ヒト・モノ・カネ・情報の新しい回し方 -みんなでつくる財団おかやま-

ヒト・モノ・カネ・情報の新しい回し方
-みんなでつくる財団おかやま-
☆今回のキーパーソン
岡山県倉敷市出身。H12年岡山県庁入庁。特に公共工事のIT化に関わり、入札情報の公開や、成果物データベースの構築による情報の有効活用(CALS/EC)を進めるなど建設マネジメントを中心に取り組む。H24年3月岡山県庁を退職、5月に特定非営利活動法人岡山NPOセンター入職。平成24年9月、一般財団法人みんなでつくる財団おかやまを市民530名の寄付により設立し、現職。(平成26年8月1日に公益認定)
◇取材協力: 株式会社 NICS (本社:岡山県)
①県庁職員として感じた新たな仕組みの必要性
――― 岡山県庁時代に持っていた問題意識とは
私がもったいないと思っていたのは、例えば、役所のAさんはとても熱心に地域のことを考えて仕事をしている、市民のBさんも地域のことを熱心に考えてくれている、しかしAさんとBさんの意思疎通がうまくいかない、そういう状況です。Aさんは地域住民の方にもっと理解してほしいと思っているし、Bさんは行政の人にもっとこうしてほしいと不満を持っている。AさんはBさんがなぜそういうことを求めているのかという事情を知らないし、Bさんは行政の制度を知らない、しかし知らないのは行政が伝えていないから知らない…。

根っこの目的が同じなら手段を議論すればいいのに、目的の共有が行われないまま、お互いのことを知らないために齟齬が起きていると感じていました。これは大きなエネルギーロスです。お互いを攻撃するよりも、100のうち50が同じならなぜ50だけ一緒にやろうかとならないのか。私から見れば100のうち80が同じだとしても、コミュニケーションがうまくいかないために80が同じあることにも気づかない。そういうところに問題を感じていました。
 石田篤史 代表理事

――― 住民との対話を増やすために取り組んだことは
私は土木技術者だったのですが、岡山県のホームページでは随意契約以外の公共事業については、図面も含めて入札にかかわる情報はすべて公開しています。県レベルで図面もすべて公開したのは岡山県が最初になります。私は行政の情報をもっと出すべきだと思っていましたし、それが対話の土壌を創ると考えていました。
今でこそハザードマップや危険個所地域が公表されるようになりましたが、私が県庁に入った平成12年当時は、比較的安全と言われる岡山県でも地形的に土砂災害が起きる可能性がある箇所が1万2千カ所ぐらいありました。当時はそういう情報が、隠していたわけではありませんが、地域の人には見えづらかった。行政としては、専門的な目で見るとすぐに崩れるわけではないとしても、もし自分の地域に崩れそうなところがあると知ったらいたずらに不安にさせてしまうという配慮がありました。当時の住民側の選択肢としても、その情報が得られても災害防止の施設を作ってほしいと要望するしかなかった。しかし1万2千か所すべてに施設を作るというのは非現実的です。

現在ではいくつかの震災を経て意識が変わり、まずは逃げる・命を守ることが大切だということで、ハザードマップを公開するというマインドが行政・住民お互いに育ってきました。そういうバランスのとれた対話ができる以前には、お互いに情報を閉鎖し合っていたと思います。
――― 行政と住民の溝を埋めることが必要性を感じた?
溝を埋めるというよりは、そもそも得意とするところが違うのだから、足りない仕組みを作ろうということです。行政は広く多くの人に必要なことには税金の投入もしやすいけれど、特定のことについては難しい。困っている個人を支援しようというのは、よほどの理由がないとできません。社会的認知度が高くなければ税金は使うことは難しい。
しかし個人や企業がある活動をやりたい、支援したいと思えば、もちろん企業の場合はそれが利益を生むかどうかは大事ですが、その思いに従って行動することができます。

たとえば、DV(ドメスティック・バイオレンス)といえば今はもう皆が知っていますが、私が社会人になった当時はDVといっても行政職員でもほとんど知りませんでした。平成13年にDV防止法ができてやっと知られるようになったと思います。昔は夫婦喧嘩じゃないか、痴話喧嘩じゃないかと言われていたようなことをおかしいと思った人がいて、被害に合っている人をかくまったり、シェルターという施設が出来たりしました。そこから社会的認知が高まってDV法ができ、各県に相談窓口ができた。広く制度や文化にしていくには法律が必要になるかもしれませんが、最初にこれはおかしい、何とかしようというのはまずは個人の思いや行動だと思います。

