Gunosy / 竹谷祐哉「危機感の欠如が生んだAI市場の世界との差、形勢逆転を狙う」【前編】

新経済連盟(JANE)幹事/竹谷祐哉(株式会社Gunosy 代表取締役社長)

情報化社会においてAIを活用し、様々な情報を提供している株式会社Gunosyの代表取締役社長 竹谷 祐哉氏。JANEにおいては今年立ち上がったAIプロジェクトチームのリーダーとして、2020年4月には政策提言を行いました。竹谷幹事に、日本のAI実装の現在地や海外諸国と比較した課題、今後国や企業に求められることなどについて伺いました。こちらの記事は、前編・後編でお届けします。(後編はこちら

※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称

取材日:2020年9月9日

目次
1.AI実装にはデジタル化が大前提
2.withコロナの経済活動にはAIが必要
3.危機感の欠如が諸外国との差を生む
4.大学への働きかけで優秀なAI人材を採用

AI実装にはデジタル化が大前提

-まずは日本社会におけるAI実装の現状について教えていただけますか。

AIの実装については、直近の2、3年で大きく状況が変わってきていると感じています。2010年頃からビジネスの現場でAIが使われるようになりましたが、それがAIだという認識がされていませんでした。今ではAIを使っているのが当たり前という考えが広がってきています。

実装するにあたって、まずはデジタル化されていることが大前提です。通常業務が紙ベースであったり、対面のコミュニケーションが中心であったりする会社では、基となるデータがありません。そのため、まずは業務をデジタル化し、データを集めるところから始める必要があります。現在、政府と民間で進められているデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の動きとも相まってデジタル化が進み、AIの社会実装が加速していくと推測しています。

新経済連盟(JANE)幹事/竹谷祐哉(株式会社Gunosy 代表取締役社長)※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

withコロナの経済活動にはAIが必要

-あらためてAI化のメリット、デメリットについても教えてください。

一番のメリットは生産性向上ですが、新型コロナウイルス感染症の影響下においては、感染拡大を防ぐためにも役立ちます。AIにより仕事をなるべく機械化・自動化し、人が介在している業務を減らすことで、密を避けながらも経済活動を推進していくことができます。

新型コロナウイルス感染症の流行によって、否応なくデジタル化・AI実装への動きが加速しています。分かりやすいのは印鑑をなくす動きです。デジタル署名が進み重要な書類がオンライン化されると、データの数が増えます。紙だと気付けなかったデータの共通性などを見出し、有用性の高いデータとして抽出することでAI化に活用することができます。一度全てがデジタル化すると、生産性向上へのヒントが一気に見えてくると思います。

デメリットは強いて言うなら、取り残される人が出てくることへの懸念です。AIが当たり前の世界になると、デジタル技術にどれだけ触れてきたかでリテラシーの差が生じ価値を発揮しにくい人や波に乗れない人が出てくることが懸念されます。後ほど触れますが、その意味でも教育が非常に重要になってきます。

危機感の欠如が諸外国との差を生む

-JANEのAIプロジェクトチームにて、2020年4月に発表したAI実装に向けた政策提言(※)のポイントをお聞かせください。特に、諸外国と比べた日本の課題について教えてください。

アメリカや中国に比べ日本のAI実装が遅れている理由は、様々な要因が複合的に絡み合っていますが、経済成長を経験した日本がここ数十年努力を怠っていたからだと捉えています。

敗戦後、海外諸国に対して経済・技術の面で勝つために、生産性を高めようとする意識が個々人にもあり、その結果トヨタ自動車(株)様など日本を代表する企業が海外に進出していきました。バブル崩壊後に生まれた私が就職活動していた2011年当時でも、日本はものづくりでナンバー1であるという雰囲気がまだ蔓延していました。大手メーカーに入れば一生安泰という風潮です。しかし、海外勢の侵略は既にその頃から起きていました。周りを見渡すと皆、FacebookやInstagramなどのソフトウェアを、iPhoneや海外製のスマートフォンなどのハードウェアで使っていました。家電量販店でも日本メーカーの販売面積が縮小し、代わりにLGなど安価な海外製品売り場が拡大していきました。

