伊地知 天 幹事 Creww(株)「スタートアップの成長機会を最大化する」

継続して挑戦できる文化を根付かせ、スタートアップの成長機会を最大化する

新経済連盟(JANE)幹事/伊地知 天(Creww株式会社 代表取締役)


コロナ禍でもオープンイノベーションを加速させるためには? 2020年4月、オープンイノベーション促進税制が施行されたことで何が変わるのか?
ITベンチャーのエコシステムやオープンイノベーションに関わる多くのプロジェクトに参画するCreww(株)の代表取締役で新経済連盟(JANE)ではスタートアップエコシステム全体の発展を射程に入れた政策提言、ベストプラクティスの共有、会員間の交流等をリードする伊地知 天 幹事にお聞きしました。

きっかけは東日本大震災。復興に必要なのは新しい産業とIT技術

――Crewwを創業した経緯について教えてください。

きっかけとなったのは、2011年3月の東日本大震災です。当時、私はアメリカに住んでいたので、4月に一時帰国してボランティアに行きました。そこで聞いたのが「いくら建物が元に戻って復旧しても、産業がないから復興しない」という悲観的な話です。

東京に戻って日本経済をマクロで捉えると、被災地だけではなく日本全国に新しい産業とIT技術が必要だと気がつきました。起業率が低い日本に必要なのは、起業家がチャレンジしやすい環境を作ること。2005年からアメリカでシリアルアントレプレナー(連続起業家)として3社を立ち上げた経験から、「起業家を取り巻くエコシステムをつくり、挑戦を応援する人のコミュニティを実現したい」と考え、2011年11月に起業家支援のプロジェクトを立ち上げました。

これはもともと、一時帰国のボランティアプロジェクトとして始めたものでしたが、本腰を入れて取り組むべき事業だと考え、2012年8月に法人化しました。これがCrewwの始まりです。

――起業家がチャレンジしやすくするためには、何が必要だと考えたのでしょうか。

スタートアップに必要なのは「人」と「お金」と「成長機会」ですが、日本には人材紹介会社やVCがあっても、「成長機会」を提供する企業やサービスがありませんでした。スタートアップの成長機会につながるのは、大手の事業会社が持つ経営資源に起業家がフリーにアクセスできること

そこで、成長機会を得たいスタートアップと、新規事業を創出したい大企業、双方の課題が一致する協業の仕組みとして、2012年にアクセラレータープログラムを始めました。

8年間で約550もの新規事業を創出させたアクセラレータープログラム

――大企業とスタートアップの協業は始めからうまくいったのでしょうか。

Crewwのアクセラレータープログラムについて


今でこそ、数人しかいなかったスタートアップが1年後に100人規模に成長していたり、大企業に新規事業を運営する部署が新設されたりと、目の前で新しく生まれた事業は550を超えましたが、8年前はまったくうまくいきませんでした。

当時は日本にアクセラレータープログラムが浸透しておらず、大企業がスタートアップと協業するのはチャンスではなくリスクだと思われていたんですね。コストをかけてまで、協業する意味がないと思われていたので、Creww創業からの2年は、周りからも「事業を変えたほうがいい」と言われるほど厳しい状況でした。

――何がターニングポイントになりましたか?

2013年9月に、日本テレビ様から新規事業立ち上げの依頼を受けたことです。アクセラレータープログラムを導入して、当時Crewwに登録していた約600社のスタートアップから新規事業の提案を募集。無事、プログラムを成功に導くと、日本テレビ様から約1.2億円を出資いただくことになりました。それを皮切りに少しずつ実績が増えていったのです。

加えて、政府の成長戦略にもスタートアップの創出や育成が含まれるようになるなど、社会や業界の変化に伴って、メーカーや金融、保険、商社、最近では建築や土木、医療などさまざまな業界の事業会社から声をかけていただけるようになりました。スタートアップだったCreww自身も、大企業との協業によって一歩ずつ成長してきました。

スタートアップの価値の最大化を意識してきたことで、質の良いスタートアップが集まり、結果、大企業にとっても価値を生み出すプロジェクトになったと思います。

一方で、評価軸は企業によって違うもの。だから、スタートアップと大企業の双方の成功体験になっているかを見る必要があります。
ある金融系事業会社の事例では、Crewwとアクセラレータープログラムを開始してから、スタートアップといくつかの協業を作り出すと共に、スタートアップへの直接出資も少しずつ開始しました。また、プログラムを経て社内に新規事業の専属部署が立ち上がり、自社独自でアクセラレータープログラムの実施を開始して、イノベーションを創出する組織へと成長しています。最初のアクセラレータープログラムから約3年程度で海外のスタートアップとも資本業務提携を行うまでに成長しています。
組織が成長することで、スタートアップへの理解や成長機会にも繋がるのでこのような事例が増えることがスタートアップの爆発的な成長にも繋がると思います。


こうして8年間、スタートアップの成長機会と大企業の新規事業を創出するアクセラレータープログラムを続けたことで、取り組みが“うまくいくケース”と“いかないケース”がパターン化しました。そこで、このノウハウを詰め込んだ新サービス「Steams」を作りました。

アクセラレータープログラムはCreww側の人が介在するハンズオンの大型プログラムですが、「Steams」は人が介在しなくても小規模で共創プログラムを始められ、コストも10分の1まで抑えられるSaaS型のクラウドサービスです。

最小人数かつ最小コストで共創プログラムが実現できるため、大企業だけでなく日本全国の中堅・中小企業も挑戦しやすい。それは、スタートアップの成長機会がより拡大することにつながります。

実際、2019年の年末にサービスをリリース以降、日本各地の中堅・中小企業が活用してくれており、プロジェクト型で新しい取り組みが次々と生まれています。この共創の輪をもっと広げていきたいですね。

Steamsについて


オープンイノベーション促進税制が、協業を後押しする

――オープンイノベーションにおける政府や自治体の役割は何だとお考えでしょうか?

