コンピューターサイエンスは面白い!人が育ち活躍する土壌を日本全体で創るために必要なこととは

(左)株式会社Gunosy 最高データ責任者(CDO)/大曽根 圭輔さん
(中央左)新経済連盟(JANE)幹事/竹谷 祐哉(株式会社Gunosy 代表取締役 最高経営責任者)
(中央右)経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐/沼尻 祐未さん
(右)株式会社Gunosy 共同責任者 Gunosy Tech Lab R&Dチーム上席研究員/関 喜史さん

「AIを導入すると実際にはどんな可能性があるのだろう」、「AIの最新のトレンドを知りたい」、「AIビジネスを実装したいけれどハードルがよく分からない」、職場でもそんな声がよくあるのではないでしょうか。
ビジネスにAIをいち早く取り入れ実装している竹谷 祐哉 幹事(株式会社Gunosy CEO)と大曽根 圭輔さん(株式会社Gunosy CDO)より、AIビジネスにおける日本の立ち位置やAI活用について同社事例を踏まえた成功と課題、AI人材育成への取り組みなど実業面で講演いただきました。また、沼尻 祐未さん(経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐)よりリアルデータ領域でのAI活用など業界の最新動向や規制の在り方の変化などについてお話いただくとともに、AIビジネスの発展を阻害する規制や諸外国と日本を比較して見えてくる課題について民間と行政の垣根を越えて語り合いました。ディスカッションには株式会社Gunosy創設者の一人の関 喜史さん(上席研究員、共同創業者)も加わり、セッションが深まりました。 ※この記事は、2019年11月28日、NEST NEXT #2「AIビジネスのビッグインパクトと実装」と題したイベントのディスカッションパートを元に編集しています。

規模があるのか、使用目的に対する明確な意思があるのかを見極める

JANE(松尾):AIの技術は持っているけど、マネタイズはなかなか難しい」と聞くことがあります。経営者の観点でAIのマネタイズについてどのようにお考えですか。

竹谷:まず、規模が無いとAIの導入はあまり意味がないと思います。膨大なデータ(Gunosyの場合、アプリDL累計5,000万以上の人が見ている)が集まってはじめてAIの活躍を感じていますね。こうしたサービスで収益が4~5%改善したら、ビジネスメリットにつながると考えられるので、まずは圧倒的に規模が出ることに対して導入していくことが重要だと思います。

一方、海外事例を見ていると規模はかなり少ないけれど、AIを導入することによってコスト削減や作業改善につながるということはあるようです(例えば、古紙回収ボックスにセンサーがあり、古紙の量をデータで管理して一定量古紙が集積された瞬間に業者が回収に出るという流れになりコスト削減につながったという例)。データ量は多くないけれど、質が良いデータ且つ利用用途が明確であればAI導入の意味があると思います。

規模があるのか目的に対して明確な意思があるのかが重要なことだと思っています。

コンピューターサイエンスの高まる人気と学べる環境の数のギャップ、AI人材の育成・獲得に向けて何ができるか?

JANE(松尾): 日本は諸外国に比べてAI人材が多くありません。AI人材の育成・獲得について、日本としてどのように対応していくのでしょうか。

沼尻:政府では未踏事業(IT人材発掘・育成等)を10年以上取り組み、ここ数年でようやくAI人材不足が叫ばれるようになってきたと感じており、追加措置の必要性が認識されつつあります。 AIは座学で学ぶことに限界があると思っています。なぜなら、教材として最先端の技術を使うため、めまぐるしい勢いで変わり続ける技術に教師の技術力も追いつかないことも悩ましい課題だと認識しているからです。

そこで参考にしたのがフランスの事例。42(forty-two)というフランスのプログラミングスクールの教育が良い例として各国で注目を浴びています。42には教師はいません。学生同士でお互いに教え合うという環境をつくっています。技術を持っている人がお互いに教え合い、プログラミングのプロジェクトやゲーミフィケーションをとおして高め合っていくというものです。

日本はフランスだけではなく米国など他国のいい事例からいいところを取って、日本発の課題解決型AI人材育成事業「AI Quest」を始めました。AI Questでは、企業から持ち込まれる実課題とデータ等をベースとした教材やカリキュラムの作成などを行っており、生徒たちは解きながらお互いに教え合っています。