日本が経済的な余裕があると感じていた間、中国は海外のIT企業を規制して内需を育てようと動きましたし、教育にも投資しAI人材を多数輩出しました。このような動き方を見ても、2020年代に必要とされるような人材を、2000年頃から既に仕込んでいたのではないかと思います。中国やインドが国家ぐるみで努力を続けていた半面、日本は最近になってようやく海外の技術力に焦り始めたわけです。
これまで、他国が思い切った政策を進める中、日本は国全体としてスピード感を持って行動し振り切るという意思決定をしてきませんでした。人口やハングリー精神からしても、日本国民が自発的に意識を高めるだけでは追いつきません。国としての行動が必要です。日本政府や民間も、戦わないとまずいと痛感し始めているので、大きく舵を切るタイミングは今だと思います。

国も危機感は持っていますが、海外との具体的な差分や、AI自体を正しく理解していないこともあります。AIに理解が深くかつ発言権があるという人たちが、正しく導いていくための方針やビジョンをつくり、見本を見せていかないと変化しないと感じています。

(※) 2020年4月提言:「AI実装に向けた政策提言~実装スピードのギアチェンジを~」

大学への働きかけで優秀なAI人材を採用

-Gunosyでは多くのAI人材が活躍しています。なぜでしょうか。

Gunosyでは、AIを活用してサービス提供・会社経営していることをメッセージとして強く打ち出しています。弊社の技術者が会社のブログや研究開発の場などで積極的に対外発信していますし、R&Dチームも設置していて、国際会議で論文を提出して採択された実績もあります。技術者から見てキャリア形成する上で、Gunosyで働いてみたいと思ってもらえるように努力しています。

その一つとして、大学へのアプローチも行っています。早稲田大学への寄附講座や東京大学や豊橋技術科学大学との共同研究、そのほか理系大学でのゲスト講座等も行い、大学とのつながりをつくり、結果的に優秀な学生の採用にも繋がっています。

大学側は前向きに受け入れてくださるので、人材が採用できず困っている企業側から歩み寄る動きが必要です。企業側は採用ではイベントや人材紹介会社など出口のところにだけ費用を投じがちですが、大学に向けたアプローチをして関係をつくるべきです。弊社では、大学に投じる費用を投資として捉え、長い目で人材を育てるという方針です。長い目で人材を育てるという方針で取り組む企業が増えてくると、10〜20年で業界全体として意識が変わっていくのではないでしょうか。

そうしないと、国内の大学が育てた技術者が、海外のIT企業に取られる流れを食い止めることはできません。会社のネームバリューや給与もそうですが、技術者が「何かおもしろいことができそう」と思えるようなデータ量が、国内企業は圧倒的に少ないのです。その状況でも、なぜ海外の巨大IT企業ではなく当社(Gunosy)なのか、を説明できる状態にすることが必要です。例えば海外の巨大IT企業だとデータ量は確かに多いですが、規模が大きい分、若い一技術者がどこまで根幹に携われるかは分かりません。一方、日本のベンチャー企業のほうが、技術者の能力やクリエイティビティを発揮する環境にあるとも考えられます。そのように自社でできることを積極的にアピールしていかねばなりません。

後編はこちら

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新経済連盟(JANE)幹事/竹谷 祐哉(株式会社Gunosy 代表取締役社長)

早稲田大学創造理工学部経営システム工学科卒業。グリー株式会社を経て当社に参画。2013年8月取締役最高執行責任者、2016年8月代表取締役最高執行責任者、2018年8月より代表取締役最高経営責任者、2020年6月より代表取締役社長に就任。

株式会社Gunosy   https://gunosy.co.jp/

文・編集 / 木原 杏菜(きはら・あんな)
鹿児島県出身。PR代理店にてPRコンサルタントとして活動後、楽天株式会社の広報部にて新規サービスの広報に携わる。その後freee株式会社に転職しスタートアップの広報を経験後、独立。企業や団体の広報活動支援や、ライティング業務などを行っている。

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