新経済連盟が自治体DXに挑む福岡ベンチャー経営者たちと語る──「新経連and福岡!」イベントレポート

新経済連盟(JANE)が、全国の主要都市と新しい価値の創造を目指すプロジェクト「新経連and全国!!」。その第1弾として、海外の最新技術やIT業界で数々のスタートアップ企業や若手人材の発掘・育成に携わってきた株式会社ウィズグループ 奥田浩美 様をモデレーターに、株式会社ホープ 時津孝康様とGcomホールディングス株式会社 平石大助様が、「地域行政×テクノロジー」の課題や展望について、熱いトークを繰り広げました。

イベント実施日:2021年3月23日

■登壇者
・株式会社ホープ 代表取締役社長 兼 CEO 時津 孝康 様
・Gcomホールディングス株式会社 代表取締役社長 平石 大助 様
■モデレーター
・株式会社ウィズグループ 代表取締役 奥田 浩美 様

目次
1.JANEの新たなプロジェクト「新経連and全国!!」とは

2. 自治体へのリレーションを活用し、自治体DXを促進──株式会社ホープ
3. 地方自治体の職員に特化した業務効率化・改善を提案──Gcomホールディングス株式会社
4. 現場に寄り添うGovTech、稼ぐ自治体DXを推進するには?
5. 東京との情報格差、人材不足をどう解消するか

JANEの新たなプロジェクト「新経連and全国!!」とは

JANEは、2022年に活動開始から10周年を迎えます。その節目に向け、新たなチャレンジとなる全国展開プロジェクト「新経連and全国!!」をスタートさせました。

これまでのJANEの活動は東京と大阪、特に東京に集中しており、会員企業も約8割が東京を中心とする首都圏の企業が占めています。このプロジェクトを通じて、全国の各地域、各企業のリアルの姿を広く発信し、地域のビジネスの拡大に貢献していきたいと考えています。

第1弾となる「新経連and福岡!」は、福岡に拠点を置きながら、地域の枠を越えて事業を展開する株式会社ホープ 代表取締役社長 兼 CEO 時津孝康 様、Gcomホールディングス株式会社 代表取締役社長 平石大助 様が登壇。株式会社ウィズグループ 代表取締役 奥田浩美 様がモデレーターを務めました。
※以下は、敬称略

自治体へのリレーションを活用し、自治体DXを促進──株式会社ホープ

株式会社ホープ 代表取締役社長 兼 CEO 時津 孝康様

時津:株式会社ホープの企業理念は、「自治体を通じて人々に新たな価値を提供し、会社及び従業員の成長を追求する」ことです。常に自治体に寄り添いながらサービスを展開してきました。

創業時は広告を事業の柱にしてきたのですが、現在はエネルギー・メディア領域にも事業を拡げ、事業の多角化を図っています。

広告事業としては、大きく2つのサービスがあります。1つは自治体の広報紙や公式HPなどに掲載する広告を取り扱うSMART RESOURCEサービス(スマートリソースサービス)。全国の自治体に業者登録を行い、自治体の広告枠を企業に販売しています。

もう1つは、SMART CREATIONサービス(スマートクリエイションサービス)で自治体が発行する専門性の高い市民向けの冊子を無料協働発行し、発行費用は企業の広告料で充当するサービスです。

例えば、子育てや介護、空き家の対策など、自治体が住民に向けて啓発しなければならない情報を冊子で配布し、周知をする習慣はまだまだ残っています。それらを全て自治体と無料で発行し、寄贈することで、自治体の経費削減と市民サービスの向上に貢献すべく活動しています。

エネルギー事業は、自治体が所有している施設にリーズナブルな価格で電気を販売する新電力サービス「GENEWAT」を提供しております。メディア事業は、自治体職員向けに自治体運営や企業のタイアップ事例などを紹介するメディア『ジチタイワークス』の発行や、自治体と企業の協働支援プラットフォーム「ジチタイワークス HA×SH(ハッシュ)」などの運営を行っています。

