2012年6月1日、既存の技術やサービスの限界に縛られず、未来の社会経済の姿を構想し提示する団体として発足した新経済連盟(JANE)。デジタルの活用を軸に経済と社会を変革するために、「民でできることは民に」を基本原則として、民間の立場から政策提言を行うとともに、イノベーション(創造と革新)・グローバリゼーション(国際的対応力の強化)・アントレプレナーシップ(起業家精神・実業家精神)の促進を掲げています。そんなJANEは2022年6月1日に10周年を迎え、新たに「Japan Transformation(JX)」を掲げました。本記事では、同日、都内で開催された記念イベントのセッション「アントレプレナーが未来を変える!」①JXには女性起業家がもっと必要だ!の様子をお届けします。
取材日:2022年6月1日
※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称
▼新経済連盟 https://jane.or.jp/
Moderator
藤本あゆみ 様(Plug and Play Japan株式会社 執行役員CMO/一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事)
Speaker
秋山咲恵 様(株式会社サキコーポレーション ファウンダー)
陶山祐司 様(株式会社Zebras and Company 共同創業者)
堀江愛利 様(一般社団法人 Woman’s Startup Lab Impact Foundation Japan (Amelias) 代表)
目次
1.なぜ女性起業家が必要なのかを考える
2.世界中に残る「ジェンダーバイアス問題」
3.アンコンフォータブルゾーンに踏み出し、異質を知る
なぜ女性起業家が必要なのかを考える
藤本 このセッションでは、「Japan Transformation(JX)」にはもっと女性起業家が必要だというテーマでお話を伺います。
堀江 私は、シリコンバレーで9年、世界中から集まる女性起業家のサポートをしてきました。ですが、いまだに女性起業家への投資金は全体の3%以下。そして投資家の90%以上が男性です。
現在、世の中にある「起業の成功事例」の多くは、起業に120%没頭できた男性起業家の話。でも、起業の成功の仕方やアプローチ方法はもっとたくさんあっていいはずですよね。
イノベーションを起こすためにも、エコシステムのプレーヤーである投資家で女性起業家をサポートする人や女性起業家を取り巻く環境に投資し、イノベーションを起こすという方向性を示すことが、これからの社会では重要になると考えています。
藤本 力強いメッセージをありがとうございました。私が属するPlug and Playはシリコンバレーに本社があるベンチャーキャピタル(VC)なのですが、シリコンバレーでもまさに、女性起業家や、女性起業家に投資するキャピタリストが少ないのが現状です。日本特有の問題ではなく、世界で問題となっています。
この問題を解決できた国の方がイノベーションを推し進めていけるのではという考え方から、世界中で女性起業家に投資する取り組みが進んでいるのだと思います。そこで陶山さんに伺いたいのですが、そもそも女性起業家を増やすには何が必要だと思いますか?
陶山 僕はまず「なぜ女性起業家が必要なのか」「なぜ多様性が必要なのか」を問いかける必要があると思っています。
なぜなら、女性起業家に本当に必要なサポートは何かが理解されていないから。政府やマクロ経済の視点で女性の活躍が必要というのは理解できるけれど、そこでいう「活躍」や「起業」は女性起業家にとって本当に望んでいるものなのかどうかという議論は足りていないと思っています。女性起業家の視点に立つためにも、「なぜ女性起業家を増やしたいのか」を問いかけるところから始めたいと思います。
世界中に残る「ジェンダーバイアス問題」
藤本 秋山さんは女性起業家を増やすべきだ、ということについてどう感じていますか?