現実には地域の住民全てが喜ぶサービスなんてありえないのかもしれませんが、行政はそれを想定して制度づくりをしなければいけません。昔はそれがやりやすかったと思います。100年ちょっと前まで、この国の社会的な課題は生きていけるか・食べていけるかしかなかった。豊かになり、色々な選択ができるようになって色々な価値感が生まれ、起きる問題もさまざまになっています。その中で本当は行政機能も変わっていかなければいけないし、行政とは違う機能を果たす仕組みが必要になっていると思います。

②「みんつく」設立の経緯と決意
―――「みんつく(みんなでつくる財団おかやま)」にはモデルがあった?
「みんつく」は、地域社会への貢献のために個人や企業などから寄附を募って運営する「コミュニティ財団」です。欧米では100年前からある仕組みでよく知られていますが、私が「みんつく」を始めるときには全くそういったことは知らずにやっていました。
最初に参考にしたのは、「京都地域創造基金」で、2009年に設立されています。NPO支援のために作られた、市民によるコミュニティ財団の最初と言われています。もっと古いものでは「大阪コミュニティ財団」があって、1990年代に商工会議所や大阪府・大阪市が資金を出して作られています。
財団にはいくつかパターンがあって、企業がフィランソロピーとして作ったり、資産家など個人が作るプライベート財団だったり、行政が設置するパターンもあると思います。コミュニティ財団は、地域のこの課題を解決したいという目的に対して不特定多数の人がお金を出すものになります。
――― 当初からリーダーシップを取った?
岡山で地域の資金循環の仕組みづくりの勉強会があり、最初はそのいち参加者でした。その勉強会で市民ファンドが必要ということで盛り上がっていて、当時はクラウドファンディングという言葉は知りませんでしたが、個人の意思を形にできる仕組みはとてもいいなと思っていました。
個人が関心のあること・問題意識を持っていることに対して、時間はなかなか使えないけれどお金なら出せるという人たちのための仕組みができたらと。いかに実感値を高められるか、当事者性を持てるかが人生を豊かにすると思っていて、そこにとても関心がありました。ですから、コミュニティ財団にとって重要なのは「NPO・寄付者・地域社会」の3つだと言われますが、初めのころは「寄付者のためのもの」という意識が強くありました。今までの寄付とは違う寄付ができる、できるようにしなければいけないと。
そこで最初は財団設立の手伝いをすると申し出ました。ただ、実際に計画を立てていく中で、誰かが責任を持ちますと言わなければいけない、顔が見えないといけないと思うようになりました。そこで代表になるかはともかく、自分が中心的にやろう、責任を持とうと。やるからには仕組みを作るだけでも3年はそれに集中してやらなければいけないと思いましたので、平成24年の3月に県庁をやめました。
最初は「岡山NPOセンター」というNPOの支援組織に在籍させてもらって準備を進めましたが、スタッフの余裕があるわけではなく、多くのことは一人で進めなくてはいけませんでした。ただ、ありがたいことに岡山NPOセンターはじめ応援してくれる仲間はたくさんいました。

最初の2か月は中心となる人たちに呼びかけ人になってほしいというお願いをして県内を回り、次は財団設立の元手となるお金集めに走り回りました。私が財団の代表になると決まったのはその頃です。ここまで私が表に出てやってきて、じゃあ後はお願いします、というわけにはいかないと。誰かが旗を振らないといけないということは、私自身が強く感じていました。

これは、深く考えていたらできなかったと思います。もともと行政職員として事業計画や建設マネージメントが専門でしたので、どういう仕組みで回せばいいかという設計図は自分なりに描いてはいましたが、どうやって経営を回すかというお金の計算をしていたらできていなかったかもしれません。走り出してから、あれ、これは大変だなと。