当社事業の特徴的な点は、自治体をビジネス顧客としてだけではなく、企業との官民連携を促進し、自治体の公共事業や業務を効率化し、資金源を創出する支援も同時に行っていることです。将来的には、約276万人いると言われている地方公務員のプラットフォーム構想も考えています。

私たちは自治体の財源確保や経費削減など、自治体のお困りごとに対してソリューションを提供する事業を展開しています。自治体職員の方々のITリテラシーや情報精度が上がるよう支援しながら、効率的に予算を使っていただくお手伝いができればと考えています。

また福岡の利点として、マルチな優秀な人材がいること、土地代などの固定費が安いこと、福岡市長がイケてることが挙げられます。一方、課題としては、スペシャリスト人材の不足です。特にITやマーケティング、金融などの専門領域の人材採用に苦戦していると聞きます。

スペシャリスト人材は、どうしても東京一極集中になりがちです。知識や技術の情報格差や、突き抜けたベンチャーについても同様だと考えています。

地方自治体の職員に特化した業務効率化・改善を提案──Gcomホールディングス株式会社

Gcomホールディングス株式会社 代表取締役社長 平石 大助様

平石:当社は、1971年(昭和46年)に創業し、一貫して地方自治体向けサービスを提供しています。50年近く行政のデジタル化に特化したビジネスを展開してきました。

主な事業としては、自治体向けの業務改善コンサルティング、基幹系システムなどの構築、情報システムのクラウド化などです。最近では、RPA(Robotic Process Automation)、AI、ビックデータ解析、ブロックチェーンなどの新たな技術を活用した自治体DXに取り組んでいます。

私たちの事業の特徴は、単にシステムを導入するだけではなく、各自治体の事務の流れを分析し、システムを使うことで業務改善を提案していることです。

現在はクラウド化の流れの中にあっても、九州だけでなく全国に地域密着サポートを拡大しています。

当社が取り組んできた事業に大きな追い風となるのが、デジタル庁の設立です。日本全体に超少子高齢社会における諸課題が山積していますが、その解決に向けて、自治体が新たな技術を活用して地域課題に対する新しいアプローチを試みる取組、これが当社では自治体DXの一丁目一番地だと考えています。

いま、特に私たちが注力しているテーマを6つご紹介します。

1.役所内で連携していないシステムを全て連携する
2.役所外のすべての機関や企業とデータ連携する
3.行政サービスの申請主義を撤廃し、プッシュ型に転換
4.公務員の裁量(判断基準)をAIに学習させる
5.公務員は公務員にしかできない仕事にシフト
6.証明書を廃止し、証明行為を電子化

創業以来取り組んできたことでもあり、全国で共通の業務システムを作るべく対応を進めています。

また、1月に地方自治法施行規則が改正され、自治体も民間の電子契約サービスを使えるようになりましたが、当社ではそれ以前から自治体の契約行為についてもDXができないか実証を行っていました。自治体だけでなく地域全体のペーパレス化、テレワークの推進、印紙税負担の軽減効果が見込まれます。

現場に寄り添うGovTech、稼ぐ自治体DXを推進するには?

ここからは奥田浩美様がモデレーターとなったトークセションについてご紹介します。

奥田:実は私、この2カ月間に経済産業省主催のGovTechカンファレンスと神戸市主催のGovTech Summitのイベントプロデュースを担当したのですが、お二人の発表はかなり最先端の取り組みであると感じました。

その理由の一つは、自治体の状況を理解し、公務員の方々に寄り添いながら、テクノロジーを活用して課題を解決しようとされていること。それを数十年にわたってビジネスとして取り組んできたことが、先端事例を創出しているのだと思いながら聞いていました。

特に、時津さんの「補助金とか委託事業など、受託して何かを作るっていうビジネスではなく、自治体に財源をもたらす」という発想がすごいと思ったのですが、その発想の背景を教えてください。

