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奄美市Xランサーズ『フリーランスが最も働きやすい島化計画』

奄美市Xランサーズ『フリーランスが最も働きやすい島化計画』
 
 
☆今回のキーパーソン
勝 眞一郎(かつ・しんいちろう)
1964年生。奄美市名瀬出身。
NPO法人離島経済新聞社理事、サイバー大学IT総合学部教授、バローレ総合研究所代表。著書に『カレーで学ぶプロジェクトマネジメント』がある。
大学と大学院で経営情報システムを学んだあと、大手製造業に入社。経営企画、情報システム、製品設計、製造、販売、物流、アフターサービスの各部署を担当。4年半の米国駐在。18年務めた後、独立し、現在は奄美大島と神奈川県の藤沢の二地域居住。奄美市産業創出プロデューサーとして「フリーランスが最も働きやすい島化計画」(http://www.amami-freelance.com/)を企画・運営する。
 
◇取材協力:ランサーズ株式会社
 
 
インタビューに先立ち、ランサーズ主催「人口4万、奄美市の新たな仕事創出策に学ぶ、事例共有会」での勝氏の講演を取材しました。概要をご紹介します。
   

   
○はじめに
奄美市が掲げているのは『暮らし方』を重視した「どこにいてもできる仕事、ここでしかできない暮らし」です。今回のランサーズさんとのプロジェクトでは、インターネットを使ってどこでもできるクラウドソーシングの仕事を、島での暮らしに役立てたいという人に提供しています。
   
○自身の働き方について
いま私は2地域居住をしていて、奄美に2週間・東京に2週間という暮らしをしています。昨年までは奄美市の「情報通信産業インキュベーションマネージャー」という肩書きでしたが、今年度からは「産業創出プロデューサー」に変わりました。IT関係のこと以外にも、市の総合戦略や観光、それから奄美には大島紬という伝統産業がありますが、その再生のための事業にも取り組んでいます。
私のもう一つの肩書きは、「サイバー大学」の教授です。立ち上げのときから10年、プロジェクトマネジメント系の科目を中心に8科目を教えています。また、離島経済新聞社というNPO法人の理事でもあります。そこが発行するWebメディア離島経済新聞では、毎月1日にコラムを書いています。さらに、製造業のコンサルティングを中心としたバローレ総合研究所の代表として業務コンサルティングの仕事も行っています。
よくどれが本業なのですかと聞かれますが、全て本業です。
   
○奄美大島について
奄美大島は鹿児島と沖縄の真ん中ぐらいにある日本で2番目に大きな島です。奄美空港へは羽田からの直行便が1日1便。成田からの直行便も1日1便、夏は1日に2便が飛びます。大阪と関空からそれぞれ1日1便、福岡からも1日1便、鹿児島からだと1日7便が飛んでいます。直行便がある離島ということで、奄美は非常に便利な離島です。
私の仕事場も空港から歩いて15分、車なら2分です。仕事を含む移動生活に重要なのは、地理的にどのくらい離れているかではなく時間的にどれくらいかかるかということです。
   
○奄美市の産業振興3本柱
奄美市では、観光・農業・情報通信を産業振興の3本柱にしています。私が奄美市からお話をいただいたのは2012年ごろですが、その頃のIT業界というとインドや中国へのアウトソースが進んでいて、日本のエンジニアはいらなくなるのではないかと言われていた頃でした。そんな中で産業振興するにはどうすればいいか。奄美出身者として、何とかしないといけないという思いがありました。
   
○離島が抱える悩み
奄美に限らず、離島においては、以下のような悩みがあります。
  • 地元のマーケットが小さい
  • 都会のマーケットまで遠い
  • 進学・就職で人口が流出
  • ネット環境が未整備
  • 移住者の住居確保が難しい
  • IT人材の仕事不足   
○IT産業振興策
では産業振興の3本柱のひとつである情報通信の分野で何をしてきたかというと、当初は企業誘致を行いました。しかし、奄美に100人規模のIT企業の誘致というのは難しい。企業サイドにしてみれば移転するだけの理由がありません。
そこで既にあった地元の中小のIT企業が都会の仕事を受けられるようにしました。オフショア(海外委託)ではなくニアショアということになります。少人数で出来る仕事というのは限られているので、大きな仕事が来ても受けられるよう、2010年に「奄美情報通信協同組合」を作りました。小さな会社でも組合としてまとまると100人以上の規模になります。16社でスタートして今は19社(平成28年7月現在)になり、品質の良い仕事が評価され軌道に乗っています。
   
