イー・ガーディアン/高谷康久「誰にも社長になるチャンスはある。より良い日本の未来を作るために。」

「We Guard All すべてのインターネット利用者に、安心・安全を提供します」を理念に、投稿監視・カスタマーサポート・デバッグ・サイバーセキュリティなどの業務を一気通貫で担う、総合ネットセキュリティ企業のイー・ガーディアン株式会社。加速度的に拡大するインターネットの世界で、2005年の創業以来、安心・安全を守っています。

そこで、同社の代表取締役社長を務める高谷康久氏に、経営者として大切にされていることや、数々の失敗を重ねた結果にたどり着いた高谷流経営術ができるまでの人生のあゆみが詰め込まれた著書『就活やる気ゼロだった僕でも、上場企業の社長になれた』(2021年12月ご出版)について話を伺いました。高谷氏は、JANEの監査役でもあります。併せて、JANEや経営者として成し遂げたいことについても話をお聞かせいただきました。

取材日:2022年2月15日
※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称
▼新経済連盟 https://jane.or.jp/

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インタビューハイライト動画

12年間のサラリーマン、紆余曲折を経て社長に就任

――高谷監査役のこれまでのご経歴を教えてください。

私は大学を卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に入社しました。営業職に配属され、仕事をするなかで学んだのはJ&Jの理念経営。「我が信条」という「顧客に対する責任」「社員に対する責任」「地域社会に対する責任」「株主に対する責任」の4つの項目からなる理念には刺激を受けており、現在の経営にも取り入れています。

入社から2年が経つと、この仕事は本当に自分のやりたいことなのかと悩むようになり、就職活動のやり直しを始めました。そこで出会ったのが、京セラの創業者である稲盛和夫さんの書籍です。

人生を豊かにする仕事をしなさいという考え方や、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という方程式に心底惚れて、私は京セラに転職。1995年当時は、まだ転職が当たり前の時代ではなかった頃です。

それから10年、私は稲盛さんの経営哲学を盛り込んだ「京セラフィロソフィ」に一途な“熱血サラリーマン生活”を送りました。1999年には突然現れた巨大なインターネットのマーケットに業界全体が高揚していたのを覚えています。

しかし、さまざまなコンテンツが世に出ていく一方で、犯罪にならないよう監視する必要のある出会い系サイトなどの問題もありました。そのような中で出会ったのが、出会い系サイトと投稿監視を両立されていたコンテンツプロバイダーの株式会社ホットポットです。

その後、個人のキャリアとしては紆余曲折ありましたが、2005年に株式会社ホットポットの投稿監視部門を独立させる形でイー・ガーディアン株式会社を創業し、私は社長に就任しました。

当初はサイト内の投稿監視から事業をスタートし、現在はインターネットの“ガーディアン(護り人)”として、ゲームや広告、SNS、EC等の投稿監視・カスタマーサポート・デバッグ・サイバーセキュリティなどを一気通貫で担っています。

社長になるチャンスは誰もが持っている

――高谷監査役が経営をする上で大切にしていることを教えてください。

まず、社員を家族のように愛すること、会社が大きくなったいま、私がとても大事にしていることです。真剣に仕事に臨んでいるからこそ、熱さから言葉が激しくなったりする瞬間を経験したことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、そんな時でも愛情を持って厳しいことを言うようにしています。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけれど、気の持ちようは大事なことだと思っています。社員を息子や娘のように、兄弟のように、親戚のように思っているということも、時には指導する時に社員に直接言葉にして伝えるようにしています。そのくらい、「言葉」を大事に思っています。

私は経営とは何か分からないまま社長になりました。J&Jと京セラで12年間働きましたが、どちらも社長と直接話をする機会がなかったためです。

だから最初は、経営の神様である稲盛さんの経営システムをそのまま取り入れたら、うまくいくだろうと思っていたんですね。でも、全くうまくいかなかった。なぜなら、イー・ガーディアンは京セラではないから。京セラの教育を受けて育った人が集まっているわけではないので、通用しなかったんです。

この失敗から気づいたのは、経営に大事なことが100あるとしても、ベーシックな10だけやればいいということ。ベーシックな10だけをやるうちに、その会社ならではのことが積み重なってその会社らしさが出てくるのだと分かりました。