時津:2005年の創業時に、当時横浜市長だった中田宏さんが「財源は自ら稼いでいいんじゃないか」という提案をして、横浜国際総合競技場のネーミングライツ(命名権)を売り出して、日産スタジアムと名前を変え、数億円の財源確保をしていた先進的な事例があったことですね。

横浜市ほどでなくても、数百万円から数千万円の広告で財源を確保することがスタンダードになる未来が来るんじゃないかと感じていました。そこで、まずは九州のエリアから展開していったというのが背景です。

奥田:福岡や近いエリアから始めた事業モデルが全国に広がっていくというのは、まさに「新経連and全国!!」プロジェクトが目指すテーマですね。

一方、平石さんの話には、スーパースターのような解決方法ではなく、自治体の職員に寄り添いながら、誰も取り残さずにDXを進めている姿勢を感じました。現場職員と寄り添いながら、テクノロジーの先端を攻めるにあたって、どんなさじ加減で進めていたのですか?

平石:我が社の創業は、当時裕福でなかった九州の地方自治体に非常に高価で大型の汎用コンピュータを導入するにはどうするかというところから始まりました。当時はITベンダーがパッケージシステムを提供するのではなく、自治体の職員の方々と一緒に、当社のコンサルタントがプログラミング言語を勉強しながら作り上げるという共創をしていたのです。夜遅くまで働き、職員の方の家に泊まらせてもらったこともあったと聞いています。その時代から、一緒にものを作り上げる・課題を解決するというDNAが根付いているのではないかと思います。

東京との情報格差、人材不足をどう解消するか

奥田:偏見かもしれないのですが、地方の場合、自治体公務員というのは地方のトップクラスの人たちが目指す就職先で、ある意味、東京と異なるんじゃないかと思いますが、どう思われますか?

平石:まさしくそう思いますね。よく私が例えるのが、その町の一番大きな民間企業で、全国でも名前の通った企業は、ほとんどないんですね。それに比べて市役所は、年間の予算や職員数などで全国の行政で注目され、かつ優秀な人材も集まってきます。

奥田:そこを活かさない手はないですね。時津さんが打ち出している自治体のプラットフォーム構想にも繋がるのでは?

時津:
この先、公務員の副業がOKになったり、タレント的な人材が増えてきたりしたときに、1つの箱の中でおさまらない未来も想像しています。そこでやはりアカウントとして公務員の人たちと直接繋がっておくことが重要だと考えています。

奥田:そういうチャンスが巡ってきた今、事業に及ぼしたいい影響は何かありますか?

時津:機運でいうと、やはり最初に挙げた福岡市長の影響が大きいですね。市長のイメージと福岡ベンチャーに対する印象が以前とはいい意味で変わってきています。

平石:我々が事業展開や情報収集をする際は、やはり圧倒的に東京が強いと感じています。そういう意味では、福岡は空港も近いですし、東京に対しても、近い感覚もあります。

奥田:東京と繋がる手段としては、JANEを通じて情報共有するという手段もありますね。一方、先月開催したGovtech Conferenceで福津市の松田副市長が、九州大学をはじめ、九州にも優秀な人材はいるのだけれども、デジタル、デザイン、データ領域の人材が少ないと発言していたんですね。その辺りはどうでしょう?

時津:営業職や一般職に関しては、優秀な人材が採用できると思っていますが、たしかにエッジの効いたエンジニアやデザイナー、データサイエンティストは難しいですね。福岡の優秀な人たちはみんな、大手企業に就職される印象があります。

すでに出来上がったビジネスモデルの中で、優秀な人たちが持っている才能が開花するかというと、やはりそれはないと思います。必然的に人材が均一化され、育成される機会も少ないのではないかと課題を感じています。

平石:九州大学にも専門コースはあるものの、やはり大企業や東京の企業に吸い上げられているというのは、私も感じています。実際、DX系のテーマで人材を探すときは東京でとなることが多いですね。

