【前編】freee 佐々木 大輔×スマレジ 山本 博士「上場を果たした2人のSaaS経営者が目指す先とは?」

上場を果たした2人のSaaS経営者が目指す先とは?【前編】

新経済連盟(JANE)幹事/佐々木 大輔(freee株式会社 CEO)
新経済連盟(JANE) 会員/ 山本 博士(株式会社スマレジ 代表)

Head x Head – 新経済連盟(JANE)会員企業の経営者=「ヘッド」同士が語り合う新企画です。第一回目のゲストはfreee株式会社の 佐々木 大輔 CEO(JANE幹事)と、株式会社スマレジの 山本 博士 代表。ともに2019年に東証マザーズに上場し、日本のSaaS分野で大きな注目を集める企業経営者です。そのお二人に、互いのビジネスへの印象、ブランドデザインへのこだわり、また新型コロナウイルスがもたらす影響からJANEが今後果たすべき役割まで、幅広く語り合っていただきました。前編・後編の二回に分けてお届けします。

-今回は、JANEの幹事として政策提言でもご活躍いただいているfreee株式会社の 佐々木 大輔 CEO と、2019年に入会された株式会社スマレジの 山本 博士 代表をお招きしています。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今日はオンラインで対談していただくことになりました。通常とは少し勝手が違いますがお二人とも宜しくお願いします。

佐々木/山本: よろしくお願いします。

-お二人は意外にも今日が初顔合わせだそうですね。

佐々木: そうなんです。スマレジ本社がある大阪にfreeeも支社があるので、大阪に行くたびに山本さんにアポを取りたいなと思うんですが(笑)社内のミーティングが立て込んでいたりして、なかなかお会いする機会がなかったので、今日はとても嬉しく思っています。ただ、お互いの会社の担当スタッフ同士は仲良くしていますよね。

山本: ええ、そうですね。当社は経費精算でfreeeを使っていますし、佐々木さんのお話はいろいろな方から伺っていて、僕もずっとお会いしたいと思っていました。

スマレジ 山本 博士 代表(左)
freee 佐々木 大輔 CEO(右)

-ともに、日本のSaaS分野で大きな注目を集める企業のトップとして、お互いのビジネスをどう見ていますか?

佐々木: クラウド会計ソフト「freee」は他社アプリと連携できるのが特徴で、クラウドのPOSレジと連携できるところはセールスポイントの一つです。いくつかあるクラウド型POSレジの強みや特徴は社内でもよく話題になるのですが、スマレジは多店舗展開する事業者にとって特に使い勝手が良いイメージがありますし、実際にユーザーの方の評価も高いですね。それから、ブランドがきれいに作られている点に以前から注目していました。一般的に業務アプリは退屈に思われがちですが、スマレジは見た目も格好良く、気持ちよく使える。見せ方も上手いブランドだなと思っています。

山本: ありがとうございます。佐々木さんにそこまで褒めていただけると思っていなかったので驚いています(笑)スマレジは関西の友達同士で始まった会社です。(独創的なサービスや製品を起点とする)いわゆるスタートアップと違って、ソフトウェアの受託開発からピボットするかたちでスマレジが始まりました。そういう僕たちから見ると、freeeはベンチャー企業のなかでもずっと注目されていた企業ですし、とてもキラキラとした印象を持っていました。freeeのビジネスの組み立て方や資金調達の手法がメディアで取り上げられるのを見て、いつも羨ましいなと思っていました。

佐々木: ありがとうございます。スマレジの創業はいつですか?

山本: 会社の創業は2005年ですが、スマレジのリリースは2011年です。リーマンショックの後で主力の受託案件が激減して、「どうしよう?」という時期でした。それで何か新しいものを作ることになり、夜間や週末を使ってスマレジを作りました。当時はエクイティファイナンスの知識もなく、受託案件で日々現金を稼ぎながらスマレジを作っていました。freeeの資金調達のニュースを見て「そんなやり方があったんだ!」と驚いたのを覚えています。

佐々木: そこを乗り越えて上場まで持って行ったのは凄いですね。デザインと同様に、スマレジは財務の開示手法でも先進的でトップクラスだと思います。単にボトムの損益計算書(PL)だけを示すのではなく、積極的に情報を開示して理解を促進し、投資しやすい環境を整えていますよね。山本さんはこういった面も勉強されたんですか?