秋山 いま仰っていただいたご質問を言い換えると「競争に強い男性たちが支配してきた世界のままでいいのか」ということを問われているのだと思います。新しいマーケット、これから成長するマーケットにどうアプローチしていくのかということを考えたときに、これまでメインプレイヤーと思われていなかった若い人や女性、あるいはメインのマーケットではなかった領域がこれからの成長分野であるならば、そこに力を入れるのは理にかなっていますよね。
そういう考え方でダイバーシティは捉えるべきで、議論すべき点は様々ありますが、根本で解決しなければならないのはジェンダーバイアスの問題。これは日本だけでなく、世界中に色濃く残っている問題で、そこに対して戦っているのが今の時代の在り様だと思います。
Web3.0の世界でも、ウィナー・テイクス・オールの状態で巨大IT企業の独占的な世界に対して、それを変えていこうという次世代の人たちの勢いのある動きが、テクノロジーを新しい方向へと推し進めていますよね。
こうした新しいマーケットや価値観に目を向けることは、まさにアントレプレナーシップにつながりますし、そのためにもジェンダーバイアスは乗り越えないといけない壁だと考えています。
藤本 今回JANEが掲げている「Japan Transformation」の”Transformation”の部分は、今ある壁を乗り越えるというステップがあって、それを実現するからこそ言えることだと捉えています。その中で、いま目の当たりにしているジェンダーバイアス問題は世界の中でも日本は特に深刻だからこそ、「女性起業家」を一つのトリガーにしながら広くダイバーシティを考えていく必要があると言えますね。
アンコンフォータブルゾーンに踏み出し、異質を知る
藤本 女性起業家にとって壁になっていることは何だと思いますか?
陶山 僕は今回のイベント前に、何人かの女性起業家に現状や必要としていることを聞いたんですね。そのなかで印象的だったのが、日本ママ起業家大学という起業をサポートする団体から聞いた「起業するときに売上規模や事業成長ばかりを見られる」という言葉でした。
そこで出会った方々は、家族の時間やライフイベントも大切にしながら、自分が幸せになれる起業や生活の形を考えたりしている。経営にはもちろん売上や経済成長が必要なのは分かるけれど、そればかりを重視されると、一人一人の願望は語られなくなり、むしろ、やらされ感のようになってしまうということに気付きました。女性起業家に寄り添うという考えや価値観で、本当に必要な支援は何かを考える必要があると思いました。
ただ、「起業家クラブはボーイズクラブで、女性は入りにくい」のが現実で、この現実にマジョリティである男性起業家は気付けません。
だから、女性起業家がメインの分科会や会議体をJANEの中に設けて、そこに男性が一人もしくは二人だけ参加して男性側がマイノリティ経験をしながら、どんな支援が必要かを考えるのもいいのではないかと思います。
藤本 JANE著の『JAPAN TRANSFORMATION日本の未来戦略』の第三章でもJANE幹事の佐々木大輔さん(freee株式会社 CEO)も触れられていましたが、たしかに、体験しないとわからないことは多いですね。女性が多い職場やグローバル企業にいると簡単に気づくことでも、多様性が足りない環境に長くいると気づけないことは多いと思います。だからこそ、まずは自分がマイノリティを体験することで、変えてみようという考え方が生まれたり、ディスカッションをしようという動きが起きたりするのかもしれません。
また、秋山さんがおっしゃったように変化のスピードが速い世界の中で、変わった方がいいということを発信していることもWeb3.0の考え方でもあると思います。「女性起業家」というのは男性が受け取るトリガーだと思いますが、それとは別に、「世代の違い」のようなことを少し上の世代の私たちが受け取ってトランスフォーメーションを加速する時に、何に気を付けた方がいいでしょうか。
秋山 私はマイノリティを体験するというより、マジョリティ側の人が居心地の良い自分たちのコンフォータブルゾーンやコミュニティの殻を破る必要があると考えています。ダイバーシティとは、自分とは違う異質なものを受け入れることだと思っています。でも、異質なものを受け入れるのは簡単ではないし、気持ちがザラザラしますよね。
それをわざわざ受け入れるための一歩がない限り、若い人や女性が声を挙げやすい雰囲気は作れません。だからアンコンフォータブルゾーンに踏み出して、自分たちとは違う異質な人たちの声を聞く力を持つのが第一歩だと思います。
藤本 異質な人の声を聞く力は大事なことですね。マジョリティ側の人たちがアンコンフォータブルゾーンに踏み出すために、明日からお一人お一人がやるべきことは何だと思いますか?