関:「 グノシー」もかつては未踏事業のプロジェクトとして、色々とご支援いただきました。世界に目を向けると、米国や中国はコンピューターサイエンスを専攻している人材が増え続けているのに、日本は増えていない状況にあります。それは、コンピューターサイエンスを学科として持つ大学や定員が増えないということが大きな原因の一つだと見ています。一方、入試倍率を見ると限られた数しか席はないのに、人気が上がっているから倍率は非常に高くなっていることが分かります。

限られた数ではあっても日本のコンピューターサイエンスの教育の質や人の関心も上昇傾向にあることは非常に良いことと捉えていますが、それ以外の人の方が多いので、今後はそういった層に対してどうするのかを考えないといけないと思います。

高校生の頃に文系なのか理系なのかと分かれて、文系を選択した人はなんとなく数字が苦手、数学が嫌いという状態になりがちなのも原因の一つだと思います。Gunosyでは、インターンとして文系の学生にもプログラミングに触れる機会を創っていて、数学と離れたところで数字を使ってみて面白さに気づく学生もいるようで意外と楽しんでいる様子が見られます。 データや数字に対する苦手意識を持っている人たちに対して、数学とは離れた部分で面白さを伝えられるようになるとAIやデジタルについてもどんどん面白いと関心を持ってもらえるのではと期待しながら寄附講座等にも取り組んでいます。

竹谷:コンピューターサイエンスがもっと人気になってほしいですね。そういう意味でGunosyも寄附講座等を実施していますし、日本全体として、人が育つ土壌を作る必要があると思います。
これから、新経済連盟のプロジェクトとしてAIプロジェクトを進めさせてもらいますが、国と民間が密接に連携しながら日本の産業として守っていくというような方向性でプロジェクトを推進し、日本の企業がビジネスをしやすい政策提言に尽力していきますので、実課題等をどんどん挙げていただきたいなと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

登壇者

株式会社Gunosy
情報キュレーションアプリ「グノシー」を中心としたメディア開発・運営を手掛けるGunosy。「情報を世界中の人に最適に届ける」を企業理念に掲げ、AIビジネスで成長してきた。現在は、自社サービスで培った知見を活かし、大学等でAI人材の育成にも精力的に取り組んでいる。
https://gunosy.co.jp/

竹谷 祐哉 幹事
グリー株式会社を経てGunosyに参画。2013年8月取締役最高執行責任者(CEO)、2016年8月より代表取締役最高執行責任者を経て、2018年8月より代表取締役 最高経営責任者に就任。2020年から新経済連盟の幹事としてAIプロジェクトチームを統括する。

大曽根 圭輔さん
取締役 最高データ責任者(CDO)で「グノシー」事業責任者も兼任。筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。株式会社サイバードにてデータ分析部門立ち上げ等を担当後、Gunosyへ入社。2018年9月より執行役員メディア事業本部、「グノシー」 事業担当。2019年7月より、最高データ責任者(CDO)兼任。2019年8月より取締役に就任。

関 喜史さん
Gunosy 共同創業者。Gunosy Tech Lab R&Dチーム 上席研究員(SR)。東京大学大学院 工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。大学在籍中にGunosy(グノシー)を共同開発し、2012年に創業。創業期からニュース配信ロジックの開発を担当。現在は研究開発に従事し、推薦システムを中心としたウェブマイニング、機械学習応用、自然言語処理応用を専門とする。

経済産業省 沼尻 祐未さん
商務情報政策局 情報経済課 課長補佐。商務情報政策局ではデータ政策全般を統括している。スタートアップの支援や既存の企業の中でのAI普及、AI人材の育成の推進に向けて環境整備に日々奔走する。

文・撮影・編集/Finds JANE 編集チーム
「Finds JANE」は、理事・幹事、各界のリーダーや注目を集める人へのインタビューを通じて、政策提言活動などの取り組みや、未来の社会像、夢などを広く発信するブログメディアを目指し、新経済連盟(JANE)がお届けします。
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