○島のフリーランスが抱える悩み
次に何ができるかということで考え、注目したのが個人です。つまりフリーランスの力を高めようということです。
まずは奄美にいるフリーランスの方々に、何に困っていますかという意見を聞きました。
すると、
  • ネット環境:島の中心部でしか光回線が使えない
  • 高度でピンポイントな教育:たとえばAdobe製品の新しい機能の使い方だけが分からない、というときに教えてくれるところがない
  • コミュニティ:島にいる仲間のコミュニティがない
こういった声がありました。
そこで、こういった問題を何とかしましょうというところからスタートしたのが、「フリーランスが最も働きやすい島化計画」です。
   
   
○ランサーズを選んだわけ
奄美市とランサーズが連携協力の協定を結んだのが2015年7月1日です。なぜ奄美市がランサーズさんと組んだかといえば、ビジョンが一致したからです。奄美市が提携する企業を選ぶときに大事にするのは、まずビジョンが一致しているかどうかです。細かいところよりもビジョンが一致しているほうが、色々な施策が一緒にできます。次に重要なのはスピード感。自治体との提携はランサーズさんにとっても初めてのことでしたが、これをしてほしい/これができますというカードをお互いに出し合って、実現できることが明確になりました。それが次の3つです。
  1. 広報:奄美市としてターゲットを絞ったのは、都会へ出て行った奄美出身者。どの自治体もそうだと思いますが、自治体が発信してもあまり届きません。それを東京から全国に発信してもらい、実際にNHKや日経新聞といったメディアを通じて情報が届くと、地元の奄美に帰ってみようかなと興味を持ってもらえる。それがIターンにも広がります。
  2. 人材育成:ランサーズさんが持つノウハウを生かして「フリーランス寺子屋」を作りました。若い人や子育て中のお母さんが多く参加してくれています。
  3. 仕事機会の創出:島のフリーランスと仕事をつなぐために、ランサーズさんが持つルートは大きな強みになります。
○スキーム
体制として、自治体・地元事業者(エリアパートナー)・地域住民の三角形の真ん中にランサーズさんが入る、そういうスキームにしました。
このスキームに自治体が入ることの大きな意味は、「クラウドソーシングって何?」「渋谷のランサーズって大丈夫?」という地域の皆さんの不安に対して、市長自らトップに立って進めていますということを伝え、市の政策だという安心感を持ってもらえるからです。
ただ、実際に地域で動くプレーヤーとしては行政だけではなかなか難しい部分があるので、地元で情報サイトや地域ブログを運営している「しーまブログ」に、地域の事業者として研修などのフリーランス育成やコミュニティづくりを担ってもらうことにしました。彼らは普段から地元のお母さんたちの心を掴んでいるというのが強みです。
   
○「フリーランスが最も働きやすい島」を目指して 
最後に、奄美市として掲げている目標を紹介します。
  1. 5年間で200名のフリーランスの育成
  2. 5年で50名の移住支援
  3. 子育てをしながら年収150万以上を稼げるフリーランスの育成
  4. 年収300万円のフリーランスの育成
この4つを「2020年までの5か年達成目標」にしています。
   
   

   
★個別インタビュー★
   
奄美市の仕事を引き受けられた経緯とは?
奄美市では2012年に情報通信産業の振興のためのインキュベーション施設を作りました。そこへ企業誘致や仕事を誘致するのに、どういう人にマネージャーを依頼したらいいだろうかという相談が最初でした。
他の自治体でもインキュベート施設が作られていますが、誘致策で安く部屋の利用料を設定しているにも関わらずあまり企業が入っていなかったり、入ってもすぐ出て行ってしまったりという問題があります。また「インキュベーションマネージャー」と言っても、IT企業や銀行を退職した方で事業計画にアドバイスする役割だったりします。しかし起業した人自身が事業計画を書き責任を持つわけで、サポートして欲しいのは、「そういう事業をやっているならこういう仕事があるよ」と仕事を持ってくる人が必要ではないかと。そういういうことならできますということで、インキュベーションマネージャーをお引き受けしました。
   