それに、経営は特殊なものだと考えていましたが、そうではないことにも気づきました。人は誰しもが自分をマネジメントして生きていますよね。朝起きて顔を洗って服を選んで出かける、日常の中には時間の遣い方も含めて多くの選択・決断することがあって、1日のあらゆることをマネジメントしています。

“家庭”はもっと企業経営に似ているとも思います。経営はそれと同じで、ただマネジメントする人が増えただけ。家計をやりくりするのも企業経理と基本は実は同じことでしょう。それに気づいてからは、社員には誰でも社長になれると伝えています。

KANSAI SUMMIT 2017 の様子

――それを伝えたくて、著書『就活やる気ゼロだった僕でも、上場企業の社長になれた』を出版されたのでしょうか?

私の失敗談や泥沼から這い上がった話、悩みに悩んで占いに頼っていた話など、とても世の中にさらしたいものではなかったのですが(笑)、この話を読めば社長は雲の上の存在ではなく、誰にでもチャンスがあると伝えられると思いました。

私は泥沼から這い上がったと言いましたが、まだまだ世の中には自分よりも頑張っている方が沢山います。そんなときに頑張れたのは、自分よりももっと大変に思える境遇にいる人が頑張っている姿を身近で目の当たりにしたからです。自分がいかに頑張れていなかったのかということが痛い程によく分かりました。詳しくは、本にも書いています。(笑)

今は副業も認められていたり、チャレンジの仕方も多様になっていたりするので、いろいろ試して可能性を見出す人が増えてほしいです。

私にはプログラミングのスキルがあったわけでも、何か良いアイデアがあったわけでもありません。むしろ、次にこれが流行るだろうという私の読みは、ことごとく外れてきました。

それでも諦めずに踏ん張ったことで、2010年にはマザーズ上場、2016年には東証一部に市場変更させて今に至ります。社長の椅子は、限られた人だけに与えられたチャンスではないということを広めたいです。

日本の未来を作るため、一つ一つ積み重ねる

――JANEに加盟したきっかけを教えてください。

きっかけは、JANEは従来の経済団体とは違って若い経営者が多く、イー・ガーディアンのお客様がたくさん顔を並べていたことも大きいですね。教育はこう変えるべき、日本の未来はこうあるべきといった話とともに具体的な提案が飛び交っており、自分の視座を高めるためにも加盟すべきだと思いました。

――印象に残っている活動があれば教えてください。

JANEとして初めての海外視察です。フィンランドやエストニアを視察したのですが、一緒に行っていた三木谷さんが、フィンランドで開催された世界最大級の起業家イベント『Slush(スラッシュ)』でアジア代表として壇上に上がり、堂々とプレゼンをされていたんです。三木谷さんのご活躍を目の当たりにして、とても刺激を受けました。

また、世界最先端の電子立国であるエストニアの現状にも驚きました。ほぼすべての公的サービスがデジタル化されており、個人は一つのIDカードでほぼすべてのサービスを受けることができます。日本でも進めようとしている医療機関の電子カルテも導入済みで、どの病院に行ってもカルテがシェアされていました。

日本からすれば2歩も3歩も先を進んだものですが、それらをすでに実現・浸透させている国があることに危機感を覚えましたね。

JANEの提言にもこうした諸外国の事例を盛り込み活動していますが、日本は印鑑をなくすことだけでも大変で、キャッシュレス化もなかなか進みません。ただ、スマホが一気に浸透したように、何かのきっかけで一気に変わると思うので、一つ一つ積み重ねていく必要があると感じています。

参考:https://jane.or.jp/proposal/notice/4063.html

2014年11月新経済連盟「みらいの視察団」としてフィンランド・エストニア・ベラルーシに出張した際の様子(左から、代表理事 三木谷、イベルス元エストニア大統領、顧問 平井、監査役 高谷)

――日本の現状を変えるためにJANEがやるべきことは何でしょうか。

JANEは、コロナ禍で職域接種を提言し、いち早く取り組みをスタートさせました。グローバルスタンダードを見て日本は何をすべきか、スピーディーに判断できる団体なので、影響力は大きいと思っています。

世の中から見たら、新しいベンチャーの集団だと思われがちですが、最近は大企業の加盟も相次いでいます。活動の目的に賛同される法人であれば規模を問わず門戸を開いているからこそ、様々な新産業の現場を踏まえた提言ができるのです。従来の経済団体では提言できないことでも、JANEならできると認められるようになったのは大きな成果ではないでしょうか。

――大企業が加盟するようになったのは、どんな背景があるのでしょうか?