――― 「みんつく」の役割・機能とは
よく言っているのは、世の中をうまく回すには1万のサービスが必要で、私たちはそのうち1しか担えないけれど、その1を担うことで残りの9999が活発になるということです。たとえば銀行では融資できる事業かどうかわからなかったもの、事業計画の段階では机の上の話だったものが、小さくても「みんつく」のクラウドファンディングを使って事業を実現することで、次は銀行の融資につながる、というイメージ。エネルギーは燃やしているけれど不完全燃焼になっている人がいるとしたら、1万のうちの1を私たちがつなぐことでもっと燃やせる、回すことができると思っています。
地域のハブになって対話を増やし、意思疎通ができるようする。その前提として今あらためて強く感じているのは、「みんつく」は個人の夢を叶える、個の力や思いを尊重するということです。
Aさん、Bさん、Cさんが良いと思うことは今の時代はそれぞれに違います。それぞれの良心や正義があります。これはぜったい許せないという深い部分は議論を戦わる必要があるかもしれませんが、そうでないことについて誰のどこが悪いと争っているのはもったいない。それよりも、自分と同じ考えの人を集めて、まず形にしてしまうほうがいい。そうやって形にして初めて良い議論ができると思います。
先程のDVの例で言うと、日本で最初に民間のシェルターが出来てからDV法ができるまで15年から20年かかっている。しかし今の時代に新しいサービスを作るのに15年もかけていたら間に合いません。署名運動をして行政に訴えてという前に自分たちでタネを試してしまい、それが上手くいったら制度にすればいい。それなら3年、5年でできます。
だからまずはひとりひとりの思いや良心を応援すること、あなたにもできますという気づきと機会の提供をするこ。それが私たちの重要な役割だと思っています。
③「みんつく」事業の3本柱:「割り勘」「冠基金」「地域円卓会議」とは
―――①「割り勘」の仕組みとは?
私たちが「割り勘」と呼んでいる「『割り勘で夢をかなえよう!』事業指定助成プログラム」は、寄付型のクラウドファンディングです。こういうことをやりたいという人が手を挙げて、その共感者を集めるのが私たちの仕事です。年に2回、寄付を募る期間を設けますが相談は常時行なっています。

「割り勘」の仕組みを使った事業の例としては、「『橋守(はしもり)』サポーター養成事業」があります。
地方では橋梁の老朽化が問題になっていますが、掃除をするとか、日常的なメンテナンスで長持ちさせることができます。そこでOBの技術者で組織化したNPOが中心となって、大きな橋については行政がやるとしても、住民が日常的に使っている橋については地域の人たちで関心をもち、簡単な点検・清掃ができるように人材を育成しようという事業です。
行政としては、たとえばある橋の奥にひとりしか住んでいないという場合、その橋が老朽化し壊れた時に、費用対効果を考えると他のルートもあるなら直さない、という結論になってしまうこともあると思います。
もっと地域の力で守るような制度をという議論も以前からあり、維持補修が重要と言われながら、なかなか形になることはありませんでした。それよりも形を作ったほうが早いということで「割り勘」を使ってこの事業を応援しました。そうやってタネを早く形にすることで、もっとこうしたほうがいい、ほかのやり方があるという議論ができます。

人には色々な価値観があって、例えば子どもの福祉と高齢者の福祉のどちらが大事かと言っても究極的には決められません。子どもの福祉が大事だと思う人はそれに取り組めばいいし、高齢者のほうが大事だと思う人はそちらを選べばいい。それに税金を投下するとなると合意が必要ですが、地域でそのサービスを作るのに最初から行政が関わる必要はなく、まずは形にしましょうということを応援しています。
橋守サポーターの事業はメディアにも取り上げられ、広く知っていただきました。地域のインフラを自分たちで守っていく良い学びになるということで高校の授業にも取り入れてもらい、自治体も人材育成の手段として捉えています。
そして「割り勘」で寄付した人は、始まってから3年の間にテレビなどで特集され、橋守の制度が一般化していくのを見ています。1,000円での寄付でも自分が寄付したからあの事業は始まったんだという実感を持ってもらえる。それが重要なことだと思います。

―――②「冠基金」とは?
「冠基金」は、思いを持った個人や企業の寄付で基金を立てる原資ありきの仕組みです(みんなの貯金箱をもとう!みんつく冠基金事業)。たとえば、今回18歳選挙が始まりましたが、岡山でもぜひ若者にデモクラシック・ラーニング(主権者教育)をやってほしいという思いがあり、お金を出したいという個人の方がいらっしゃいました。そこでそれに足る品質の事業ができる団体として、代表が岡山出身ということもあって以前から事業を一緒にやっていた「YouthCreate(ユースクリエイト)」というNPOをつなぎ、今年の4月から岡山大学の通年授業として実現しました。2月に大学にお願いに行きましたので、実現は後期の授業からになると思っていましたが、4月からやらせていただけることになりました。こういう判断をいただけたのも、「みんつく」がこの3年間いろいろな関係構築してきた成果だと思っています。