山本: 決算説明資料は上場を前にして僕も勉強するようになりましたが、創業者(注:徳田誠 ・取締役ファウンダー)が株式に詳しく様々な企業の決算資料を読み込んでいて、その彼が資料を作っていることが大きいと思います。スマレジもかつては「PL主義」というか、目先の売り上げが立たないと立ち行かない感じでしたが、それがビジネスの進め方として古いことは自覚していました。ですから、我々の方がfreeeの先進性に多くのことを学んでいます。

-佐々木さんは「スマレジはきれいなブランド作りをしている」と評されました。それはfreeeにも共通するイメージだと思います。企業・製品・サービスのトータルデザインは、日本ではやや軽視されてきた印象がありますが、お二人はその重要性をどう考えていますか。

佐々木: freeeを立ち上げるとき、「小さいビジネスを強くするテクノロジーを拡げたい」という思いがありました。中小企業は弱い立場にあると見られがちですが、freeeを使うことで「スモールビジネスって強いし、かっこいいし、面白い」と思ってもらいたいという思いです。会社のなかでもそうです。バックオフィス業務は非常に重要なのに、退屈で難しいと思われがちですが、それをfreeeによって、もっと前向きで面白い業務と思われるようにしたい。それがデザインに反映されていると思います。デザイン的に入りやすくすることは、難しさと向き合うときに重要な武器だと僕らは思っています。

山本: 僕は元々ソフトウェアのエンジニアで、自らコードを書いていたのですが、その当時の業務システムのデザインというのは完全に機能重視でした。その後SaaSのようにwebを使うサービスが登場して、JAVAを使うことでデザインの選択肢が従来の開発環境に比べて格段に広がりました。そういうタイミングでスマレジを開発できたのは幸運でした。そのころiPhoneが世界的にヒットしてUIが注目されるようになったことも大きいです。例えばiPhoneやiPadのおかげで「説明書がなくても使える」という直感的な操作性が一種のステータスになりましたが、僕もAppleのそういう考え方に強く影響されました。

佐々木: 確かにそういう流れがありますね。僕はかつてGoogleで働いていたのですが、Googleもある時期まで「一切デザインのない会社」でした。「デザインがないのがかっこいい、それがwebを速くする」というようなポリシーで、無骨だけどスピードは世界一速いF1マシンを作っているような感じでした。ラリー・ペイジがエリック・シュミットに代わってCEOに復帰したのが2011年ですが、彼が「デザインだ!」と言い始めて一気に変わりました。「デザインを重視するのが当然」という流れがその頃から業界全体に広がった記憶があります。

-佐々木さんが以前freeeユーザーのイメージを「炭酸水を飲んでいる人」と表現されたと伺いました。とてもおもしろい表現ですね。少し解説していただけますか?

佐々木: 「炭酸水を飲んでいる人」というのはfreeeのデザインコンセプトです。例えば会計freeeを使うことで、経理に費やす時間が従来と比べてかなり少なくなりますから、おのずとビジネスや生活に時間や心の余裕が生まれると思います。そうなると、普段の生活ではあまりできなかったことも可能になるかもしれません。「炭酸水を飲む人」というのはその例えです。自宅で炭酸水を作る器械がありますよね?あれで水を炭酸水に変えて飲むというのは、なかなか時間に余裕がないとできませんから、freeeはそういう余裕を生み出す存在でいたいと思っています。

-山本さんはスマレジのユーザーをどう表現しますか?

山本: 「商売人」ですかね(笑)僕はいまも結構多くのユーザーさんを直接知っていて、よく情報交換もしています。そうした付き合いのなかで、スマレジのユーザーには「ビジネスマン」というより「商売人」というイメージがしっくりくるように感じます。ただ、小さな店舗のオーナーさんのなかには、何にいくら使ったかわからないという人も少なくないのが実情です。全ての商売がスケールする必要はありませんが、どんぶり勘定で良いはずがないですよね。ですからスマレジを活用して、お金の出入りをもっとしっかり管理しよう、というコミュニケーションを今後も続けていきたいと思っています。

<後編は6月2日に公開予定です。>

佐々木 大輔(freee株式会社 CEO)
一橋大学商学部卒。データサイエンス専攻。実家は下町の美容院。
博報堂、株式会社ALBERTにてCFO(最高財務責任者)を経てGoogleにて日本およびアジア・パシフィック地域での中小企業向けマーケティングを統括。Googleで感じた社会課題を解決すべく2012年7月 freee 株式会社を設立。趣味はランニングと娘と食とビールと海で浮かぶこと。
日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 / 2014年日本の主役100人/Forbes JAPAN 日本の起業家BEST10に3回選出。2019年殿堂入り。
著書に『「3か月」の使い方で人生は変わる Googleで学び、シェア№1クラウド会計ソフトfreeeを生み出した「3か月ルール」』(日本実業出版社)がある。

freee株式会社: https://corp.freee.co.jp/

山本 博士(株式会社スマレジ 代表)
2003年よりITエンジニアとして多数の業務システム開発に従事。これまで関与した開発は、金融・通信・物流・保険・製造・サービスなど多岐に渡り、アプリコンテスト審査員や書籍執筆なども経験。複数の業種をまたいだ業務知識を持ち、過去の経験を裏付けつつも既成概念にとらわれない斬新なアイディア立案を得意とする。2011年 株式会社プラグラム代表に就任後、過去ドラッグストア向けPOSシステムを開発した経験を元に、クラウド型POSレジサービス「スマレジ」を立ち上げる。

株式会社スマレジ: https://corp.smaregi.jp/

文・編集 / 堀圭一(新経済連盟 事務局次長)
アジアフォーラム・ジャパン主任研究員、英国王立防衛安全保障研究所アジア本部理事などを経て、2018年6月から現職。

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