これまで多くの企業との取り組みを重ねて実感しているのは、大企業が新しいチャレンジを継続するには、人事制度の変革も必要であるということです。もちろん個社によって状況は違うのですが、既存事業の歴史が長くて大規模であるほど、新規事業に挑戦する人が報われづらい現実があります

新しい取り組みだから挑戦する前に類似の例を見せることは不可能ですし、1年後にいきなり数百億円の売り上げが見込めるはずもありません。成果がわからない新規事業にリソースを割くよりも、既存事業に投資したいと思われがちなんですね。

だから、企業にとっても新規事業に挑戦する担当者にとっても、オープンイノベーションの推進に対するインセンティブの仕組みを設計できると良いなと思っています。そういった意味では2020年4月から始まった、オープンイノベーション促進税制はとても良い取り組みだと思っています。

2020年2月6日に開催した新経済連盟のセミナーで スタートアップエコシステムの形成を担う官民の当事者から、特に東京圏に焦点を当て、現状・課題・今後目指すべき方向性について議論した


――オープンイノベーション促進税制によって、どんな変化があると思いますか?

これは、事業会社やCVCが設立10年未満の非上場企業、つまりスタートアップに5年以上の株式保有を予定する1件あたり1億円以上を出資(※)すると、出資額の25%相当を所得金額から差し引く優遇措置です。
※中小企業の出資の場合は1件あたり1,000万円以上。海外スタートアップ企業への出資の場合には、一律1件あたり5億円以上。

スタートアップと協業し、イノベーションを生み出すことを国が推奨するという明確なメッセージなので、協業の必要性や新規事業を創出するマインドを醸成できるのではないでしょうか。オープンイノベーションの推進を後押しする一つの理由になると思いますし、特にスタートアップにとっては、大歓迎すべき税制だと思っています。

<参考>経済産業省ホームページ「オープンイノベーション促進税制」

2019年12月、 最先端ビジネスセミナーin 国会 にてオープンイノベーションについて講演をした


規模を縮小させても、新規事業の取り組みは継続させるべき

――新経済連盟にも、オープンイノベーションプロジェクトチームが発足しています。これからどのような取り組みを考えていますか?

このプロジェクトチーム(以下、PT)は、経済団体と行政、企業がより連携するために発足しました。現在、各地でスタートアップの育成や、地元企業の活性化の取り組みが進められていますが、オープンイノベーションという言葉自体が一人歩きしている感は否めません。

目的に応じて必要な取り組みは変わるのですが、誰のために何をやるのか、目的の解像度が低いまま進められているケースが多いんですね。加えて、協業に対するリテラシーによってもやることは変わるので、たとえば世の中の技術トレンドを知りたいだけなら、アクセラレータープログラムを実施する必要はありません。

だから、目的やリテラシーをレベル分けして、そのレベルに応じた取り組みによって成果を出せる指針や評価軸をPTで作っていきたいと考えています。

ベストプラクティスに基づいて作った指針・評価軸を、あるいは国からガイドラインとして出してもらうといった連携がPTとしてできれば、さらにインパクトも大きくなると思います。

――新型コロナウイルスによって、打撃を受けている企業や人は多いと思います。その中でもオープンイノベーションを加速させるにはどうしたら良いでしょうか。

オープンイノベーションの成果は、継続の先にしかありません。経済不安から新規事業のコストを圧縮するのは仕方ありませんが、取り組みを完全にストップさせてしまうと、次はまたゼロベースから始めることになりますし、いつまでも既存事業だけに頼ることになってしまいます。

大切なのは、規模は縮小させても新規事業の取り組みは継続させること。アクセラレータープログラムのような大規模なものじゃなくても、プロジェクト単位で小さく始められる「Steams」を活用するなどして継続することが重要だと思います。既存事業が影響を受けている場合は尚更ではないでしょうか。

実際に、「Steams」のプロジェクトの中には北海道にある企業がプレゼンテーション等含め、すべてをオンラインで実施し事業化に向けて進行しているケースもあります。新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のためにリモートワークが浸透して働き方が変わっているから、新しいビジネスチャンスにもつながるはずです。新しい体験をして気づくことはたくさんあるので、企業にも個人にも成長のチャンスになっているとポジティブに捉えることも大切だと思いますよ。

伊地知 天(Creww株式会社 代表取締役 )
高校、大学を米国で過ごす。カリフォルニア州立大学在学中に起業したことをきっかけに、これまで国内外で合計4社の企業を設立した実績を有す。現在は連続起業家として4社目となるCreww(クルー)に目下専念中!
【加盟組織・プロジェクト】
・ (社)新経済連盟 幹事
・ (社)情報社会デザイン協会 理事
・ J-Startup 推薦委員(経産省 x JETRO x NEDO)

Creww株式会社    https://creww.in/
・オープンイノベーションメディア「INNOVATIVE PORT」 https://port.creww.me/  (PORTを2020年5月からリニューアルしました!最新情報を公開中!)

文・編集/ フリーランス編集者 田村朋美
2000年に新卒で雪印乳業に入社。その後、広告代理店を経て個人事業主として独立。2012年ビズリーチの創業期に入社してコンテンツ制作に従事し、2016年にNewsPicksに入社。BrandDesignチームの編集者を経て、現在は再びフリーランスのライター・編集として活動中。スタートアップから大企業まで、ブランディング広告やビジネス記事、採用領域を得意とする。

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