クラウドワークス/吉田 浩一郎「コロナ危機を契機に新たな社会を構築」

コロナ危機を契機に新たな社会を構築

新経済連盟(JANE) 理事/吉田 浩一郎(株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO)

「“働く”を通して人々に笑顔を」をミッション、「働き方革命〜世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」をビジョンに掲げ、日本最大のクラウドソーシングサービスをはじめ、人材ミスマッチの解消と労働市場のアップデート事業を展開する(株)クラウドワークス。同社 代表取締役社長 兼 CEOで新経済連盟(JANE)でも働き方改革をリードする吉田 浩一郎 理事に、コロナ禍における働き方変革やJANEの役割、今後の展望などをお伺いしました。

※取材日;2020年4月23日

目次
1.コロナ危機を契機に新たな社会を構築
2.危機的状況下ではスピードと実行力が鍵
3.JANEはイノベーターが集まる組織
4.クラウドワークスではコロナ禍以前からリモートワークが主流
5.社員の自宅の“オフィス化”に向けた課題

コロナ危機を契機に新たな社会を構築

日本国内で新型コロナウイルス感染拡大が続いています。この状況に関してどのような見解をお持ちでしょうか?

私個人としましては、新型コロナウイルスは報道されている通り、100年単位で起こる感染症の一つと捉えています。昔と比べて、医療が発達しているため、これまではウイルスの脅威を強く認識することなく生活してきたのだと思います。しかし歴史を振り返ると、医療が発達していない14世紀に欧州を中心に猛威をふるったペスト(黒死病)は、5,000万人もの命を奪ったと言われ、現代においても、インフルエンザによって世界で年間約25万〜50万人(厚生労働省推計)が亡くなっているといわれています。

日本は1945年まで第二次世界大戦下にあり、それ以前も国内は天下統一まで日本人同士が争っていました。俯瞰してみると、人間の長い歴史の中で、生命の危機を感じなかった時代の方が短いわけです。

そのような死の恐怖を遠ざけるために、人類は有史以来、自然との共存から脱却し、都市を建設し外界を遮断、都市の中で宗教を中心に社会生活をコントロールしてきました。やがて文明が発達し、社会生活のコントロールの担い手は宗教から科学や医療へとシフトし、人類は合理的な世界を形成してきました。今回のコロナ禍によって、再び人類は文明の進歩のあるべき姿や方向性を問われているのだと考えています。

よって、私自身も含め、クラウドワークス社内ではコロナ禍を特別新しい出来事とは考えず、人類の歴史の中で定期的に訪れる危機と捉え、コロナ禍を受け止めて新しい社会を構築しようというスタンスです。コロナ危機に対する日本政府の対応については批判の声も少なくありませんが、私個人としては一定の評価をしています。諸外国のような厳しいロックダウン(都市封鎖)をせずとも、東京都の感染者数は横ばいもしくは僅かながら減少している現状があります。このままロックダウンせずに、経済活動と感染症対策を両立させることができれば、ロックダウンを実施していないスウェーデン同様、日本も世界において希有な事例となるでしょう。

※当日はオンラインインタビューのため、写真は過去に撮影したもの

危機的状況下ではスピードと実行力が鍵


–コロナ禍における新経済連盟(JANE)の役割について、どのようにお考えですか?

JANEは2020年4月5日(日)にコロナウイルス感染症問題を踏まえ、「緊急事態宣言も見据えた日本経済救済パッケージ施策」 (詳細はこちら)を公表しました。提案内容はコロナ防止策、コロナ問題を起因とした経済・社会的影響への手当てを柱に、ドライブスルー型PCR検査やオンライン医療提供体制の整備、消費税ゼロや営業が困難になる恐れのある事業者への支援措置、オンライン教育の実施やリモートワークの推進など、新産業の発展を推進する新しい経済団体だからこそ可能なITを活用した施策を提案しました。

