤井

|世界のトップランナーを目指していく

藤井 昨年7月の提言では、ブロックチェーン分野において、日本は「世界に乗り遅れない」のではなく、「世界のトップランナーを目指すべき」という目標を掲げ、具体的な施策を要望しました。

ポイントとしては、「政府と民間事業者や関連団体が一緒になって、どうしたらブロックチェーンを社会実装できるかという、課題の洗い出しをしましょう」ということです。その上で、ブロックチェーンが活用される社会にふさわしい制度のあり方や、ビジネス創出の後押しをするための支援、関係省庁横断的な機能の設置を検討する必要性を提言しました。

—昨年7月の提言を経て、今回の「ブロックチェーン国家戦略に向けた提言(事例分析編)」に至るわけですね。この提言では、実際の活用事例の分析が豊富で、ブロックチェーンの今を理解する上で、非常に濃い内容になっていると思います。あらためて、提言のポイントについてご説明お願いします。

坂本  今回は、昨年7月の提言提出後の政府側の動きを踏まえ、アップデートした内容としています。政府内部でもブロックチェーン活用に向けた検討が一定程度開始され、また海外では、政府主導のブロックチェーン戦略の策定の動きが加速してきました。

こうした状況をみると、日本として社会実装を推し進め、国際的な議論をリードしていくためには、①民間事業者や関連団体、技術・法律の専門家、関係省庁が一堂に会する「官民協議会」を設置し、官民の叡智を出しあって社会実装を目指すとともに、②「ブロックチェーン国家戦略」を策定し、政府として応援していくというコミットメントを示すべきと考えています。

【参考】 「ブロックチェーン国家戦略に向けた提言(事例分析編)」〜レガシーシステムの限界と、ブロックチェーンによる課題解決〜
https://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/2020/03/20200306_BC.pdf

坂本 今回の提言には、「事例分析編」と位置づけました。これは、政府関係者や国会議員にロビイングをしている中で、「既存のシステムではダメなの?」「別にブロックチェーンである必要はないよね?」「実際のユースケースがみたい」といったご意見を多くいただいたことが背景にあります。

政府をはじめ、現在の社会全体が中央集権的な考え方で成り立っているので、そこに分散型の考え方であるブロックチェーンをロビイングする難しさはあります。しかし、ニューエコノミーを推進する経済団体として、「既存の中央集権型システムの限界」と「その解決策としてブロックチェーンがどう活用できるか」という点を、実際のビジネスを踏まえて、きちんと説明する必要性を実感しました。そこで、事例(ユースケース)をたくさん盛り込む形になりました。

今回は、日本ブロックチェーン協会(JBA)さんの協力も得ながら、新経済連盟(JANE)とJBAの会員企業の中で、ブロックチェーンの実証段階にあったり、実装している企業を対象にヒアリングを行いました。業界の違いはあれ、どの企業も既存のシステムに何らかの限界を感じていて、その解決策としてブロックチェーンに期待していることがよく分かりました。

新経済連盟(JANE)事務局・坂本

—提言書の構成としては、まず、各企業に聞き取りをした中で挙がった「既存システムの限界」と、それに対して「ブロックチェーンを活用している理由」をまとめている形になっていますね。

—この中で、特に声として多く挙がっていたのは、どのようなポイントでしょうか?

坂本 やはりビジネスですので、コスト面の声が大きいのですが、ただコストを削減したいということではなく、「コストを削減しながらも、どうしたら取引の信頼性やシステムの可用性を確保できるか、不正を抑止できるか」という意識が大きく、それを解決する技術としてブロックチェーンに魅力を感じているということがポイントです。

それと、もう一つは、「既存のシステムでは対応困難な分野に対して、新しい市場や情報基盤を創出でき、データの利活用にもつながる」といった期待感も大きいと感じました。

この2つのポイントについては、新経済連盟(JANE)の理事企業でもある、株式会社LIFULLの「不動産権利移転記録(事例集CASE.6)」を例に、ご紹介します。

坂本 この事例は、不動産所有権を「ノンファンジブル(代替不可能)トークン」と呼ばれる一つ一つ固有の価値を持つトークンにすることで、権利の移転をブロックチェーン上に記録するというものです。

既存システムでは、データ維持管理のために管理者が必要になることから、例えば空き家では、登記費用の方が不動産価値よりも高くなってしまい、記録維持コストが価値に見合いません。結果として、空き家はそのまま放置されるケースがほとんどで、社会課題にもなっています。