今回はスピードが必要だったこと、また寄付者の意思が明確でしたので、基金ではなく寄付として団体との直接のやり取りになりましたが「冠基金」はこういったイメージの事業です。企業の場合には、たとえば地元の酒造会社が水環境を守るための基金を立て、水を守る活動をしているNPOを私たちが公募し、助成するというイメージです。これは地域のための活動でもあり、自社の製品に返ってくる活動でもあり、企業のブランディングにもなります。場合によっては連携先としてのNPOも見つかります。
―――「冠基金」の場合、実施団体の選定はどのように?
基本的には公募ですが、基金のテーマによっては実施団体の手が挙がらない場合もあります。
これは私たちの広報力の問題でもあって、たとえば岡山市内であればこれまで培ったものがあるので様々なルートを使って情報が届けられますが、県北の中山間地には情報が届かないことがある。これは私たちの次の課題です。
そこで今、「地域調査員」を置くことを進めています。情報を拡散してもらったり、「うちの地域でやるなら、もっとこういうテーマのほうが手が挙がりやすいよ」という情報をもらう仕組みづくりです。
潜在的に助成先となりうる団体はあるのに、今は単純に私たちの組織としての機能が充分でなく、まだ細い道なのでたくさんの人が通れない。それが課題だと思っています。
また方法としては、「一本釣り」的に団体に声をかけるというやり方もあります。そういう過程もできるだけシンプルにしたいと思っているので、まずは寄付してくれた方の思いを尊重し、合意します。そのうえである団体に対して助成することを理事会で、つまり組織内で決めるというやり方です。
この点は、私たちが公益法人として県から公益認定を受けるために少し説明が必要になった部分でもあります。しかし私たちが何のためにいるのかと言えば、目利きをするためにいる。目利きができなかったらお金も集まりません。情報を集め、寄付者の信頼を担保することが私たちの役割です。公募にかけて団体を選定する場合でもそれは変わりません。この部分については丁寧に説明しました。
それから、今は助成先はNPOなどの団体ですが、株式会社でもいいのではないかという議論は以前からあります。
目的のためなら、株式会社による新しいサービスの提供でも対象になりうると思っています。これは私たちの組織がもっと大きくなったときの、次のステージでのルール設定になると思っています。今の段階では全てを私たちがやる必要はないので、ビジネスを生んだほうがいいというケースの場合には、お金を出したいという方に県の産業振興財団などに寄付をしてもらい、そこから助成してもらうという方法もあります。
岡山でどうすれば新しいチャレンジが生まれ、育てられるかということが大事だと思っています。

―――③「地域円卓会議」の役割は?
3本柱の三つ目、「みんなとやればできるはず!地域円卓会議」は、情報や知恵の交換の場です。人・お金・もの・情報をどうやってつなげ、回すのかが私たちにとっては重要なことなので、こういった仕組みを設けました。
この会議はテーマありきで、不定期で開催しています。自治体や企業がテーマを提案したり、こちらから、たとえば子ども貧困問題についてやりませんかと行政側に提案することもあります。当初はこちらからの提案が多かったのですが、今は依頼のほうが多くなっています。
初めは情報交換の場はこの円卓会議で足りると思っていましたが、2年目からは毎月19日に「SHARE会議」という場を設けています。これは個人や団体の事業のタネをみんなで育てる場です。
④「SHARE会議」でタネを育てる
――― なぜ「SHARE会議」が必要だったのか
「割り勘」というお金集めの仕組みについて、私たちが趣旨をうまく伝えきれていなかったせいもあって、初めの頃はとにかく色々な段階の、色々なアイデアが集まってきました。相談にくる方は、事業をやりたいけれどとにかくお金が足りないと思っています。しかしよく聞いてみると、使い道が決まっていなかったり、そもそも計画がなかったりしました。
その場合、まずはお金ではなく組織運営の問題だからボランティアを集めましょうといったアドバイスをしますが、私ひとりが相談にのるというやり方は効果的ではありませんでした。思いが強い方ほど、1時間2時間と話をしてそのときはなるほどそうですよねと言って帰られますが、次に来たときにはまた同じ話になってしまう。
そこで気づきを提供する場として、「SHARE会議」を始めました。やり方は、記者会見のようにまず発表者が発表して、それに記者のように参加者が質問をする形にしています。記者役の参加者にお願いしているのは、攻撃的な質問だと自信を失くしてしまうので、疑問を投げかけるようにしてほしいということです。その中で、ここを詰めなければ先に進めませんよねと私が言っていたことに対して色々な人から同じ指摘が出たとする。そうすると、結局第3者を巻き込むためにはその問題を解決しないと前に進めない、ということに本人が気づくことになります。指摘されることがバラバラなときには、まだ計画が煮詰まっていないということです。そういうときには、会議の後半は計画を詰めるための時間にしています。
このやり方は事業の発展度が全く違う。ここで関わってくれた人が「面倒を見ちゃる!」という気にもなって、その後の仲間にもなってくれます。