この提言は、代表理事の三木谷 浩史(楽天(株) 代表取締役 会長 兼 社長)が中心となり、副代表理事の藤田 晋((株)サイバーエージェント 代表取締役 社長)をはじめ、理事や幹事が4月4日(土)の朝から晩まで議論をして、4月5日(日)の公表にこぎ着けました。土曜・日曜関係なく、チャットなどを活用しながら、日本を救うために業界トップの方々がオンラインで集まってコロナ危機に対して現実的な施策を提言することができました。理事や幹事は未だにベンチャースピリットを持っており、そのスピード感に驚くと同時に、これこそがJANEの強みだと再認識しました。

また、4月4日(土)に公表した「緊急事態宣言の一刻も早い発令を求める」提言については、短い期間にも関わらず、会員企業を中心に145社よりご賛同いただき、JANEの結束力の強さにも感銘を受けました。われわれJANEはITの戦略的な利活用を通じて社会をより良くしていこうというシンプルかつ明確な理念のもとで活動しているため、一致団結しやすいですし、それがJANEの魅力のひとつであると思っています。

JANEはイノベーターが集まる組織

–提言内容のオンライン医療体制の整備やリモートワーク推進などは、コロナ禍以前からJANEが訴え続けてきたことです。

私がクラウドワークス社内でいつも言っていることですが、「イノベーションには時間がかかるが、その変化は突然起きる」ということです。JANEは以前から遠隔医療を提唱してきましたが、今ほどは注目されていなかったと思います。それが今回のコロナ危機という大きな社会環境の変化が訪れた時に初めて社会から注目を集めるわけです。

JANEの会員はみなさんイノベーターだと思います。イノベーションが巻き起こる前から来たるべき変革に備え、準備を積み上げてきた方々ばかりです。その備えがビジネスの成功につながる要因になります。多くの人たちは、大きな変革のうねりに気づいておらず、変化が訪れた時に初めてイノベーションを認識します

JANEは政策提言をするベンチャー組織的な存在で、より良い未来の社会のために次々と新しい政策を提言するイノベーターとして活動し続けたいと考えています。

オンラインインタビューの様子

クラウドワークスではコロナ禍以前からリモートワークが主流

–コロナ感染拡大の影響でリモートワークが推進されるなど、働き方が急速に変化してきています。

当社(クラウドワークス)の話になりますが、私たちは「働き方改革」というビジョンを掲げておりまして、フルリモート・フルフレックスという形で、週5日、正社員であっても在宅で働けるよう、すでに昨年から環境整備をしてきました。この取り組みは、出産してからも在宅で働ける、家族が病気になっても安心して働けるとワーキングファザー・ワーキングマザーから非常に好評です。当社では今回のコロナ禍でも、既存の働く仕組みをそのまま利用しているだけなので、違和感なく今まで通り業務を行っています。

また、営業訪問の8割をビデオチャットに移行しオンライン化を実現、オフィスまたは自宅からの非対面営業を推進してきました。訪問に要する移動時間をクライアントへの提案など創造的な業務に充てられるので、非対面のデメリットを補う以上に有り余るメリットがあります。今回のコロナ禍においても、我々は営業スタイルを変えることなく営業目標を達成しています。

当社には2015年から開始したエンジニアやデザイナーを紹介するクラウドテックというサービスがあるのですが、5年前は営業案件のうち10割が「常駐でなければダメ」というのがお客様のニーズでした。そこでクラウドテックは、オンラインなら日本中、世界中のエンジニアから人材を探すことができるという付加価値をつけ、お客様に啓発活動を行ってきました。その結果、コロナ禍以前でも営業案件ベースでは4割がオンラインエンジニアを受け入れてくれました。現時点で9割のお客様にオンラインサービスを活用していただいており、働き方に大きな変革が起きていることを実感します。