しかし、ブロックチェーンを活用することで、特定の管理者が不要になり、トランザクションコストのみで不動産登記が可能になるため、長期間の記録維持が実現できます。新しい空き家市場が生まれ、価値の流通がはじまります。コスト削減と新しい市場の創出という2つの観点でわかりやすい事例かと思います。

ただし、日本ではブロックチェーン登記について、法律上の扱いが整備されていないため、現状では規制上の壁もあります。このような障壁は不動産分野に限らず、民法から各種業法まで多岐に存在しています。

新経済連盟(JANE)としては、ブロックチェーンを導入するにあたり、どういったところに法規制上の障壁があるのかという点について、今後より具体的に示していけたらと思います。そして、将来的にこの壁をなくせるように、会員企業や関係団体とともに政府に働きかけていきたいと思います。

|新経済連盟(JANE)がブロックチェーンに取り組む理由

—新経済連盟(JANE)としては、どうして今ブロックチェーンに取り組む活動を推進しようと考えているのでしょうか

藤井 ブロックチェーンについては、インターネットとの対比でお話すると分かりやすいかと思います。インターネットは、この何十年の世界を変革したテクノロジーですが、同じようなパラダイムシフトがブロックチェーンによって起きるかもしれません。中央集権的な仕組みや技術が当たり前だった世界に、分散型の考え方や技術が導入され、世界は大きく変わると。

インターネットの世界は、扱うものが基本的には情報だけですので、規制が壁になることが少なかったのですが、ブロックチェーンだと金融や保険を始めとする、あらゆる経済分野に関係するため、さまざまな規制が障壁になることが十分考えられます。ですので、民間企業が取り組めば進むというものではなく、国や政府でも既存の規制について柔軟に捉え直し、新しい時代に対応していく必要があると考えています。

そのためには、政府と民間が一緒になって、官民協議会を作り、ブロックチェーンの分野に関わる課題を洗い出すことが重要だということで、今回3番目となる提言では具体的な事例分析を多く入れた形で、政府に提出しました。これは、今後もアップデートしていかなければいけないと思っています。

|ブロックチェーンは世界を変える
|それを新経済連盟(JANE)が示さないといけない

藤井 現状では、政府も企業も、中央集権的な考え方で仕組みができあがってしまっています。その常識の中で、ブロックチェーンのような分散型の技術を活用していこうという考え方自体が、既存の発想とはまったくちがうわけです。これを誰もが理解し、浸透させていくことは、おそらく言うほど簡単なことではありません。

ですので、デジタルファーストを掲げる新経済連盟(JANE)が先頭に立ち、「ブロックチェーンが世界を変える」ということを、粘り強く情報発信し、国や政府に説明をし、変えていかなければいけないと強く感じています。

「ブロックチェーンを国家戦略にしてほしい」、「官民協議会をつくってほしい」といった要望を出せるのは、新経済連盟(JANE)しかないと思っています。次の時代こそ、日本が再び世界をリードしたい。ブロックチェーンのようなまったく新しい技術、これまでの概念を覆すような技術をフラットに受けとめ、社会のデジタル変革に向けて邁進する団体でありたいと思います。

藤井 要/新経済連盟(JANE)政策部
2004年に京都大学法学部を卒業後、公正取引委員会に入局。国土交通省、総務省への出向を経て、2015年から新経済連盟(JANE)にて、ライドシェア・民泊などのシェアリングエコノミーに関する各種政策提言やドローンなど先端テクノロジーの社会実装に向けた活動など、イノベーション推進のための活動を行っている。

坂本 瑛子/新経済連盟(JANE)政策部
一橋大学経済学部を卒業後、金融デリバティブの総合取引所に入社。財務省へ出向し、政策金融などに携わる。2018年から新経済連盟(JANE)にて、ブロックチェーン・暗号資産領域を担当し、新産業分野を中心に政策提言活動を行っている。

一般社団法人 新経済連盟  https://jane.or.jp/

取材・編集/阿部健一
1975年生まれ。広告代理店にてコピーライター・CMプランナーとして活動。2017年に独立し、CREATIVE FIRM PICKELを立ち上げる。言葉を起点としたクリエイティブ、コミュニケーションをプランニングし、企業やサービスの課題解決を実践。クリエイティブディレクション、コピー、ライティング、グラフィックデザイン、WEBプランニング、ムービー、プロモーション、それらに紐づく最適なアウトプットを、硬軟問わず手がけている。

関連記事