奥田:課題を適切に抽出している会社や、先端事業を展開する会社が、明確な人材ニーズを発信すれば、東京から人を呼び寄せるチャンスにもなるのではないでしょうか。

時津:おっしゃる通りです。私たちも今であれば、財務やマーケティングのスペシャリストが欲しいと明確に定義できています。福岡へのUターン・Iターンを支援する会社やスペシャリスト人材をヘッドハンティングしてくれる会社もここ数年増えてきました。私たちの課題を把握し、マッチする人材をどんどんアサインしてくれるので、以前よりは採用もしやすくなったし、楽になったと思います。

ただ一方で、すでに展開している事業、継続している事業については課題が明確に出せますが、もっと早い事業を創る途中の段階となると課題しかない状態で、明確に欲しい人材を定義するのは難しいですね。

平石:コロナ禍でテレワークが浸透したことで、場所など関係なくどこでも働ける環境が整ってきました。地方での採用も以前より、ハードルが下がってきたタイミングが来ていると感じます。

奥田:まさに日本に限らず、取り組みたい課題があれば世界でもどこにでも貢献できるっていう時代に変わってきましたね。

JANEという大きなネットワークも活用してほしいと思いますが、こういうサポートが欲しいなど、何か要望はありますか?

時津:もっとメディアでJANEの名前が出てくると、よりロイヤリティーを感じることができると思います。

楽天の三木谷さんやデジタルホールディングスの鉢嶺さんなど、名だたるアントレプレナーの方々が理事や役員としていらっしゃるので、JANEのネームバリューを発揮してもらえたら嬉しいですね。

新経連株価指数を経済メディアとタイアップするなどして、話題になってくれたらと期待しています。

平石:JANEの会員企業は、東京圏が8割を占めるということをさっき知ったので、今後は協業や課題解決の模索など、より繋がりを作っていきたいです。

奥田:お二人の話を聞いて、福岡にこんなに素晴らしい企業があること、明確にどんな形で繋がっていきたいか、どんな情報が欲しいのかなどをJANEとして吸引し、発信していくことの大切さを感じました。ありがとうございます。

■ライター後記
来年10周年を迎える新経済連盟(JANE)。改革志向の提案は年間50本以上、スタートアップ、ベンチャーといった起業家が非常に多い一方で、売上規模が1兆円を超えるような大企業も多く参画しているようです。

イベント最後は、JANE事務局次長の堀から、これからも「とにかく政策提言をして、日本を変えていく。経営者同士の皆様のネットワーキング、情報交換を積極的に支援していきたい。」というメッセージが送られ、エンディングとなりました。

次回は「新経連and名古屋!」として開催予定です。興味を持った人はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。

■登壇者

時津 孝康 様(株式会社ホープ 代表取締役社長 兼 CEO)
1981年、福岡県生まれ。2005年、福岡大学在学中に、有限会社ホープ・キャピタル(現:株式会社ホープ)を創業。趣味は仕事、旅行・読書。座右の銘は「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。

株式会社ホープ 公式サイト 

平石 大助 様(Gcomホールディングス株式会社 代表取締役社長)
1969年、福岡県生まれ。九州工業大学大学院卒業後、大手機械メーカーのエンジニア職を経験後、平成12年、Gcomホールディングス株式会社のグループ会社である行政システム九州株式会社に入社。2013年から現職。

Gcomホールディングス株式会社 公式サイト

奥田 浩美 様(株式会社ウィズグループ 代表取締役)
ムンバイ大学(在学時:インド国立ボンベイ大学) 大学院社会福祉課程修了。1991年にIT特化のカンファレンス事業を起業。2001年に株式会社ウィズグループを設立。2013年には過疎地に株式会社たからのやまを創業し、地域の社会課題に対しITで何が出来るかを検証する事業を開始。

株式会社ウィズグループ 公式サイト

本レポートは、リコーのオンライン会議まるごと記録サービス【toruno】を活用して制作しました。

■取材・文:馬場美由紀
IT系編集・ライター。リクルートのエンジニア向けキャリアサイト「Tech総研」「CodeIQ MAGAZINE」編集部を経て、現在はフリーランスのライター・編集として活動中。

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