陶山 女性起業家というテーマに沿って言うと、それはまさに、女性起業家に会いに行って話を聞くことだと思います。その際に大切なのは、自分の意見を言わずとにかく話を聴くこと。話を聞く中で自分が純粋にどんな感情を持つのかを理解すると、多様性の一歩になるのではないでしょうか。
秋山 分かりやすく異なることに挑戦してほしいです。たとえばスーツを着るのをやめてみる、普段秘書にお願いしている仕事を自分でやってみる、いつも敬語を使われているなら自分も敬語を使ってみるなど、なんでもいいので小さなことから、いつもと違う周りが驚く行動を取ってみることが、実は大事だと思いますよ。
藤本 ありがとうございます。これからの10年で日本をより成長させるには、次世代の若い世代や女性起業家を巻き込むことは避けられません。ぜひ明日からできることを試しながら、次の10年を一緒に作っていけたら嬉しいです。
■Moderator■
藤本あゆみ 様(Plug and Play Japan 株式会社 執行役員CMO/一般社団法人スタートアップエコシステム協会 代表理事)
大学卒業後、2002年キャリアデザインセンターに入社。求人広告媒体の営業職、マネージャー職を経て2007年4月グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後2016年5月、一般社団法人at Will Workを設立。株式会社お金のデザインでのPR マネージャーとしての仕事を経て、2018年3月よりPlug and Play株式会社でのキャリアをスタート。現在は執行役員CMO としてマーケティングとPRを統括。2022年3月に一般社団法人スタートアップエコシステム協会を設立、代表理事に就任。
■Speaker■
秋山咲恵 様(株式会社サキコーポレーション ファウンダー)
1994年創業、2018年まで代表取締役社長。エレクトロニクス機器製造の分野で画像認識技術を使った自動検査装置メーカーとして世界ブランド構築。起業×先端テクノロジー×グローバル×製造業×女性の経験から、公職はじめ多くの仕事にコミットしてきました。現在は、これまでの経験を活かした新たなキャリアを歩んでいます。国立奈良女子大学附属中高校、京都大学法学部卒業。
陶山祐司 様(株式会社Zebras and Company 共同創業者)
(1)社会課題解決と事業成長の両立
(2)株主のみならずステークホルダー全体への貢献
(3)短期的な時価総額向上よりも長期的な価値創出拡大を行う「ゼブラ企業」の普及拡大に取り組む。
元々は経産省で3.11を踏まえたエネルギー政策見直し、電機メーカーの競争力強化を担当。その後、VC/新規事業のコンサルタントとして、100億超の資金調達をした宇宙開発ベンチャーやIoTベンチャーの事業戦略策定、資金調達、サービス開発、営業の支援や政策提言等を実施。2018年に独立し、SIIF(社会変革推進財団)におけるインパクト投資の促進や、ガバメント・リレーションズの普及に従事。2021年にZebras and Companyを共同創業。
堀江愛利 様(一般社団法人 Woman’s Startup Lab Impact Foundation Japan (Amelias) 代表)
米国IBMを経て、数々のスタートアップでのキャリアをもとに、2013年、米シリコンバレー初の女性に特化したアクセラレーター、「Women’s Startup Lab 」 を創業。世界中で女性起業家の育成やベンチャー支援を行う。2022年春より、日本の女性、高校生を対象に、プロジェクト「Amelias」を始動。
文・編集/ フリーランス編集者 田村朋美
2000年に新卒で雪印乳業に入社。その後、広告代理店を経て個人事業主として独立。2016年にNewsPicksに入社。BrandDesignチームの編集者を経て、現在は再びフリーランスのライター・編集として活動中。スタートアップから大企業まで、ブランディング広告やビジネス記事を得意とする。