   
奄美に感じていた可能性とは?
3つあります。1つはもともと優秀な人材がいること。今活躍している場は東京や大阪であっても、人材はいる。そういう人たちをうまく巻き込めたら、いろいろなことができると思いました。2つ目は自然や文化。奄美にはとてもいい形で残っていますので、アピールしやすい。「ここでしかできない暮らし」です。もう1つは、先ほども言ったように直行便があって交通インフラが整っていることです。私は離島経済新聞の理事も務めているので418の離島を見ていますが、この3つを揃えることは実は難しい。奄美は恵まれています。
さらに、メディアにも取り上げてもらいやすい。子育てをしながらフリーランスとして仕事をしている様子が普通の地方よりも絵になる、ということはあると思います。
   
ランサーズとの提携のねらいとは?
まず戦略として、ニュースバリューは重視していました。「初めて」という取り組みにしたかった。そこでランサーズさんに直接問い合わせて、まだほかの自治体とはまだやっていませんよねと。行政の中や議会に対してなぜランサーズなのかという説明が必要なときにも、自治体として初の取り組み、かつナンバーワンの企業との連携だと言うことで了承を得ました。
クラウドソーシングについては、奄美市の朝山市長は自らの体験から「大島紬の織り子さんというのは、組織に所属せずに個人で仕事をしている。織元から糸を預かり、織ったら納品し、また別の日には別の織元から糸を預かる。私の母もそうであった。どこにも所属しないという意味で奄美には昔からフリーランスの働き方があった。」と理解してくださいました。
   
地域の事業者(エリアパートナー)の役割とは?
今回のスキームに入ってもらったしーまブログのメンバーは以前からよく知っていました。ランサーズさんとの取り組みが決まると、即、お願いしました。しーまブログはイベントの経験もあり、日頃から取材もしているので島のどこにどんな人材がいるのか知っています。人を呼ぶ仕掛けなどもよくわかっています。
以前に別の自治体でも奄美のようなスキームでやりたいということで、しーまブログのような動きができるところを探していました。しかし、ITリテラシーが高くて、ディレクション能力があって、地域をよく知っている、そういう組織はなかなか見つからなかったということでした。その意味では奄美は役者が揃っていたと言えるかもしれません。
   
フリーランスがコミュニティを必要としている?
2年前に成田からのLCCの直行便ができ、奄美には片道5,000円くらいで来ることができます。それで人の流動化というか、若い人が来やすくなり、お試しの移住が増えたという流れがありました。そういう移住者のフリーランスの中に、コミュニティが欲しいというニーズがありました。フリーランスというのは集団とか組織を好まない人が多いと思っていたので、これは意外でした。
でも彼らがほしがっているのは緩いコミュニティです。会長がいる・部長がいるといった形で組織化されてしまうと、縛られたくないということで参加しなくなってしまう。そこで「フリーランスカフェ」という企画を2回開催しました。ただ、若者がいたり子育て中のお母さんがいたり、みんなの都合のいい日というのが難しい。運営はなかなか大変でした。コミュニティ作りはこれからも色々と模索していきます。
   
地域にフリーランスが溶け込んでいる?
フリーランスというのは、先ほどの奄美市長の言葉にもあるように、実はもともとあった島での働き方と同じであると思っています。島に限らず田舎というのは1人がいろいろな仕事をしなくてはいけません。どんな仕事をしていても、田舎では草刈りは基本です。奄美で言えば、サトウキビの収穫の時期には手伝いにいくし、台風が去ったら片付けをします。
焼き鳥屋をやりながら夜は空港の草刈りをしていたりというふうに、みんな3つ、4つの仕事を持っている。ですからフリーランスのような働き方がそれほど珍しくないのだと思います。
   
