村井純教授が語る「完全DX戦略」【新経連DX SALON#1 レポート】

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■講師:
村井純 様(慶應義塾大学教授、内閣官房参与)
■討論者:
井上高志 理事(株式会社LIFULL 代表取締役社長)
由利孝 理事(テクマトリックス株式会社 代表取締役社長)
吉田浩一郎 理事(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO)
藤森義明 幹事(日本オラクル株式会社 取締役会長)

2020年12月9日の平井デジタル改革相と三木谷代表理事によるDX SALON Specialに続き、2021年2月22日から「新経連DX SALON」のレギュラーシリーズが始まりました。

第1回のスピーカーは、「日本のインターネットの父」村井純・慶應義塾大学教授にご登壇いただきました。JUNETの開発から今日に至るまで、日本におけるインターネットの普及とデジタル化推進の牽引者として活躍する村井教授に、「完全DX戦略」と題してご講演いただき、新経済連盟(JANE)の理事・幹事からの質問にお答えいただきました。

会員企業様に限定したセミナーでしたが、ここでは質疑部分をご紹介します。

「太陽」になれ、目指すは世界に誇れる「人に配慮したDX化」

由利理事(以下、由利):お話の中で、「完全DX化」という言葉を使われていましたね。私は、インターネットやデジタルは中途半端な導入では意味がないという認識を持っています。過去を振り返ると、日本はブロードバンドの普及という成功や多くの失敗を積み重ねてきました。デジタルやIoTの利活用という面では、「世界に周回遅れしている」という厳しいご意見も耳にしますが、政府と寄り添って活動されている村井先生は、どのあたりが原因だと思いますか。

村井先生:一つは、強い規制。特に、医療や教育、金融のようにリスクを取りづらい領域ではデジタル化も簡単には進めづらかったと思います。もう一つは、できない人を置き去りにしないという考え方です。

しかし、私は、たとえこれが進まない要因の一つだとしても、先に進めるためにできない人を置き去りにしていいはずがないと思っています。私自身、物事を進めるときに必要な考え方としていつも話すのが、「北風と太陽」のたとえ話。「北風」になって考え方や方法を押しつけたり、できない人を置き去りにしたりして進めるのではなく、「太陽」になってできない人や反対している人の心を開かせないといけないと思うのです。できない人たちから「いいね!」「やってみるといいよね!」という共感を得られるような仕組みを作る必要があると思います。

「できない人に対して優しすぎるから先に進まない」、これは遅れの原因でもあるのですが、実は非常にポジティブなことだと思っています。日本はこの「できない人にもやさしい仕組み」をつくることができれば、世界に誇れる「人に配慮したDX化」が実現できるのではないでしょうか。

由利:完全なDX化を目指す、でも、置き去りにすることなく、みんなが使えるようにしていくということが非常に重要ですね。現状を見ていると既存のルール(アナログな手続き等)は残し、インターネットでの手続きでもどちらでもいいというような中途半端な状態となっているようにも感じます。

村井先生:2000年のIT書面一括法等には、700以上の法律に電子的な方法でも手続きができるという趣旨の表現を入れましたが、結局、変えなくてもいいのなら現状のままでいいだろうと考える人が多く、変わらない慣行がたくさんありました。こうした経験から、手続きは全てデジタルで行うというようにまずは基本の方法を変えてもいいのではと思います。でも、そこに必要なのは、デジタルでできないことや困っている人がいれば、必ず手立てをするという意味を込めることです。こうした手立てを施したうえで、「完全DX化」という言葉を使って、デジタルファーストに切り替えていく時が来たのだと思っています。

コロナ禍でデジタルを使わざるを得ない状況になった人も少なくないので、いい意味で使える人も増えてきたと感じています。使えない人が少なくなってきた時にこそ、困っている人を助けようと考える人も増え、知恵も出てくるものです。今こそ、平和に、幸せに、「完全DX化」の実現につなげられると思っています。

テクノロジーの善用をリードする日本の産業へ期待高まる

由利:産業政策面では、海外の巨大IT企業等に日本国内のビジネスを侵食されつつあるという懸念もありますが、JANEでデータ戦略を担当する吉田理事から、産業政策面でのDXについてご質問いただけますか。

吉田理事:JANEのグランドデザインプロジェクトチームでは、データ戦略について、世界に向けて日本政府としてどのような戦略を描くか、ということを議論しています。日本にも、動画やSNS等、先進的なサービスが生まれていたはずですが、米国企業のサービスに圧倒的に侵食されているという状態となっています。米国は他の国のデータの取り込みに積極的に動いています。中国は保護主義で、同種のサービスを国内で育てるという方針です。EUはGDPRや個人倫理の問題を持ち出し、国内にデータを置くということを徹底しています。日本は、民間の自由競争だという議論から抜け出せていないようにも見え、こうした状況下、どういう戦略を取るべきなのでしょうか。

村井先生:実は、日本企業が世界の中で活躍しようという根性が足りないのではないかと感じていたことがあります。データ戦略を考える上でも、世界と戦う日本企業のロールモデルが出てくることを期待しています。政策という観点では、イノベーションをサポートする体制を作っていく産業政策が必要だと思います。

