ベクトルグループ/西江肇司 「アジアNO.1規模のPR会社から、モノを広めるFAST COMPANYへ」

「いいモノを世の中に広め人々を幸せに」をビジョンに掲げ、アジアNo. 1のPR会社といわれるベクトルグループ。アジア各国に進出し、2012年に東証マザーズに上場(14年に東証一部)。PR TIMESやNews TVなど40社以上の子会社を設立し、さらに10社を超える買収によって、創業から30年経たずに巨大なPRグループへと成長されました。

そんなベクトルグループは、「アジアNo. 1規模のPRグループ」から「モノを広めるFAST COMPANY」になるべく、1,000億円規模のPR市場だけでなく、6兆円規模の広告市場にも挑戦しようとされています。ベクトルグループの創業者・会長であり、JANE幹事の西江肇司氏に、ベクトルグループのビジネスと、JANEで取り組みたいことについて伺いました。

取材日:2021年9月30日
※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称
▼新経済連盟 https://jane.or.jp/​

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PR事業は2000年に参入。圧倒的スピードでアジアNo. 1規模へ

――ベクトルグループといえば「アジアNo. 1規模のPR会社」ですが、西江幹事がベクトルを創業されたときの思いをお聞かせください。

創業は1993年、私が大学生のときにベクトルを創業しました。ただ、最初からPR会社を立ち上げたのではなく、当時はどんなビジネスに軸足を置くべきか、模索しながらのスタートだったんです。いろんなビジネスに挑戦するなかで、「これだ」と思ったのがPR事業。そこで、2000年から日本一のPR会社を目指すべく、PR事業に舵を切りました。

――2011年の上海進出をきっかけに、矢継ぎ早にアジア各国へ進出されています。何かきっかけはあったのでしょうか。

もともと中国でビジネスをしたいと思って何度も足を運んでいたのですが、実際に中国進出の引き金になったのは、リーマンショック以降、小売や流通の中国進出ブームが始まったことでした。これはPR会社としては絶好の商機。中国に進出する日本企業のPR活動を我々が引き受けようと考え、アジアNo. 1のPR会社になるべく上海に進出しました。

当時、私なりに掴んだ海外進出のコツは、現地のPR会社上位30社近くと面談し、現地のPRの現状を自ら見聞きし、生の情報を得ることでした。PR手法やクライアントの傾向、仕事の仕方などを聞くと、現地のPR業界が手に取るように分かります。現地のPR業界の情報は自身が一番詳しい、つまり、現地のPR業界情報のプロになる気持ちで、状況をきちんと理解し、上海やタイ、韓国、ベトナム、マレーシアなど現地の小さなPR会社を買収することで、アジア各国へ次々と進出を果たしたのです。

日本では、スタートアップでも当たり前のように、ニュースがあればプレスリリースを出しますが、他国、特に中国では大企業以外でニュースを発信することはありません。なぜならその情報はほとんど誰にも届かないから。こうした国それぞれの事情をきちんと理解した上で進出できたのは良かったと思っています。

株式会社ベクトル 2022年2月期 第2四半期 決算説明資料より抜粋

1,000億円規模のPR市場から、6兆円の広告市場へ

――広くアジアに展開したことで、ビジネスに変化はありましたでしょうか?

日本の場合、たとえばWeb制作会社を立ち上げたら、ほとんどが10年後もWeb制作会社ですが、中国のPR会社はPR会社であることに拘っておらず、デジタルの会社になったりインフルエンサーの会社になったりするんです。

その状況を見て気づいたのが、“モノ”を広めるためなら、一つの業態に拘らなくていいんだ、ということ。極端な言い方ですがPRを捨てていいんだ、拘らなくてもいいんだという気付きは、その後の経営においてもとても参考になりました。事業のフィールドをPR市場に閉じず、あらゆる手法を組み合わせながらワンストップで“モノ”を広める会社になるために、市場規模が1,000億円のPR市場だけでなく、6兆円の広告市場も狙うことを決めました。

実際、今は日本でもプレスリリースを出したからといって、情報が届けたい人に届くことは稀で、SNSで話題になる方がよほど影響力のある世界になっていますよね。広告も、10年前までは多額の制作費用をかけてテレビCMや新聞、雑誌に掲出していましたが、今はインターネットやスマートフォン、SNSの急速な普及と、動画広告などマーケティング手法の発達によって、従来のようなコストをかけなくても届けたい情報を届けたい人に直接届けられるようになりました。

これは言い換えると、本当に顧客視点で考えないと“モノ”は届けられないし、広まらない世の中に変わったということ。仮に、Z世代に届けたい情報をテレビや雑誌に載せても、ほとんど効果はないでしょう。