5カ年目標の達成に向けて、手応えは?
移住者50名という目標設定は高めですが、フリーランス育成200名は不可能ではないと思っています。フリーランスといっても、鉄を使ったアートの作家さんとか、ステンドグラスの製作をしている人とか、個人でツアーガイドをやっている人もいる。ライティングだけだったら少ないかもしれませんが、仕事のバリエーションは広がっていきます。
高めの数値目標は島全体で盛り上がるという効果もあります。「奄美フリーランス協会」というものがあって今の登録数は40人超です。まだ登録してないフリーランスは私たちが知っているだけで100人程はいますので、あと60人というのは難しくないと思っています。
   
ここまで計画通りに進んできた?
「思ったより行政の後押しが力強い」というのが本音です。どうやって解決していったらいいかは分からないけれど、みんな問題意識は同じところにあったということだと思います。
たとえば企業誘致といっても、企業や工場が離島に来る理由がない。それなら奄美が持っているポテンシャルは何かといえば、暮らしやすい・子育てがしやすいこと。そしてそれは個人に対してアピールできる。そうやって今回このプロジェクトを進めてみて、メディアに取り上げられたり、成功事例としてほかの自治体からも参考にしたいと問い合わせがくるようになりました。そうすると課題だったネット環境の整備についても、光回線にしていこうということで市で予算化されるようになりました。
「フリーランスが最も働きやすい島化計画」の名称も、打合せの中で出てきたときはこのままでは通らないだろうと思っていました。こういう柔らかい表現をつかったのは市としては初めてです。2016年10月には「フリーランスが最も働きやすい島化計画」のWebサイトもオープンしています。
   
奄美の取り組みは他の地域でも応用可能?
多くの地方ではまだ首長、役所、議会といったところはオールドスタイルです。新しいことよりも今までやってきたことに気を配り、優先してしまう。
ですから1つ目のステップは、今の状態が課題だと認識できるかどうかです。たとえば人口流出が問題なら、何かしなければいけないと思えるかどうか。2つ目はその課題を解決する意思があるか。具体的に言えば、きちんとした担当課を設けて予算を付けられるかどうかです。そして3つ目が実行する力があるか。
多くの自治体が最初のステップ、課題を認識するところで終わってしまっています。たとえば観光分野でDMOを作ろうとしても、国が言うように地域に委員会を作り、事業計画を作り、でもその先は国からのお金が出ないとなると、そこで止まってしまう。
さらに意思を持って実行するという点では、地方ではプレーヤーが少ないという問題があります。東京と地方の温度感の違いをわかったうえで、地方に人を呼び込める人間がいるかどうかがキモです。ランサーズ秋好社長が言う「地域アクセラレーター」です。そういう人がいるところはスピード感もあるし、回っていきやすい。地域の中だけで何とかしようではなく、企業も含めて外側の人を巻き込む自治体は強いと思います。
奄美に特殊な事情があったわけではありません。新しいことに予算をつけ、人をつけ、目標設定する。その覚悟があればできると思います。
   
――― 最後に。大切にしている言葉は?
悲観的に計画し、楽観的に実行する」。
私はプロジェクトマネジメントが専門分野なのですが、計画をするときは念入りに、人を巻き込み、これまでの経験も踏まえ、あらゆるリスクを考えます。ですが、やると決めたらやる。
地方では実行に対して悲観的なところが多いのですが、予算を取ったのなら最大限やればいい。守りに入ってしまう気持ちもわかりますが、それでは新しいこと、面白いことはできません。
   
 ランサーズの皆さんと


フリーランスの可能性、離島の可能性が無限に広がる奄美市の取り組み。
今後の展開が注目されます。
勝様、ご協力本当にありがとうございました。
   
   
   
   
<本プロジェクトに関するお問い合わせ>
奄美市商工観光部商水情報課 フリーランス支援窓口 
0997-52-1111(内線1424) Email: ict@city.amami.lg.jp
      
<本インタビューおよび『地方創生2.0 ‐先進事例のキーパーソンが語る-』に関するお問い合わせ>
新経済連盟事務局 地方創生PT担当 Email: info@jane.or.jp
   
   
   
   
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以上