井上理事:新経済を創っていくことに対して、企業経営者にアドバイスをいただけますか。

村井先生:ビフォーインターネットとアフターインターネットで変わることは、今まで別分野とされていたことが合成することで、新しい価値が生まれる領域があるということです。産業分野や自社のビジネスの守備範囲を越えたところに新しい価値が生まれるはずです。したがって、一つ目は、JANEの加盟企業の皆さんにはぜひ、そういったところにチャレンジしていってほしいと期待を込めて伝えます。

もう一つは、テクノロジーの善用を牽引していくのが日本の産業ではないかと思いますので、テクノロジーの善用という観点でのチャレンジにも期待や使命感を持っています。

日本は、技術の精度が厳しい、災害時には自律的に人を助け合う、コミュニティアセットが非常に強い、サービスに対しては非常に厳しいというような特徴があります。人や社会を見て良いことをしようとする人が多いからこそ、自然災害が起こる時に、日本ではテクノロジーが前進するのです。そう考えると、今はまさにテクノロジーの善用に、希望を持っています。

藤森幹事:テクノロジーの進化と浸透によって余る人について、将来にどういうスキルを持った人が生き残れるのかということを考えています。将来のスキルを磨くために、国として、どんどんトレーニングをしていくというようなことも必要なのではないかと思いますがいかがでしょうか。

村井先生:
同じことを考えています。DXを推進できる様々な分野の人をトレーニングできる人を増やすために、教育するということが必要なのだと思います。国が間接的に支援をしながら、トレーニングできる人を増やすというような、ねずみ算構造をつくれないかと考えています。また議論しましょう。

■講師

村井 純 様(慶應義塾大学教授、内閣官房参与)
1955年生まれ。1984年、日本で初めてネットワークを接続し、インターネットの技術基盤を作った。その後もネットワーク上で日本語を使えるようにするなど、日本での運用・普及に貢献してきたことから「日本のインターネットの父」と呼ばれる。現在も内閣のIT総合戦略本部員ほか多数の委員を務め、国際学会等でも活躍中。2013年米ISOC「インターネットの殿堂」に選ばれる。2019年フランスの「レジオン・ドヌール勲章」受章。2020年10月内閣官房参与就任。

■討論者

新経済連盟(JANE)理事/井上 高志(株式会社LIFULL 代表取締役社長)
青山学院大学卒業後、株式会社リクルートコスモス(現:株式会社コスモスイニシア)入社。株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)を経て、26歳で独立し、1997年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)設立。2010年に東証一部上場。また、新経済連盟理事、一般財団法人「NEXT WISDOM FOUNDATION」代表理事、一般社団法人「21世紀学び研究所」理事、一般社団法人「Living Anywhere」理事も務めるなど精力的に活動している。

株式会社LIFULL   https://lifull.com/

新経済連盟(JANE)理事/由利 孝(テクマトリックス株式会社 代表取締役社長)
早稲田大学理工学部建築学科卒。ニチメン株式会社(現:双日株式会社)入社。2000年に39歳でテクマトリックス株式会社の代表取締役社長に就任。ITバブル崩壊を乗り越え2005年にジャスダック上場、2013年に東証一部上場、これまで18期連続増収を達成する。サイバーセキュリティ、医療IT分野等の知見を活かし、新経済連盟のグランドデザインPTのチームリーダーとして、日本全体のDX推進のため様々な政策提言を実施。趣味はお酒と音楽鑑賞。

テクマトリックス株式会社 https://www.techmatrix.co.jp/index.html

新経済連盟(JANE)理事/吉田 浩一郎(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 CEO)
株式会社クラウドワークスは「“働く”を通して人々に笑顔を」をミッション、「働き方革命〜世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」をビジョンに掲げ、日本最大のクラウドソーシング「クラウドワークス」をはじめとした人材ミスマッチを解消し、労働市場をアップデートする事業を展開。2019年12月末時点での提供サービスのユーザーは332万人、クライアント数は50万社に達し、内閣府・経済産業省(以下経産省)・外務省など政府12府省を筆頭に、80以上の自治体。行政関連団体にも利用されている。 2014年に東証マザーズ上場、2015年には経産省第1回「日本ベンチャー大賞」ワークスタイル革新賞および、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞。

株式会社クラウドワークス  https://crowdworks.jp/

新経済連盟(JANE)幹事/藤森 義明(日本オラクル株式会社 取締役会長)
1951年東京生まれ、1975年東京大学工学部卒業後、日商岩井入社(現:双日)。1981年、米カーネギーメロン大学MBA取得。1986年日本GE入社。1997年米GEコーポレート・オフィサー、2001年アジア人初のシニア・バイス・プレジデント就任。2008年日本GE会長 兼 社長 兼 CEO兼任。2011年LIXILグループ 取締役 代表執行役社長 兼 チーフエグゼクティブオフィサー。2012年東京電力社外取締役。2018年8月より現職。その他、新経済連盟幹事、経済同友会副代表幹事・経済連携委員会委員長、武田薬品工業社外取締役、ボストン・サイエンティフィック コーポレーション社外取締役、CVCキャピタル/パートナーズ日本法人最高顧問、東芝社外取締役、資生堂社外取締役。

日本オラクル株式会社 https://www.oracle.com/jp/index.html

文・編集/新経済連盟 広報部
https://jane.or.jp/

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