―――「SHARE会議」でどんなタネが生まれているか
例えば、大学生による子どもたちの居場所づくりの事業があります。
最近「子ども食堂」がメディアでも取り上げられますが、放課後にひとりで過ごしている子どもたちが、事件に巻き込まれたり孤独になったりしないように、学校と連携し、大学生のお兄さんお姉さんたちとごはんを食べたり勉強したりして、自宅まで送り届けるという事業です。

最初は、倉敷にある川崎医療福祉大学の男子学生ふたりがこの事業をやりたいと相談に来ました。平成26年の10月です。大学の実習で全国的に有名な京都の団体の活動を見て、自分たちもやりたいという強い思いを持ったようでした。そこで、じゃあどうやって実現していくのか考えてみようということでまずは彼らなりに事業計画を書いてもらい、私と学生だけの関係だとこの計画が広がらないと思ったので、12月の「SHARE会議」でその事業計画を発表してもらうことにしました。

会議に集まってもらったのは、もっとこんな視点で計画を立てたほうがいいと指摘してくれ、その計画をブラッシュアップしてくれる人たちです。福祉事業の分野になるので、福祉関係者で自分で企画を立てた経験がある人や、学生にとっても初めてのことなので話しやすいように、若い人に声をかけました。会議の開催は公開しているので一般の方も参加します。そこで課題と知恵を出してもらいながら、計画を具体化させていきました。

翌年の2月には計画がかなり具体的になって借りる場所も決まり、実際に事業をやるための仲間を集めようということになりました。地域の小学校の関係者や、社会福祉協議会の人、民生委員の人などその事業に関わるだろう人や地域の人たち集めて、計画を発表しました。すると応援できることはしたい、野菜をあげる、お米をあげる、送っていくなら手伝うと、協力を申し出てくれる方がたくさん出てきました。そうやって仲間が集まり、いよいよ平成27年度から事業を始めようということになりました。

――― 寄付は順調に集まった?
初めに学生が来たときは、「割り勘」を使ってクラウドファンディングでお金を集めたいという相談でした。ですがいきなりそれをやっても学生たちには実績がないし、まだ信頼もありません。この事業は継続的なサポーターが必要になるので、実行力の担保とどんなことをやるのかというイメージが出来る必要がある。そう思っていました。
そこでまず27年度の事業を実施するため、岡山県にちょうどこの事業にマッチする補助金があったので、最初の資金としてそれを活用することにしました。学生だけでは補助金は受けられないので、倉敷で子育て支援の活動をしているNPOに会計の管理などをお願いしました。結果として、補助金の審査では応募者の中で見事1番で通りました。大学生がやる事業ということで審査員にも応援しようという気持ちがあったでしょうし、問題意識が明確だったのも良かったと思います。

そうして事業が実施できることになり、地元のメディアにも取り上げられ色々な方に知っていただきました。
「割り勘」では27年度の下半期に、「ひとりぼっちの子どもの居場所づくり事業〜倉敷トワイライトホーム〜」として目標金額60万円で寄付を募り、約71万円が集まりました。
また資金集めと並行して、事業を継続するために団体にする必要があるというアドバイスもしました。そこで大学ではサークル活動にし、顧問の先生にもついていただきました。今は2世代目が活動していて、これから3世代目に変わろうとしています。NPOにお願いしていた会計の管理もこれからは卒業生によるOBを組織化して担ってもらい、事業の運営は3、4年生がやるという仕組みにしようと考えているようです。
そうやって私たちがアドバイスをしたり、県や市の相談窓口を紹介したりしながら組織の基盤を作っています。中には卒業してもこの分野を地元で本気でやろうという学生も出てきています。
⑤「みんつく」が目指すもの
――― これからの課題とは
私たちの役割は、個々の事業の成長の段階や性格に合わせて、割り勘・冠基金・SHARE会議などを組み合わせながら気づきと機会を提供することです。これからもその発展形を追求していきます。
「割り勘」で言うと、実施している団体と寄付する人たちが直接つながらなければその先に続かないので、そのつながりをもっと強くすることが課題だと思っています。同じ問題意識を持っている人たちはもっと簡単につながっていいはずです。そうやってお金の面で安定すれば、もっと事業に集中できるようになる。そのためには私たちの発信力の強化が必要です。これまでは作った仕組みを叩く時期でした。これからはそれを使ってもらう時期なので、過去の事例や使い方の例をもっと充実させた情報を届けたいと思っています。
これまでの私たちのやり方は、やりたいことはあるけれどやり方がわからないという人に対して、たとえるなら「太鼓の関係」で、どん!と大きく叩いてくる人には私たちも大きな音で返し、そうでない人の背中は無理には押してきませんでした。しかし今「みんつく」の創生期は終えたと考えていて、もちろん予定通りにいったところもいかなかったところもありますが、最初に4年分の事業計画として考えていたものはクリアし、組織も一応安定し自分たちのサービスを提供できる状況になっています。次の4年間では、今の岡山にとって必要な事業、サービスに取り組もうとしている人の背中を押すということもやっていこうと思っています。
私はもともと土木技術者だったこともあって、インフラとしての仕組みをかなり意識して「みんつく」を作ってきました。今は「みんつく」といえば石田、と岡山の人は思ってくれるかもしれませんが、5年後には「みんつく」といえば事業を育ててくれるところ、寄付を有効に使ってくれるところと思われるようにしたい。
金融機関が社会インフラであるように、やりたいことがあったら「みんつく」へ行ってみようというふうになればいいと思います。