社員の自宅の“オフィス化”に向けた課題

–営業もミーティングもテレワークで事足りるため、コロナ収束後は以前の働き方に戻る必要はないとの声もありますが。

今後は一層、I Tが活用されることになると思います。当社では2016年の時点で、例えばオフィスが恵比寿と渋谷という近距離の立地でも、直接訪問せずにテレビ会議でつないでミーティングをするのは日常でした。今後は同じビルの同じフロアにいたとしても、オンラインで仕事を進めるスタイルが活発になってくるでしょう。自宅でのリモートワークも増え、自宅がオフィス化する日も遠くはないでしょう。

こうした働き方の変化を受け、コロナ収束後の論点となりそうなことは、社員が自宅をオフィスとして活用していくうえで、会社が社員宅の光熱費などを含め居住費を一部負担していくことが求められてくることです。おそらく監査法人の視点からすると、役務がどこで行われているか、どこで提供されているか、その実態が重要なのであって、リモートワークの実態を考慮すると、社員の自宅の一部が会社のオフィス費用の一部になるのではないでしょうか。

また、どのようにすれば安心してリアルに人と会うことができるのか、ということも問われることにもなります。会社で社員が仕事をするためにソーシャルディスタンスをどのようにとるか、どんな手段を使って出社するか、どんな形式で食事会をするか、どういう条件であれば安心してイベントを開催できるか、その基準を科学的に検証し、構築する必要があるでしょう。

対面が必要なシーンは今後もなくなることはありません。オフラインの集まり方は、次のイノベーションの鍵、ベンチャービジネスのシーズとなるのではないでしょうか。そこに向けて私たちも準備を始めなければと思います。

コロナ後の社会では、生活と働くことの境目が物理的になくなってくると思います。JANEとしても、そのような社会の先進事例、モデルケースを提案していくことが今後の課題の一つだと考えます。

–コロナ危機を契機に新たな社会を構築いていくということですね。最後に、JANEへの入会を検討している方々に向けて、JANEの魅力についてお聞かせください。

日本を代表する経営トップや新しい業界の経営者の方々とダイレクトに議論ができる。これが一番の魅力です。現在もコロナ問題に関して、理事,幹事,会員企業のトップがオンラインミーティングを毎週開催していて、ITを通してより良い未来・社会を構築することを全員が本気で考え議論し、政策提言という形で実行に移しています。三木谷を代表とするJANEの実行力とスピード感を体感し、私自身、刺激を受けるところが多くあります。日本にイノベーションを巻き起こす人たちと一緒に社会を変えていきたいと思う方には是非、参画いただきたいです。

※JANE = 新経済連盟の英語表記 Japan Association of New Economyの略称 / 呼称;ジェーン

新経済連盟(JANE) 理事/吉田 浩一郎(株式会社クラウドワークス 代表取締役 社長 兼 CEO)
株式会社クラウドワークスは「“働く”を通して人々に笑顔を」をミッション、「働き方革命〜世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」をビジョンに掲げ、日本最大のクラウドソーシング「クラウドワークス」をはじめとした人材ミスマッチを解消し、労働市場をアップデートする事業を展開。2019年12月末時点での提供サービスのユーザーは332万人、クライアント数は50万社に達し、内閣府・経済産業省(以下経産省)・外務省など政府12府省を筆頭に、80以上の自治体。行政関連団体にも利用されている。 2014年に東証マザーズ上場、2015年には経産省第1回「日本ベンチャー大賞」ワークスタイル革新賞および、グッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞。

株式会社クラウドワークス  https://crowdworks.jp/

文・編集 / リエゾン株式会社 広報コンサルタント 武元智絵(たけもと・ともえ)
時事通信社、フライシュマン・ヒラードなどを経て渡豪。豪Entrepreneur Education/Diploma of Business修了。帰国後、広報コンサルティングを手掛けるリエゾン株式会社に参画し、PRプラン立案やライティングなどを担当。

リエゾン株式会社  https://www.liaison-corp.com/

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