加えて、テクノロジーの進化は、複雑だった「モノの流れ」をとてもシンプルに変えました。D2Cのビジネスが増えたのは、シンプルにモノを届けられるようになったからで、中国ではライブコマースで1日に数百億円を売り上げるライバーも出てきているほど。だから、我々もボタンひとつでモノが広まっていくような、シンプルな世界を作りたいと思っています。

低コストでスピーディにモノを広める「FAST COMPANY」を目指す

――今後、西江幹事はどのようにビジネスを展開していきたいとお考えでしょうか。

企画から製造、小売りまでを一気通貫で行っているユニクロやZARAのような、顧客目線かつ一気通貫でモノを広める「FAST COMPANY」になりたいと考えています。

今のPR業界は、動画制作会社は動画制作事業、広告会社は広告企画事業といった具合に手段ごとの分業体制で構成されているため、顧客企業が委託する際は複雑です。だけど、顧客が求めているのは、自分たちの商品やサービスをターゲットに確実にお届けしたいという、とてもシンプルなこと。

たとえば、経営者が出版した書籍をPRしたいとき、プレスリリースを書いて発信するよりも、経営者本人が本について語っている30秒程度の動画をタクシー広告に出稿した方が認知も本に注いだ思いも広められると思うんです。きっとその方が、文章で説明するよりもわかりやすく興味喚起できるはずだと思っています。

今、弊社内にない技術はそれを有する企業にベクトルグループに参画してもらい、グループが持つリソースをフルに活用することで、社内で情報の整理・加工から配信までを一気通貫でできるビジネスモデルを構築しています。

そして、低コストでスピーディにモノを広める「FAST COMPANY」になり、PRの枠にとらわれない、唯一無二のグループを作りたいと考えています。

株式会社ベクトル 2022年2月期 第2四半期 決算説明資料より抜粋

政治と経済の距離を縮めるために、若い起業家も仲間にしたい

――西江幹事は2019年にJANEに参画されました。JANEに期待することや、今後取り組みたいことを教えてください。

私は2019年下期にJANEに加入して、その後すぐにコロナ禍になりました。このため、JANEが毎年開催していたグローバルカンファレンスのように人を会場に集めた大規模なイベントが開催できていなくて、本業を生かした具体的な活動はまだできていません。しかし、今ではワクチン接種も進捗し少しずつ状況が改善する兆しもあるので、今後の様子を見ながら、JANEの活動を広く伝えていくお手伝いができればいいなと思っています。というのも、ベクトルグループとして政治家や東京都のPRに携わった経験から痛感したのですが、政治と経済には驚くほど距離があります。せっかく良い政策提言をしても、わかりにくかったら伝わりません。提言タイトル等、ネーミングも含めてわかりやすく伝えることに貢献したいですね。

それから、政治と経済の距離を縮めるためには、若い経営者も参画したくなるような団体にする必要があると思うんです。今でもJANEは経済団体としては平均年齢も若いですが、さらに若い経営者たちがどんどん参画したくなるような団体像を想像しています。私は上場を目指す若い起業家を支援したいと、これまで200社以上のスタートアップに投資してきたため、若い起業家とのネットワークがあります。

私にとってライフワークである起業家支援に、JANEの活動をうまくリンクさせることで、これからの社会を担う若い世代の声を日本の政治に届け、動かす影響力のある団体へと進化させたい。日本がグローバルで競争力を発揮できる国になるよう、国力を高めるお手伝いができたら嬉しいです。

2019年9月実施の幹事会の様子

西江 肇司(にしえ・けいじ)
 幹事(株式会社ベクトル 創業者・取締役会長

1968年生まれ、岡山県出身。
大学在学中に起業し、1993年にベクトルを設立。2000年よりPR事業を中心とした体制に本格的に移行。独立系PR会社として業界トップレベルの地位にのぼりつめ、2012年に東証マザーズ上場、2014年に東証一部指定替え。
現在、中国、香港、台湾、韓国、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナム、マレーシアなどに現地法人を設立。直近ではPRとテクノロジーを組み合わせた最新マーケティング手法を武器に、アパレル業界のファストファッションのように“LowCost”“HighQuality”なサービスを提供する「FAST COMPANY」を目指している。グローバル専門メディア「PRWEEK」のTop Consultancies 2020 Asia-Pacificランキングではベクトルグループが1位に選出。「いいモノを世の中に広め、人々を幸せに」という理念のもと、既存の事業にとどまらず、新たな事業の創出に挑戦している。

株式会社ベクトル https://vectorinc.co.jp/

文・編集/ フリーランス編集者 田村朋美
2000年に新卒で雪印乳業に入社。その後、広告代理店を経て個人事業主として独立。2016年にNewsPicksに入社。BrandDesignチームの編集者を経て、現在は再びフリーランスのライター・編集として活動中。スタートアップから大企業まで、ブランディング広告やビジネス記事を得意とする。

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