東急/野本弘文 進化するメディアで「常識」を変革していく。 世界を驚かす仕掛けを生むビジョンとは【後編】

鉄道事業者やデベロッパーとしての顔だけでなく、近年ではMaaS事業でも移動手段のシームレスな観光実現に奔走するなど常に数歩先の未来づくりに挑む東急株式会社。一方、渋谷駅周辺の再開発では屋上展望施設が大きな注目を浴びた「渋谷スクランブルスクエア」の建設など、世の中をあっと驚かす仕掛けを次々に生み出しています。

その仕掛け人ともいえるのがJANEの幹事であり、東急株式会社 代表取締役会長の野本弘文氏。インターネット黎明期からメディアに精通する野本氏は、日々進化するメディアとリアルを融合することで「不可能と考えられてきたことが可能になっていく」と語ります。街づくりや観光業、エンタテイメントから教育まで、ポストコロナを見据えたビジョンを伺いました。

前編と後編に分けてお届けします。
前編はこちら

取材日:2021年5月25日
※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称
▼新経済連盟 https://jane.or.jp/​

目次【後編】
1.リモート教育の進化が観光業を変えていく
2.この国の変革をJANEに期待したい

リモート教育の進化が観光業を変えていく

―従来からJANEは観光に関しても積極的に提言しております。ニューノーマル時代の旅行の在り方についてどのように考えますか。

コロナ禍をきっかけにリモートワークが可能になり、ネットを使えば会社から離れていても仕事できるというスタイルが浸透してくることによって、観光には良い影響が出てくるかもしれません。観光客数が年間を通じて平準化しやすい環境に近づくためです。

かつて私が東急不動産に出向していた頃、ハーヴェスト事業ではリゾートや観光事業のピークカットをいかに実現するかという課題に取り組んでいました。これらの事業は稼働しないときは大きなコストになり、かと言って需要が中間程度になるように観光客を集めればピーク時は逸失利益になる。「山」のところを平準化させて全体ボリュームを増やすことが理想です。

それにはリモート教育の進化がカギを握ります。子どもたちは動画でいつでも授業が受けられて、質問には先生が後から回答するようになる。すると平日は学校へ行くのが当たり前という日常が変わり、週の真ん中の平日は家族で休んで旅行に行くことが可能になれば、道路の混雑を避けて旅館も混雑期よりも安価に宿泊できるようになるかもしれません。JANEの中でも、学校教育に土日を活用して休みを平日にも振り分けることについて意見が出ていますよね。

新経済連盟「観光立国復活に向けた緊急提言」(2020年12月)

「観光立国復活に向けた緊急提言」(2020年12月)

子どもにとっては、テスト以外の経験・体験をすることで視野が広がります。「百聞は一見に如かず」と言われるように、地域の美味しい食事をいただき、観光しながら歴史を学び、物語を知ることで感動します。子どもたちに感動する機会を多く与えることが教育の大きな要素。つまり、教育と観光はつながっているのです。

―アフターコロナのインバウンドの需要をどう捉え、どのように準備すべきと考えていますか。

ワクチンが全世界に普及し、安心安全かつ比較的自由に行動できるようになり、治療の知見も増えてくれば人間はじっとしていられないものです。アンケートでは、多くの海外の方たちが新型コロナ収束後に訪れたい国として日本を挙げています。国内では早くワクチン接種を普及させ、訪日外国人にも感染対策をお願いしながら、安心安全に楽しめる国だとメディアを通じてアピールすることが大事です。早ければ2年くらいで観光客は戻るでしょう。

この国の変革をJANEに期待したい

―読者に向けて、JANEに参画する意義をお聞かせください。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は一般的になり、大企業や歴史ある企業にとっても避けて通れません。一番大事なのはトップの意識です。JANEにきっかけさえあれば入りたい企業もあるでしょうから、JANEとしてもイベントなどにさまざまな企業のトップやボードメンバーにお声掛けすることが大事だと思います。JANEにはオーナー企業が多く、創業者も多くいらっしゃいますから、大企業のトップから一言、社員たちに「JANEはおもしろそうだから勉強しろ。これからの世の中を感じて来い」と言って、送り出してほしい。JANEがさらに発展することは日本の将来にとって必要です。

―加盟企業としてJANEに期待することをお聞かせください。

JANE設立からおよそ十年が経ち、色々な努力もあって国に対する影響力も強くなってきています。みなさんや国にとって良いことをしっかり主張し、制度では追いつかない部分を変革することが大事です。

コロナ禍で、順調なときには見えなかったこの国に足りなかった部分が見えてきました。これを一つのきっかけとして進化させていく。「デジタル化」とは20年前から言われていましたが「この程度のこともできないのか」とみんな気づいた。このピンチをチャンスに生かすことをJANEには期待します。

企業の立場として言うならば、ITを活用した業務改革の必要性を頭で分かっていても、部長以上になるとメディアに疎い方も増えて、具体的な方法が分からず指示できないという会社はまだ多いのではないかと思います。JANEに加盟することで、部長以上や若い社員の方々がセミナー等に参加して刺激を受けることもあります。皆さんが一緒にJANEの中で育っていく形が良いと思います。

―最後に、野本幹事の夢についてお聞かせください。

私は元々、街づくりや開発に従事していました。渋谷ではまだ2~3つの大きなプロジェクトを計画していますし、新宿でも歌舞伎町の新宿TOKYU MILANO跡地に大きなタワーを建てています。一流ホテルとエンタテイメント施設としてのタワーで、2022年に完成予定です。

これは世界から一流の方々を招くことができる仕掛けを創ろうというアイデアから始まった計画です。海外の大物アーティストなど一流のVIPに、劇場でパフォーマンスしていただく。タワー内のエンタテイメント型レストランで食事しながら大画面でPV(パブリックビューイング)ができる。映画館も8スクリーンあり、PVできる。ホテルの部屋でも女子会しながら生配信を見る。ネット配信もする。ドームやホールを押さえる必要のない、新たなエンタテイメントの表現の仕方です。メディアを使った仕掛けは既に実証されているし、さらに進化していくでしょう。自分が楽しいと思うことをし続けたい。自分が「面白い」「楽しい」と思うかどうかが一番だと思います。そうしないと他の人は楽しめないですから。

【前編】はこちら

野本 弘文 幹事(東急株式会社 代表取締役会長)
1947年福岡県生まれ。1971年早稲田大学理工学部卒業後、東京急行電鉄(現:東急)に入社。2004年イッツ・コミュニケーションズ取締役社長、2008年東京急行電鉄専務取締役、2011年同社代表取締役社長、2018年同社代表取締役会長(現任)

東急株式会社は、2022年に創立100周年を迎えます。創業以来、鉄道を基盤としたまちづくりを中心に、事業を通じた社会課題の解決に取り組んでまいりました。現在においても、「美しい時代へ」というグループスローガンのもと、“サステナブル経営”を基本姿勢として事業を推進しています。

東急株式会社 https://www.tokyu.co.jp/index.html

文・撮影・編集/Finds JANE 編集チーム
「Finds JANE」は、理事・幹事、各界のリーダーや注目を集める人へのインタビューを通じて、政策提言活動などの取り組みや、未来の社会像、夢などを広く発信するブログメディアを目指し、新経済連盟(JANE)がお届けします。
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