――― 他の地域でも「みんつく」のやり方は応用は可能か
どこの地域も新しいお金の回し方の仕組みが必要だという問題意識は共通しています。私も他の地域の仕組みを参考にはしました。ただ、やり方は自分たちに合ったものを自分たちで考えてきました。
「みんつく」の資料は参考にしてもらえるようにできるだけ公開していますが、一般化できる部分とそうでない部分があることは伝えるようにしています。そうでないと、できない部分もできると思って受け取られてしまいます。
私たちのような組織はつながりをどう作るか、ネットワーキングの力がとても重要になるので、その地域にどんな機能を持った組織や団体があるのかによって、役割が変わってくるはずです。地域で力のあるどんな人に入ってもらうかなど、メンバーの構成も地域の事情によると思います。
――― 今後の新しい展開は
もっと個人が、自分の資産を自分の使いたいことに使えるようしたいと思っています。まだ勉強会を始めた段階ですが、たとえば地域でソーシャルビジネス、コミュニティビジネスをやりたいというとき、そのスタートアップが必要とするお金を、地域の方が投資するような社会的投資の仕組みが広がればと思っています。事前に設定しておいた成果の達成度に応じて、行政が補助金などで投資した人に返す。そのときに行政が元金を保証するかどうかなど様々な議論の必要はありますが、失敗したときにお金が返ってこない可能性はあるけれど、もともと寄付的なお金の使い方だとすれば理解されると思っています。
海外ではこの仕組みは一般的になっていて、イギリスではソーシャル・インパクト・ボンドという投資商品として定着しています。日本でも出てきてはいますが、もっとローカル版の、どこどこの誰々さんが頑張るんだったらお金を出したい、という人のための仕組みにしたい。日本では寄付というと何か高尚なもののようなイメージがあるかもしれませんが、たとえば地域の信金がこうした商品を扱っているならなじみもあるし、抵抗がないということもあると思います。
そういう選択肢を増やし、地域のためにやりたいことがある人、応援したい人の接点を広げたい。個人がどれだけ満足度を得られるかは、自分の人生を自分で選択できるかということでもあると思っています。
――― 最後に。大切にしている言葉は?
『旨い酒を呑もう』です。ベストを尽くすことと、「呑もう」なので仲間を信頼すること。
仕事をするうえでは数値目標を掲げることもありますが、どれだけ数値目標を達成したとしても、自分の中では違うなと思うこともあります。私たちは終わったあとの宴を大事にしていて、毎年12月29日には「望年会」をやると決めています。1年間そのために仕事をする。その12月29日のお酒がおいしいかどうかは、自分がよくわかっています。
仲間を信頼し、全力を尽くす。そうすれば大きな価値を生めると信じています。
思いを持った個人を応援し、人と人をつなげ、豊かな地域へと発展させる。
これからも「みんつく」の取り組みが注目されます。
石田代表、ご協力ありがとうございました。

<本インタビューに関する「みんつく」へのお問い合わせ>
みんなでつくる財団おかやま Email: info@mintuku.jp

<本インタビューおよび『地方創生2.0‐先進事例のキーパーソンが語る-』に関するお問い合わせ>
新経済連盟事務局 地方創生PT担当 Email: info@jane.or.jp




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