世代交代だと思います。大企業の経営者が新しい世代に変わり、グローバルスタンダードを見て新しい価値を創出しようと考えたとき、JANEの考えが近いのだと思います。企業の若返りと共に、時代は動き始めていますよ。

2017年8月、JANEが大阪イノベーションハブとコラボして開催したセミナーの第四弾 「OIH X 新経連オープンセミナー」の様子

会社を成長させる後継者を多く育成したい

――JANEの活動の中で感じる「難しさ」はありますか?

フィンテックやシェアリングエコノミーの推進、教育改革などさまざまなテーマを掲げたプロジェクトチーム等がありますが、より多くの分野で提言活動を行うためにはIT以外の知見やアドバイスも必要だと感じることがあります。最近では、重工業系などIT以外の業種の企業も増えていますが、もっとさまざまな業界から参加してもらい、色々な発想でプロジェクトチームやワーキンググループを発足したいです。

たとえば、メーカーの現場で起きている問題や、外国人雇用の問題、農業の問題など、今取り組んでいる問題だけでなく、小さくてもあらゆる問題を吸い上げて、課題解決に取り組みたいと思っています。

――今後の高谷監査役の夢や成し遂げたいことを教えてください。

JANEでは、加盟されている会社とのリアルの交流を早く復活させたいですね。コロナ禍で交流はオンラインになりましたが、やはりリアルの方が議論は活発になります。積極的にコミュニケーションを取り、抱えている課題や問題、やりたいことを汲み上げられる場を作りたいと思っています。

GDPの成長率を見ても日本は成長していませんし、少子化が進む一方で外国人雇用もうまくいかない現状があります。若い世代ほど、日本の未来に対して危機感があるはずなので、世界中の人が日本で働きたい、生活をしたいと思ってもらえるようなオープンな国にしたいと思っています。

そして経営者として成し遂げたいのは、会社を成長させられる後継者を育成すること。経営者として成長する事業を残すのは大切ですが、素晴らしい後継者を育成することはもっと重要です。

いつまでも「イー・ガーディアンは高谷が経営している会社」であり続けるのではなく、誰が経営しているか分からなくても、グローバルに展開して素晴らしい事業をしている会社だと言われるようになりたいです。

もちろん有名な経営者の企業は目立ちますし、会社と社長がセットになっているケースはたくさんあります。だけど、50年後、100年後を考えたら「社長になりたい」もしくは「社長になれる」と思う人を増やして、世代交代を続けられる会社になる必要があると思うんです。

私が社長になれたのだから、誰にでも可能性はあります。特に、世の中を見ても大企業の子会社社長は不足しています。起業するにはハードルが高いと感じる人は、起業よりもリスクの低い子会社社長に挑戦するというのはどうでしょう。こうしたアントレプレナーシップを持った人を増やすことで、日本の活力の底上げに寄与したいと思っています。

監査役 高谷康久(たかたに やすひさ)
イー・ガーディアン株式会社 代表取締役社長


1993年 関西学院大学法学部卒業、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社に入社。95年 稲盛和夫氏に憧れ、京セラ株式会社に入社、情報システム部門にてシステムインテグレーションの事業に従事。その後、KDDIと共同設立したデータセンターの企画営業や、コンテンツプロバイダーへの投資事業にも携わる。2005年 株式会社ホットポット(現:イー・ガーディアン株式会社)の事業再編に伴い、同社の株式譲渡を受け、当社入社。代表取締役社長に就任し、投稿監視事業を立ち上げる。以後、カスタマーサポート・デバッグ・サイバーセキュリティなどへと事業領域を拡大し、現在に至る。

イー・ガーディアン株式会社 https://www.e-guardian.co.jp/

文・編集/ フリーランス編集者 田村朋美
2000年に新卒で雪印乳業に入社。その後、広告代理店を経て個人事業主として独立。2016年にNewsPicksに入社。BrandDesignチームの編集者を経て、現在は再びフリーランスのライター・編集として活動中。スタートアップから大企業まで、ブランディング広告やビジネス記事を得意とする。

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